21/10/22
暴落前にすべきこと、暴落後でも続けるべきこと
市場の動きが不穏です。日経平均株価は2021年9月に3万円を突破したのも束の間、10月には一転下落して一時2万7000円台をつけました。本稿執筆時点(2021年10月21日)には2万9000円台まで戻していたものの再び急落。3万円を回復しない展開が続いています。為替レートも9月下旬まで1ドル=110円程度でしたが、1ヶ月足らずで114円まで円安が急激に進んだかと思えば、一転して暴落し、円高に動きつつあります。
一方で、米国のNYダウは10月20日に取引時間中の最高値を更新しました。暗号資産(仮想通貨)のビットコインも史上最高値となる1ビットコイン=760万円を記録しています。原油の価格は高騰。一般に、原油価格の高騰は景気が悪化する要因になります。
こうなってくると「近く暴落が起こるのでは」などと心配してしまう人もいるでしょう。
実際、いつまでも上がり続ける相場はありません。
そこで今回は、「今後の暴落に備える方法」として、暴落が起きたときにやめてはいけないこと、暴落が起きる前にやっておきたいことをご紹介します。
お金を減らさずに増やす「コア・サテライト戦略」の実践は続ける
資産運用の考え方のひとつに「コア・サテライト戦略」があります。コア・サテライト戦略は、資産の7割〜9割を安定的に運用する「コア」、残りの1〜3割を積極的に運用する「サテライト」に分けて運用する戦略です。
●コア・サテライト戦略のイメージ
筆者作成
コアとなる資産には、現金や預貯金に加えて、安定成長・長期運用でお金を増やすことを目指す投資信託(インデックスファンド・バランスファンド)、不動産投資、金投資などが挙げられます。コア資産は、長期・積立・分散投資でコツコツと増やしていきます。特にインデックスファンド・バランスファンドでは、iDeCoやつみたてNISAを活用すると、税金を節約しながら効率よくお金を増やせます。
サテライトとなる資産には、株式投資や投資信託(アクティブファンド)、FX(外国為替証拠金取引)などが挙げられます。いずれも、コアよりリスクの高い(利益も損失も大きくなる可能性のある)投資です。しっかりとコアで資産を築きつつ、サテライトで積極的に運用することで、利益をあげようというわけです。
コア・サテライト戦略は、プロの機関投資家も採用する投資戦略です。機関投資家は、顧客から預かったお金を減らすわけにはいきません。そこで、お金を減らさずに増やすために、コアという守りの資産を作りつつ、サテライトという攻めの資産で利益を狙うのです。
こうしたコア・サテライト戦略は、もちろん個人でも真似することができます。
普段からコア・サテライト戦略を実践し、暴落があったとしても続けていくのが基本戦略となります。
【大前提】コア資産のiDeCoやつみたてNISAなど積立投資は続けよう
では、資産運用をしているときに暴落が起きたら、どうすればいいのでしょうか。
まず、大前提として覚えておいていただきたいのは、コア資産である「iDeCoやつみたてNISAなどの積立投資は続けよう」ということです。なぜなら、積立投資は、長くコツコツと続けることで、リスクを抑えて堅実にお金を増やす方法だからです。
積立投資をしていると、「ドルコスト平均法」の効果を味方につけることができます。金融商品の価格は日々上下に変動します。積立投資で「毎月いくら」などと一定額ずつ購入していくことで、金融商品の価格が安いときにはたくさん購入でき、価格が高いときには少ししか購入しないことになります。これを続けていくと、平均購入単価が下がり、再び価格が上昇したときに利益を得やすくなるのです。これがドルコスト平均法の効果です。
2000年以降の株式市場を見ても、ITバブルの崩壊(2000年)、リーマンショック(2008年)、東日本大震災(2011年)、チャイナショック(2015年)、コロナショック(2020年)など、大きな事態があったときには、市場は大暴落しました。暴落は、いつやってくるかわかりませんが、今後も起こるでしょう。しかし、それによって経済が再起不能になったかといえば、そんなこともありません。しばしば暴落が起こるのは事実ですが、再び立ち直ってきたのも事実なのです。
実際、金融庁の資料では、1985年からの20年間分散積立投資を5年間続けた場合と、20年間続けた場合とで、運用成果がどう変わるかが紹介されています。
●20年間の分散積立投資でリターンはどうなる?
著書「そのままやるだけ!お金超入門」より
分散積立投資を5年間続けた場合は、年率10%以上もの利益をあげた商品があった一方で、元本割れを起こした商品もあります。しかし、分散積立投資を20年間続けた場合の運用成果は年率2%〜8%の中に収まっており、元本割れしていないことがわかります。
もちろん、これらは過去のデータなので「今後も必ず元本割れしない」とは言い切れません。しかし、長期・積立・分散投資をすることで、元本割れのリスクを抑えることができるでしょう。特にiDeCoやつみたてNISAは、ただでさえ税金を抑えてお得に資産形成できる手段です。ですから、暴落に慌てて売ってしまったり、掛金をストップしたりせず、淡々と続けることがおすすめ。長く続けることで、暴落を乗り越えながらお金を堅実に増やせるでしょう。
今後の暴落に備えるには「守りの資産を増やす」ことが有効
iDeCoやつみたてNISAは続けるとして、そのほかの資産はどうしたらいいのでしょうか。ポイントは、守りの資産を増やすことと、暴落に負けない銘柄を選ぶことにあります。
●今後の暴落に備えるには
筆者作成
今後の暴落に備えるには、まず守りの資産を増やすことがおすすめ。具体的には、次の2つの方法があります。
●今後の暴落に備える方法1:現金比率を高める
株式など、サテライト資産を持っている場合には、一時的に売却する(手仕舞いする)ことを検討しましょう。サテライト資産は、コア資産に比べてリスクが高いため、暴落で大きく損をしてしまう可能性があります。暴落前に売っておき、資産に占める現金の比率を高めておけば、いざ暴落が起きたときのダメージを抑えることができます。
サテライト資産が値下がりしたからといって、コア資産を取り崩してサテライト資産で穴埋めしてはいけません。コア資産はあくまで長期保有で利益を得る資産ですので、値下がりしたところで売ってしまえば、その後の回復の恩恵を受けることができません。加えて、サテライト資産を買い増したところで、それが値上がりする保証はどこにもないからです。
また、暴落があったからといって、すぐに資産を買い増しすることもおすすめしません。今まさに値下がりしているという状態で「安値でそろそろ底だと思うから」と飛びつくと、そこからさらに下落して損をするかもしれません。暴落が収まり、値が戻り始めるまでは、現金比率を高めておいたほうがいいでしょう。
●今後の暴落に備える方法2:金ETFや米国債に投資する
株式市場が下落したときに、反対に上昇する資産に投資しておくと、暴落したときのダメージを抑える期待ができます。
金ETFは、現物の金(金地金)に投資するETF(上場投資信託)です。ETFは、投資信託の一種ですが、株式と同じように市場で売買できる投資信託です。金はそのものに価値があり、世界経済が不景気になったり、株式などの資産が暴落したりしたときに上昇する傾向が見られます。つまり、資産の値下がりリスクを抑える効果が期待できるのです。
世界最大の金ETFとして知られているのが、SPDRゴールド・シェアです。
・SPDRゴールド・シェア(1326)
経費率:0.40%
純資産総額:6兆3857億円
出来高:502万口
5年トータルリターン(年率):6.43%
(2021年10月21日時点)
また、米国債は文字どおり、アメリカ合衆国が発行する国債です。米国債は格付け機関による格付けが高い(S&P:AA+、ムーディーズ:Aaa)にもかかわらず、1〜2%程度の高い金利が受け取れるとあって、世界中で活発に取引されています。
米国の代表的な株価指数、S&P500と米国10年債の利回りの推移を比べてみると、どちらも右肩上がりになっています。
・S&P500と米国10年債の利回りの推移
筆者作成
金利と債券価格はシーソーの関係。株価の上昇に合わせて米国債の利回りが上がっているということは「米国債の価格は下落している」ことを表します。つまり、仮に株価が下落したときには、債券価格は上昇する、というわけです。金と同様、米国債も株価下落時のヘッジに役立つことがわかります。
株式投資を続けるなら長期で保有するための銘柄選びが大切
今後暴落があったとしても株式投資を続ける場合は、暴落に負けない強い銘柄に投資しておくことが大切です。
●銘柄選びのポイント1:好業績銘柄に投資する
暴落時には、市場全体が一時的に下落します。しかし、業績のよい「好業績銘柄」ならば、立ち直りも早く、その後の成長も見込めます。
好業績銘柄は「長期的な潮流の業界」から探しましょう。たとえば「人口」「健康」「ヘルスケア」「美容」「医療」「介護」などの問題は、今後も解決が求められる問題でしょう。これらを解決する事業を展開している会社は成長が見込めます。
また、過去5期分・予測2期分の売上高・営業利益が右肩上がりになっているかも要チェック。売上高・営業利益が両方も増えているということは、その会社の本業でしっかりと稼げ、事業を拡大できていることを表します。株価の上昇も期待できます。
こうした銘柄選び(スクリーニング)に役立つのが、東洋経済新報社から刊行されている「会社四季報」「米国会社四季報」です。ざっと全体のページを見て、条件に当てはまる銘柄を見つけたら付箋を立てていきます。そして後から、付箋を立てたページだけを見返して、どこに投資するかを決めるといいでしょう。
●銘柄選びのポイント2:連続増配銘柄に投資する
増配とは、株主が受け取れる配当金の額を増額することです。増配は、会社が成長して利益を出していないとできません。しかし、米国株や日本株には、この増配を何十年も連続して行ってきた銘柄があります。これが、連続増配銘柄です。
・米国・日本の連続増配銘柄
著書「はじめての資産運用」より
これらの銘柄も、暴落が起きたときに株価が下落します。しかし、そんなときでも会社が成長し、配当金を増やしてきたのですから、業績の安定した、強い銘柄だといえるでしょう。
もっとも、今後も増配が続くとは限りません。個別の株式だと選べないという方は、米国の連続増配株に投資するETFを買うのもおすすめです。たとえば、バンガード・米国増配株式ETF(VIG)は、米国の大型株で過去10年以上増配実績のある銘柄で構成されています。
・バンガード・米国増配株式ETF(VIG)
経費率:0.06%
純資産総額:7兆3032億円
出来高:502万口
5年トータルリターン(年率):16.71%
直近配当利回り:1.72%
(2021年10月21日時点)
まとめ
いつまでも上がり続ける市場は残念ながらありません。いつかは、また暴落することがあるでしょう。しかし、暴落があったからといって積立投資をやめてしまうことはおすすめしません。積立投資は続けながらも、守りの資産を増やし、暴落に負けない銘柄を選ぶようにしていくのがおすすめ。ぜひ投資行動に生かしてください。
今回の内容は動画でも紹介しています。よろしければご視聴ください。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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