21/06/02
企業型DCの資産は転職・退職するとどうなるのか
会社で、企業型DC(企業型確定拠出年金)に加入している人も多いかと思います。企業型DCは、会社単位で厚生年金保険に上乗せをする年金の制度です。では、企業型DCの加入者が会社を転職・退職した場合、それまでに積み立ててきた企業型DCの資産はどうなるのでしょうか。実は、転職・退職後の状況によって、いくつかのパターンがあります。今回は、その取扱いの違いについて見ていきましょう。
企業型DCって?
企業型DCの「DC」(Defined Contribution Plan)とは、日本語では「確定拠出年金」といいます。確定拠出年金は、国民年金や厚生年金保険に上乗せする年金として、個人で加入したり、会社単位で加入したりするものです。個人で加入するDCは、個人型(iDeCo:イデコ)と呼ばれています。そして、会社単位で加入するのが、企業型DCです。
厚生年金保険の適用事業所になっている会社が、要件を満たして企業型DCに加入した場合、その会社に勤務している厚生年金保険被保険者が全員その企業型DCに加入することになります。企業型DCの掛金は、全額会社が支払います。
企業型DCの掛金をどのように運用するかは、加入者個人自身が決めることになります。そのため、DCは、「加入者が自己責任でその資産を運用して、その運用結果に基づく給付を受ける年金制度」とも言われています。
企業型DC実施企業を退職したら?
では、企業型DCに加入している企業を退職した場合はどうなるのでしょうか。
DCは、たとえ退職しても、すでに支払った掛金は加入者と一緒に移転します。これを「ポータビリティ制度」といいます。つまり、転職したり退職したりしても、自分の年金資産を転職先やiDeCoなどに移して運用を続けることができるのです。これまでの資産が無駄になるようなことはないので、ご安心ください。
とはいえ、ポータビリティ制度をどのように活用できるかは、転職・退職後の状況によっていくつかのパターンに分かれます。具体的には、次のとおりです。
●転職先の企業型DCに加入し、運用を続ける
・企業型DCに加入している会社に入社した場合
新しく入社した会社に企業型DCの制度がある場合は、入社した会社の企業型DCにこれまでの掛金が引き継がれます。そのうえで、引き続き転職先の会社が掛金を出し、運用を続けることができます。
●iDeCoに加入する
・公務員や自営業者になる場合
・企業型DCのない会社に転職する場合
・退職して求職活動を行う場合
・専業主婦(夫)(国民年金の第3号被保険者)になる場合
企業型DCで退職までに積み上げた資産をiDeCoに移換することで、運用を続けることができます。
●運用指図者になる
これまでの掛金に加えて、新たな掛金を出して運用することを希望しない場合は、運用指図者になることもできます。運用指図者とは、かつてDC(企業型DCやiDeCo)に加入していたものの、現在は加入していない人のことで、これまでの掛金の運用方法の指図のみを行います。とはいえ、運用指図者になると、所得控除で税金を安くするメリットは受けられません。将来給付の額を増やしたいのであれば、iDeCoに加入するべきでしょう。
企業型DCとiDeCoの違いは?
企業型DCとiDeCoの違いはどこにあるのでしょう。主な違いは以下の通りです。
●企業型DCとiDeCoの主な違い
企業型DCは会社に各種手続きをしてもらうのに対し、iDeCoは自分が各種手続きを行います。また、企業型DCは手数料を会社が負担してくれるのに対し、iDeCoでは所定の手数料がかかります。
iDeCoのメリットは、やはり掛金が全額所得控除でき、税金が安くできる点です。現在の給料や将来の年金受給見込額などを参照し、将来に受けられる給付を想定しながら掛金を決めることができます。
iDeCoの加入者が拡大
ところで、iDeCoの加入者となれる者に「国民年金第2号被保険者」が入っています。
企業型DCを実施している会社に勤務している方は、制度上は企業型DCとiDeCoの両方に加入できます。とはいえ現状、両方に加入するのは労使合意による規約の変更が必要となっており、加入できる方は少なくなっています。
しかし、この条件は2022年10月に撤廃されるので、それ以降は、企業型DCとiDeCoの両方に加入する人が多くなるのではないかと言われています。
まとめ
企業型DCもiDeCoも、将来の年金受給額を増やしたいという方が積極的に活用することは重要です。しかも、加入者が退職や転職をしても、その後に年金資産はちゃんと引き継がれます。老後資金を用意するためにも、企業型DCやiDeCoをうまく活用してください。
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高橋孝治 年金ライター
特定社会保険労務士有資格者、ファイナンシャルプランナー、国会議員政策担当秘書有資格者、法学博士。複雑と言われる年金を分かりやすく解説することを得意としている。「年金は意外と面白いよ!」がモットー。実は本当の専門は、中国・台湾の法律、中国法務だったりする。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』ほか多数。
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