21/05/13
外国に赴任することになったら年金はどうなるのか
日本でずっと生きていくと思っていたのに、突然海外赴任を命じられることがあります。このような場合、特に気になるのは、老後の生活にも関係ある年金の取扱いでしょう。ここでは、外国に赴任することになった場合の年金について見ていきましょう。
突然の外国赴任で社会保険はどうなる?
まず、大前提として、日本の厚生年金保険適用事業所である会社と雇用関係をもったまま外国に行く場合には、日本の厚生年金適用事業所に在籍しているので、日本の厚生年金保険(さらには健康保険)には加入したままとなります。なので、会社員から見た場合には、外国に行っているからといって、年金に未加入になるということもなく、特別に考えなければいけないことはないことになります。
年金制度の二重加入を防ぐ社会保障協定
ところで、日本の国民年金も同じですが、多くの国では、その国に住所を持つ者にはその国の社会保険に加入する必要があることになります。すると、日本などの会社に在籍しながら海外赴任した会社員は、日本の厚生年金保険と現地の国民年金に相当する年金制度に二重加入することになります。一般的に、これは会社からの赴任命令によって生じるものなので、この赴任先国の国民年金に相当する年金制度の保険料は会社が全額負担することが多くなっています。
しかし、海外赴任の機会も多い現在において、このような年金制度の二重加入が生じるのは問題となっています。そこで、多くの国は社会保障協定という条約を締結しています。これは、社会保障協定締結国同士で、人の往来によって両国双方の年金制度に加入することになった場合、いずれか一方の国の年金制度に加入していればもう一方の国の年金制度には加入しなくていいという条約です。
具体的に見てみましょう。日本は2021年4月時点において、以下の20か国との社会保障協定が発効しています。
●社会保障協定が発効している20か国(発効順)
ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国
また、社会保障協定を締結したものの、まだ発効していない国にはイタリア、スウェーデン、フィンランドがあります。
これらの国に5年以内の見込みで赴任する場合は、あらかじめ届出をすることによって、赴任国の年金制度に加入することが免除されます(国によっては社会保障協定の内容に応じて、健康保険や、国民年金、雇用保険にも適用があります)。
そして、5年を超える見込みで赴任する場合には、日本の厚生年金保険の資格は喪失し、赴任国の国民年金に相当する年金制度のみに加入することになります。この場合、赴任国の年金加入期間も、日本の年金加入期間とみなされます(ただし、年金額には反映されません)。このように、外国の年金制度に加入していた期間を、日本の年金加入期間とみなすことを「期間通算」といいます。
期間通算されても、日本の年金額には反映されないと述べました。しかし、この場合、赴任国の年金にも期間通算がされます。
例えば、アメリカの年金制度は10年加入していないと老齢年金がもらえませんが、6年アメリカに赴任しアメリカの年金保険料を支払ったうえで、20歳から60歳までの40年間のうちアメリカに赴任していた6年間を除いた34年間は日本の年金制度の加入期間があったとします。
すると、まず34年分の金額の老齢年金が日本の制度から受給できます。そのうえ、日本の保険加入期間もアメリカの年金制度に反映され、合計でアメリカの年金にも40年間加入していたとみなされるため、アメリカの老齢年金も受給できることになります(ただし、金額は6年分です)。
なお、イギリス、韓国、中国との社会保障協定にはこのような期間通算の規定がありません。
扶養されている配偶者の年金が変わることも
海外赴任が決定したら、会社は、赴任国と日本が社会保障協定を締結しているのか、締結していたとしてどのような規定となっているのか(健康保険を含むのか、期間通算はあるのかなど)を確認します。そして、社会保障協定を締結していた場合には、赴任に合わせて会社が「社会保障協定厚生年金保険適用証明書」に関する手続きを行います。
これによって年金の二重加入を防止できます。
では社会保障協定を締結していない国に赴任する場合にはどうすればいいのでしょうか。この場合、赴任国でも年金加入の要件を満たしていれば、日本の厚生年金保険に加入しているからといって赴任国での年金加入が免除されるわけではないので、二重加入をするしかなくなります。
もっとも、国によってはその国の国籍がないと年金加入の要件を満たさない場合があるので、社会保障協定未締結国に赴任するからといって、必ず赴任国の年金制度に加入しなければならないわけではありません。
また、海外赴任が決まった方の配偶者はどうなるのでしょうか。
それまで国民年金第3号被保険者(厚生年金保険加入者の被扶養配偶者)となっていた方は、厚生年金保険加入者が5年以下の赴任予定で日本の厚生年金保険に加入したままの場合、そのまま国民年金保険料が免除される国民年金第3号被保険者となります。
問題は、配偶者が日本の厚生年金保険から抜けることになる5年超の見込みで赴任する場合です。この場合、「厚生年金保険加入者の被扶養配偶者」ではなくなるので、国民年金第1号被保険者となる必要があります。つまり、新たに国民年金保険料を支払う必要が出てくるというわけです。
なお、配偶者の海外赴任に同行する場合、日本に住所がなくなるので、国民年金第1号被保険者になるかは任意となります。
赴任国の年金制度に加入しない場合とは?
ところで、海外赴任をしても、赴任国の年金制度には加入せず、日本の年金制度のみに加入し続けることになる場合があります。それは、治外法権が適用される場合です。
治外法権が適用される場合というのは、外国にある日本国大使館もしくは領事館に勤務する場合です。大使館や領事館というと関係ないと思う方もいるかもしれません。しかし、実は外国にある日本の大使館・領事館は日本の民間企業からの出向者も多数勤務していますし、契約社員扱いで大使館・領事館勤務の募集も多数出ています。こうしたところに勤務する場合は、引き続き日本の年金制度のみに加入し続けます。
まとめ
社会保障協定が各国と締結されたことにより、海外赴任をする場合の社会保険関係は便利になりました。しかし、かえって煩雑になり、専門知識がないと分かりにくくなってしまったことも否めません。
ポイントになるのは、日本と赴任国との間に社会保障協定があるのかどうかです。また、扶養している配偶者がいる場合は、年金の変更手続きや保険料の支払いが必要になることもありますので、会社や年金事務所でよく確認することをおすすめします。
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高橋孝治 年金ライター
特定社会保険労務士有資格者、ファイナンシャルプランナー、国会議員政策担当秘書有資格者、法学博士。複雑と言われる年金を分かりやすく解説することを得意としている。「年金は意外と面白いよ!」がモットー。実は本当の専門は、中国・台湾の法律、中国法務だったりする。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』ほか多数。
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