20/12/15
年収1000万円超でも私立高校無償化の対象に? 判定基準は年収ではなかった
高校の授業料を支援してくれる高等学校等就学支援金制度の目安となる年収は910万円未満となっています。そのため、年収が1,000万円以上なら支援は受けられないと思われているかもしれません。ましてや私立高校の場合、年収要件はさらに厳しくなるため、支援を受けるのは到底無理だと考える方も少なくないのではないでしょうか。しかし、実際は違っていました。
なんと、年収1,000万円を超えていても授業料の支援を受けられるケースがあるのです。
そこで今回は、高校の授業料を支援してくれる制度についてご紹介します。
高校の授業料を支援してくれる就学支援金制度
義務教育の期間中は、公立校に通えば授業料の負担はありませんでした。しかし、高校になると私立だけでなく公立でも授業料の支払いが必要になり、家庭での負担が増えてしまいます。そこで国は、高校に通う子どものいる家庭の経済的負担を軽減するため、2010年に「高等学校等就学支援金制度」を創設しました。その内容は、公立私立に関係なく公立高校の授業料に相当する118,800円が助成され、私立高校については低所得世帯に対し所得に応じた割合を助成するというものでした。
しかし、高等学校等就学支援金制度には2014年4月から所得制限が設けられました。118,800円の助成は、年収が約910万円未満の世帯でないと受けられなくなったのです。それでも公立高校に通う多くの家庭では授業料が実質無償となるため、家計を助ける有意義な制度となっていました。けれども、私立高校は公立に比べて授業料が高額なため、118,800円の助成を受けても、家計への負担は残ったままだったのです。
そんななか、2017年から私立高校の授業料助成が大幅に拡充されました。世帯年収が約590万円未満の世帯に対して授業料の助成が段階的に増額されたのです。これで、私立高校に通う家庭の負担が軽減されました。私立高校の授業料に対する助成はこれにとどまらず、2020年4月からは制度が改正されました。家庭への支援額がさらに増額となり、私立高校の授業料が実質無償化となったのです。
制度改正による助成は以下の通りです。(いずれも全日制の場合)
●公立・私立のどちらの場合にも適用
高等学校等就学支援金 助成額:118,800円(年収目安は910万円未満)
●私立高校に通う家庭への支援
私立高校授業料実質無料化 助成額:396,000円(年収目安は590万円未満)
支援の判定基準は年収ではなかった!?
高等学校等就学支援金と私立高校授業料の実質無償化を受けられるかどうかは、いちおう目安となる年収が設定されています。しかし、これはあくまでも目安です。実際には、家族構成と共働き世帯か専業主婦(夫)世帯かによって助成が受けられるかどうかが決まるのです。その判定基準となるのは「住民税の課税標準額(課税所得額)」です。
くわしい判定方法は以下の通りです。2020年4月~6月と7月以降では判定基準が異なっているのでご注意ください。
●2020年4月~6月の場合
都道府県民税所得割額と市町村民税所得割額の合算額で判定します。共働き世帯の場合は、夫婦2人の合計額となります。
これにより、所得割額の合算額が257,500円未満であれば、私立高校授業料の助成として最大396,000円が支給されます。
また、所得割額の合算額が257,500円以上507,000円未満であれば、高等学校等就学支援金118,800円が支給されます。
●2020年7月以降
7月からは、新しい判定基準が採用されることとなりました。その内容は、以下の計算式によって求められた額(共働き世帯の場合は、夫婦2人の合計額)によって判定されます。
・判定基準の計算式
【課税標準額(課税所得額)×6% - 市町村民税の調整控除の額】
※政令指定都市の場合は「調整控除の額」に3/4を乗じて計算
課税標準額とは、住民税の計算の基礎となる金額です。この計算式で求められた額が154,500円未満であれば、私立高校授業料の助成として最大396,000円が支給されます。
また、154,500円以上304,200円未満であれば、高等学校等就学支援金118,800円が支給されます。
住民税の所得割額は、収入から給与所得控除や必要経費のほか、配偶者控除や扶養控除などの各種控除を差し引いた課税標準額(課税所得額)に税率を掛けて計算されます。そのため、住民税の所得割額を基準とする高等学校等就学支援金や私立高校授業料の実質無償化の判定では、単に年収ではなく、夫婦の働き方や家族構成に影響されるようになったのです。
参考として、支援金を受けられる場合の目安となる年収をご紹介します。
●支援金を受けられる年収の目安
※出典:文部科学省「私立高校授業料実質無償化」リーフレットより筆者が作成
このように年収に置き換えてみると、共働き世帯の場合は、年収が1,000万円を超えていても118,800円の支援金を受けられるケースがあることがわかります。1,000万円を超えているからとあきらめてしまわずに、課税標準額をチェックしてみてくださいね。
制度の対象になれるかどうかのカギとなる「控除」の活用
高等学校等就学支援金と私立高校授業料の実質無償化は、2020年7月からは住民税の課税標準額(課税所得額)が判断基準となっているとご紹介しました。課税標準額は、年収から給与所得控除や必要経費を差し引いた合計所得金額から、さらに各種控除を差し引いて計算されます。これはつまり、合計所得金額から差し引くことのできる「控除」を活用すれば課税所得を抑えられるということ。その際活用できるのが、iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型確定拠出年金のマッチング拠出です。
●iDeCoを活用すれば所得が下がる
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、掛金が全額所得控除となります。その対象となるのが「小規模企業共済等掛金控除」です。iDeCoに加入していれば、掛金の金額分、課税所得を抑えることができます。
●企業型確定拠出年金のマッチング拠出を活用する
お勤めの会社で企業型確定拠出年金を利用している場合で、掛金を上乗せする「マッチング拠出」をしている方は、マッチング拠出している金額の全額が「小規模企業共済等掛金控除」の対象となります。つまり、マッチング拠出の掛金分、課税所得を抑えられるということです。ただし、マッチング拠出制度を採用している企業にお勤めの場合のみ利用できるものなので注意しましょう。
●ふるさと納税は活用できない?
課税所得を抑える方法として、寄付金控除の活用があります。これは、ふるさと納税をすることで課税所得を下げるというもの。この方法は、所得割額が採用されていたときは活用することができました。しかし、2020年7月からの課税所得を元にした新しい基準判定方式では活用できなくなってしまったのです。なぜなら、新しい判定基準方式では、反映されるのが所得控除のものだけだからです。
住民税の所得控除には、社会保険料控除、医療費控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除、雑損控除、寡婦(夫)控除などがあります。しかし残念ながら、寄付金控除は住民税の所得控除ではなく税額控除で差し引かれるため、今回の就学支援金では反映されないのです。この点はご注意くださいね。
まとめ
年収1,000万円を超えていても、高校の授業料の支援が受けられる可能性があることをご紹介しました。私立高校授業料の実質無償化や就学支援金の判定基準で利用される住民税の「課税標準額(課税所得額)」は、住民税決定通知書や課税証明書で確認できます。また、マイナンバーカードをお持ちの方は、政府運営のオンラインサービス「マイナポータル」でもチェックすることができますので活用してみましょう。
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前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。
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