20/08/16
タダで株主優待がもらえる「クロス取引」とは? 注意点についても解説
株主優待を目的に株を保有する方も多いですが、その株主優待を通常よりもおトクにもらえる「クロス取引」をご存じでしょうか?聞いたことはあるけど、「イマイチ仕組みがわからない」という方にその魅力と注意点を解説します。
株主優待で怖いのは「権利落ち日」
株主優待を受け取るには、権利確定日の2営業日前の「権利付最終日」までに株を購入、保有している必要があります。
優待目当てで買っている投資家が、翌日の権利落ち日に株を売ってしまうと、株価が下落する傾向があり、評価損を抱えてしまうリスクがあります。
例えば、2月末・8月末が権利確定日のコメダホールディングス(3543)の、2019年8月末の株価を見てみます。同社の株主優待では、1,000円相当の自社電子マネーをもらうことができます。
8月28日の権利確定日の高値は1,991円、終値は1,969円でした。しかし、翌日の権利落ち日(8月29日)に、売買高がふくらみ、大きく株価が下落しているのがわかります。仮に、権利付最終日の8月28日の高値1,991円で100株を現物で購入し、翌営業日29日に安値1,932円で売却した場合、マイナス5,900円の評価損になってしまいます。
株主優待がおトクにもらえる「クロス取引」
こんなときに利用したいのが「クロス取引」です。クロス取引では、現物買いと信用売りで同じ株数を同時に取引することで、条件によってはおトクに株主優待が受け取れるのです。
信用売りとは、信用取引の売買手法のひとつです。株を持っていない状態から売り、安くなったところで買い戻すことでその差額が利益になります。株を借りて売るという仕組みのため貸株料(金利)がかかります。
なお、信用売りをするためには、信用取引の口座を開設する必要があります。信用取引の口座の開設基準は証券会社によって異なりますが、現物株取引の経験が1年程度あることや、一定の金融資産があることなどが条件となっています。
●クロス取引の具体的な手順
1.寄付前までに、現物買いと信用売りを同じ株数成行で注文する。
2.権利落ち日である翌日に、現渡(買い戻しするのではなく、保有している現物株で決済をする方法)をする。
買いと売りが同じ株価で約定しているので、株価がどう上下しても評価損益が相殺されます。ですから、現渡決済をすることによって、手数料などのコストだけで優待が受け取れるのです。
たとえば、松井証券でコメダホールディングスのクロス取引を行った場合のコストは、以下の通りです。
・現物買い手数料 0円(税込)
・信用売り手数料 0円(税込)
・貸株料(金利)2.0% 1,991円×2.0%×4日÷365日=43円
・合計43円
現物のみで取引するより5857円もおトクに優待が獲得できるのです。
松井証券の取引手数料は、50万円までは無料のため、コストは金利のみです(2020年8月現在)。
なお、以下の表のように、金利のかかる期間は、現物の受渡し日(約定日の2営業日後)の8月30日から9月2日(返済約定日の2営業日後)の4日間分となります。土日も日数にカウントされます。
クロス取引の注意点
しかし、この「クロス取引」には注意点もあります。具体的には以下の5つです。
1.長期保有株主限定の優待はもらえない
例えばカゴメ(2811)は6ヵ月以上継続して保有している株主に100株で2,000円相当の自社商品が贈呈されます。このような長期保有株主を優遇する株主優待は、クロス取引ではもらうことができません。権利付最終日前までに6ヵ月以上保有していた株を全て売却してしまって、権利付き最終日に再度購入しても長期保有の対象外となってしまいます。
2.配当金はもらえない
取引した企業から「配当金計算書」が届くので勘違いしがちですが、クロス取引では、配当金はもらえません。信用売りの分で「配当落調整金」が発生し、配当分が証券口座から引き落とされています。「特定口座(源泉徴収あり)」にしている場合、現物の配当金は、約20%の税金を引かれて入金されるのに対して、「配当落調整金」は税金分も引かれて、譲渡損として扱われます。
3.仮装取引に該当する場合も
買いの注文と売りの注文の約定を繰り返し、取引を活発に行っていることを見せかけることを目的としたクロス取引は「仮装取引」と言い法律で禁止されています。また取引時間中に行うクロス取引は、価格形成に影響を与える可能性が高く、仮装取引と判断される可能性があります。注文は寄付前に済ませましょう。
4.「逆日歩」がかかる
クロス取引におけるコストで、特に注意したいコストが「逆日歩」です。
信用売りが多く発生すると、証券会社が貸し出せる株が無くなってしまいます。そこで証券会社が、機関投資家から株を調達します。そのコストを「逆日歩」と言います。逆日歩は、信用売りをした投資家が負担します。
信用売りは、「制度信用取引」と「一般信用取引」の取引方法があります。このうち、逆日歩は「制度信用取引」のみにかかります。ですから、権利付最終日は、優待クロスのための空売りをする人が多くなるので逆日歩が発生しやすくなり、金額も高くなりがちです。また逆日歩は、約定日の翌日にならないとわからないので、思わぬ高額な金額が発生して、優待金額以上のコストがかかってしまうこともあるのです。なお逆日歩は金利と同じ期間のコストがかかります。
5.一般信用取引の取扱銘柄は証券会社によって異なる
「一般信用取引」は、証券会社が機関投資家からは株を借りず、独自に株を借りてくるため、逆日歩は発生しませんので、比較的低コストで優待が獲得しやすいと言えます。しかし、「一般信用取引」は、各証券会社によって取り扱い銘柄が違うことと、在庫に限りがあるので、早めに確認しておく必要もあります。
まとめ
優待クロスは、わずかなコストで株主優待が受け取れるおトクな取引です。権利落ち日の株価下落リスクだけでなく、優待廃止や損失の拡大など、優待目的で保有していると巻き込まれるリスクも回避できることもメリットです。注意点をよく理解したうえで取引しましょう。
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かたやま りえ 2級ファイナンシャル・プランニング技能士、AFP
FP取得と第3子出産をきっかけに始めた株式投資で、お金の教養の必要性を感じ、会社員からフリーに。株式投資、お金の教養、子育て中の働き方などのブログを複数運営しています。
「お金の教養があればより豊かに楽しく暮らせる」という思いを込めて執筆を中心に活動しています。
twitter→@rieyumekanaco
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