20/03/07
介護保険料が大幅値上げ。年収300万円、400万円、500万円の人でも年1万円前後増える
2020年2月、日本経済新聞が1面大見出しで「介護保険料4月大幅値上げ 年1万円以上の負担増大企業続出」と報じました。
この報道では、「大企業が設置する健康保険組合(健保組合)に加入する従業員のうち、40歳以上の人が支払う介護保険料が2020年4月から引き上げられ、年収が高い人に多く支払ってもらう仕組みが全面施行されること」と、それにより「年1万円を超える負担増になる人が続出する」という内容が書かれていました。
この「年収が高い人に多く支払ってもらう仕組み」とはいったい何なのでしょうか。年収300万円、400万円、500万円の人の負担はどうなるのかという視点で、介護保険料の負担ルールを解説していきます。
「介護保険」は介護を社会全体で支える仕組みとしてスタートした制度。
「介護保険」は、高齢で介護が必要となった人を社会全体で支える仕組みです。高齢化や核家族化が進み、親の介護を理由に仕事を離れなければならない「介護離職」が社会問題になったことから、2000年に創設されました。40歳以上になると介護保険への加入が義務付けられます。親の世代が介護を必要とする可能性が高まるため、毎月納めている健康保険料に介護保険料を上乗せする形で、介護保険に加入するのです。この介護保険料は、会社員であれば、労使折半という形で会社と従業員が半分ずつ負担しています。
介護保険料は過去20年間、どんどん引き上げられ続けてきました。そして団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる“2025年問題”を控えた今、さらに追い打ちをかけるように負担が増加するというのです。
急速な高齢化で費用が年々増加
介護サービスにかかる費用の財源は、半分は税金、もう半分は40歳以上の人が支払う保険料(会社負担分も含む)でほとんどまかなわれています。
しかし、急激な高齢化で要介護認定者やサービス受給者が大幅に増加。介護サービスにかかる費用(介護費)も年々増加しています。
厚生労働省によると、介護保険制度が始まった2000年度の介護費は約3.6兆円でした。それが、2014年度で10兆円と3倍以上に膨れ上がり、2030年度には20兆円にまで達すると見られています。財政状況がますます厳しいものとなることが、今回の介護保険料値上げの背景です。
●介護費用と保険料の推移
介護保険料の「総報酬割」、2020年度に全面導入へ
では、40~64歳の現役世代が支払う介護保険料についてもう少し詳しく解説しましょう。
現役世代の介護保険料は加入する医療保険の運営者を通じて納めています。運営者ごとの負担は以前まで、被保険者数に応じた「人数割」できめていました。分かりやすく言い換えると、加入する医療保険ごとに40~64歳の人の人数で「割り勘」して介護保険料を負担していたということです。
しかしながら、この制度は所得水準が低い医療保険の加入者ほど負担感が大きく、同じ報酬を得ていても加入している医療保険で負担額が違いました。そこで、政府は現役世代の介護保険料を算定する際の手法を、被保険者の収入総額に応じた「総報酬割」に切り替えようと、2017年8月分から3年かけて段階的な移行を実施しています。
段階的な移行とするのは、保険料の急激な負担増を避けるためです。以下のように全体の3分の1、2分の1、4分の3とステップを踏み、2020年度には全面的に導入しようというわけです。冒頭で触れた「年収が高い人に多く支払ってもらう仕組み」とはこの「総報酬割」のことを指します。取れるところから取ってなんとか介護保険制度を維持しようというわけです。
●「総報酬割」の導入スケジュール
年収300万円、400万円、500万円の人の負担はどうなる?
このように「総報酬割」は、個々の負担能力が色濃く反映されるようになるのが特徴です。つまり、2020年度以降の「総報酬割」全面導入で、比較的所得の高い大企業が属する健康保険組合ほど料率が大幅にアップするということになります。
大企業などの約1400の健保組合が加入する健康保険組合連合会(東京・港)全体の介護保険料率は、2019年度の1.57%から、2020年度は1.78%まで+0.21%上がる見込みです。たとえば、テレビ朝日健康保険組合は1.2%から1.9%へ(+0.70%)、高島屋健康保険組合では1.53%から2.0%(+0.47%)へと大幅なアップです。これに対し、多くの中小企業が加入する協会けんぽでは、1.73%から1.79%(+0.06%)と微増となっています。
どの健康保険に加入しているかによって保険料率が変わってきますが、ここでは、皆さんが40歳以上で介護保険の加入者だとして、介護保険料率が1.5%から2%となった場合の負担額の変化を年収別に見てみましょう。
●介護保険料率が1.5%から2%となった場合の負担額(年額)の変化
今回の新聞報道では、年収600万や1000万のケースが例として取り上げられていましたが、年収300万~500万の方でも1万円近くの負担増となるケースがありそうです。ただし、ご自身が加入する健康保険組合によって金額は変わってきますので、上記金額は参考までにとどめ、実際の金額はご自身の4月支給(3月分)の給与明細で確認するのが、一番確実で手っ取り早い方法です。加入する健康保険組合の保険料率は、組合のホームページや定期的に発行する広報誌などでも確認することができます。
まとめ
40歳以上で加入する介護保険は、一生つきあう保険なので、保険料の仕組みもしっかりと把握しておきたいものですね。消費税の増税によって増える税収が社会保障費に充てられると約束されているとはいえ、社会背景やこれまでの流れを見ても、今後も介護保険料の増額は避けられることはないでしょう。
介護保険料などの社会保険料は自分でコントロールすることは難しいため、40歳以上の方は2020年4月から手元に残るお金がさらに少なくなることを踏まえて自分の資産構成を見直し、少しでもお金を減らさないための資産防衛術を身につけておきましょう。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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