25/02/11
生活保護ならば「年収123万円の壁」よりも税金がかからないのは本当?
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2025年税制改正大綱によって、所得税がかかりはじめる「年収の壁」が103万円から123万円に引き上げられます。背景には働く人の手取り増や企業の労働力不足の解消、インフレへの対応などがあります。
一方、所得控除とは違う制度の生活保護では、一定以下の収入であれば経済的支援が行われます。では、生活保護を受けて生活するのと年収123万円の壁を超えずに働くのとでは、どちらが税金が少なくて済むのでしょうか。今回は、所得税の控除と生活保護制度を比較して、今後の収入の壁の在り方を考えていきます。
2025年から所得税の控除額が改正
「103万円の壁」とは、年収が103万円までならば、所得税がかからない(103万円を超えると所得税がかかる)というボーダーラインのことを指します。ところが、物価の上昇や賃金を上げていく取り組みが背景になって、所得税の課税対象になる年収を123万円に引き上げる税制改正が行われました。所得税控除の内訳は、従来の基礎控除に10万円上乗せした58万円、従来の給与所得控除に10万円上乗せした65万円に改正されました。
<年収の壁が103万円から123万円に>
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筆者作成
所得控除は、収入から最低生活費を課税対象から除くことによって、税金を納める力がないところには課税しないという考え方が根底にあります。税制改正大綱には「178万円をめざして、来年から控除額を引き上げる」という合意内容が盛り込まれています。物価の上昇率を基準にするのか、最低賃金の上昇率を基準するのかで、非課税になる枠が異なるので、今後の政策の行方が気になるところです。一方、地方税では税収確保の問題から、基礎控除は据置の48万円、給与所得控除は65万円になっています。
生活保護でもらえる金額はいくら?
次に、生活保護の制度を見ていきましょう。生活保護は、お金に困っている人を経済的に支援するための国の救済制度です。一定の収入以下の場合、要件を満たせば生活保護費を受給することができます。生活保護の金額は一律ではなく、世帯の人数に応じて加算があります。また、生活保護は働いていても毎月の収入が最低生活費より低い人は受給できます。
生活保護でもらえる金額は、居住している地域で異なります。級地制度といって、物価や地域ごとに異なる生活水準を反映させるため、日本全地域を6つの級地に区分して最低生活費を計算します。その他、年齢、身体の状態などでも若干の最低生活費の金額は変わります。
たとえば、東京都内(1級地)の一人暮らしの生活保護を受給する条件としては、世帯全体の収入が最低生活費である月13万円より少ないことがあげられます。1年間で考えてみると、世帯年収が13万円×12か月で156万円になります。もし収入がゼロであれば、月13万円、年156万円がもらえるということです。仮に世帯収入が月8万円だった場合、差額の5万円が生活保護でもらえる金額になります。
加えて、生活保護には次のような加算があります。
【加算の例】
・児童養育加算
・妊産婦加算
・母子加算(母子家庭の場合)
・障害者加算(身体障害者等級が1~3級の場合)
・介護施設入所者加算
再確認したい年収の壁
生活保護では、国民年金保険料、国民健康保険料、介護保険料、住民税や所得税、固定資産税などの税金の支払いが免除されます。つまり、1級地の一人暮らしの場合の生活保護費受給者なら、年間156万円の収入までは非課税になるわけです。
今回の税制改正で123万円までの収入が非課税になったからといって、働く時間が増やせると単純に喜んではいられません。123万円の壁を超えると税金が発生するのに対し、生活保護では、年収156万円までは税金がかからないからです。つまり、働いている人よりも生活保護の人のほうが「収入が多いのに税金がかからない」ことになるのです。
世帯収入が年156万円以下なら生活保護を受給でき、非課税というのなら、所得税の非課税枠も156万円程度でなければおかしいといえます。いずれ「178万円」に引き上げられればこの逆転現象は解消されますが、現時点でその道筋は立っていません。
年収の壁の問題は、働き方や家族の多様化も含め、税金だけではなく、社会保険制度全体のしくみも見直す時期に差し掛かっているといえます。
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池田 幸代 株式会社ブリエ 代表取締役 本気の家計プロ®
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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