25/01/20
夫婦の年金を最大化する5つの戦略
多くの人が心配する老後資金。定年後の生活に困ることがないよう、今のうちから年金の受給額を増やすための戦略を考えておきたいですね。そこで今回は、夫婦が受け取る年金を最大化するための5つの戦略を紹介するとともに、配偶者に先立たれたときの年金受給額の変化もお伝えします。もし利用できそうな方法があれば、実行してみてはいかがでしょうか。
夫婦の年金を増やす戦略1:夫も妻も働いて年金を増やす
私たちは国民年金に10年以上加入すると、65歳から「老齢基礎年金」を受け取ることができます。そして、20歳から60歳まで40年間加入し続けていると、満額の老齢基礎年金を受け取れます。
また、企業に勤めて厚生年金に加入し、なおかつ老齢基礎年金の受給資格を満たしていると、65歳から「老齢厚生年金」を受け取ることができます。
このように、誰もが受給要件を満たせば老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取れるのですから、夫婦が共に働けば、その分受け取れる老齢年金を増やすことができるのです。では、老齢年金の受け取り額がどれくらい変わるのか、「専業主婦世帯」「会社員経歴のある専業主婦世帯」「共働き世帯」で見てみましょう(なお、以下は「専業主夫」のパターンでも断りのない限り同様ですが、ここでは便宜上「専業主婦」としています)。
<世帯タイプ別の年金収入(2023年度のモデルケースによる試算例)>
厚生労働省「令和6年度の年金額改定について」を参考に筆者作成
受け取る年金を月額に換算してみると、専業主婦世帯は夫婦で受け取れる老齢年金は月額23万483円、妻が7年間会社員だった経歴のある世帯は月額23万9652円、夫も妻も同等に働いた世帯は月額32万4966円です。このように、完全な専業主婦世帯よりも、妻に厚生年金の加入歴がある世帯のほうが受け取れる年金は多くなります。
妻が働く場合、社会保険料の負担で手取りが減るのを避けるために、106万円の壁や130万円の壁を気にする人も少なくありません。確かに、妻が自分の社会保険料を負担するようになると夫の扶養から外れるので、収入が減ることもあるでしょう。けれども、妻自身が厚生年金保険料を払うということは、将来の老齢年金を積み増しできるということ。夫婦が共働きをすることで、年金生活に入ってからの年金収入を増やせる点は留意しておきたいですね。
夫婦の年金を増やす戦略2:配偶者に先立たれたとき年金がどう変化するかを知る
人は年齢を重ねるごとに身体の機能が低下して、病気になりやすくなるかもしれません。場合によっては、夫婦のどちらかが先に亡くなってしまうこともあるでしょう。もし配偶者に先立たれた場合、年金の受給額にはどのような影響が出るのでしょうか?
結論からいうと、18歳未満の子どもがいなければ、亡くなった人の老齢基礎年金にあたる部分は受給できません。そして、夫に先立たれた妻は、夫の厚生年金の一部を遺族厚生年金として受け取ることができますが、妻に先立たれた夫の場合は、年収が850万円未満でないと遺族厚生年金を受け取ることはできません。それに、収入要件をクリアしたとしても、遺族厚生年金は55歳以上でないと受給対象とはならず、60歳までは支給停止になってしまいます。夫と妻とでは、遺族厚生年金の受給に大きな差ができてしまうのです。
そこで、具体的に配偶者が先立ってしまった場合の年金額の変化を試算してみました。ここでは、最初の章でご紹介した「専業主婦世帯」「会社員経歴のある専業主婦世帯」「共働き世帯」の3タイプを比較します。
<配偶者に先立たれた場合の年金収入月額の変化>
厚生労働省「令和6年度の年金額改定について」を参考に筆者作成
遺族厚生年金は、配偶者の老齢厚生年金にあたる部分は4分の3に減額されます。また、自身に厚生年金の加入歴がある場合は、遺族厚生年金の受給額から自身が受け取る老齢厚生年金の受給額が差し引かれるので注意が必要です。
上記の表で見ると、専業主婦の場合は「夫の老齢厚生年金の4分の3+自身の老齢基礎年金」を受給できます。しかし、厚生年金の加入歴のある妻を持つ夫の場合は、遺族厚生年金から自身の老齢厚生年金を差し引くため、遺族厚生年金は調整されます。つまり、配偶者よりも老齢厚生年金の受給額が多くなる場合は、遺族厚生年金を受け取れなくなる場合もあるということです。
今回、試算をしてわかったことは、配偶者に先立たれた場合、年金収入が夫婦2人の場合に比べると大幅に減ってしまうということです。どの夫婦もいつかは1人になる日がやって来ます。そんなときに備えて、年金収入を補てんできる貯蓄は用意しておきたいものです。
ただし、ここで1つ留意しておきたいことがあります。それは、2024年7月30日の社会保障審議会年金部会にて遺族厚生年金の見直しが提案されていることです。見直し案として、60歳未満の子がいない夫婦の場合、性別にかかわらず遺族厚生年金を5年間のみの支給とすることが検討されています。
現行の遺族厚生年金には男女差があります。30歳未満の子のない女性は5年間しか遺族厚生年金を受け取れません。また、男性も55歳以上でないと遺族厚生年金を受け取れず、なおかつ55歳から59歳の間は支給停止となります。
検討されている改正案では、このような男女差を廃止して60歳未満は5年の有期給付とし、40歳から64歳の妻に支給されてきた中高齢寡婦加算も段階的に廃止するようです。また、年収850万円以上の人は遺族厚生年金を受け取れないという収入要件を廃止することも検討されています。
今後、政府は時間をかけて見直し案の内容を検討していきます。この見直し案を踏まえると、遺族年金は老後資金の一部としてあまり期待できないかもしれません。夫も妻も自分の老後資金をどのように準備してくか、それぞれがしっかりと考え、準備を進めておいたほうがよいでしょう。
夫婦の年金を増やす戦略3:年金の繰り下げ受給を利用する
老齢基礎年金と老齢厚生年金は、66歳から75歳までの間に受給開始年齢を繰り下げることができます。月単位での繰り下げとなり、1ヶ月につき0.7%増額となります。
◎増額率(%)=繰り下げ月数×0.7%
そして、75歳まで繰り下げると最大84%増額できます。
では、実際にどれくらい増額となるのか、老齢基礎年金の場合で見てみましょう。
<老齢基礎年金を繰り下げた場合の年金額>
厚生労働省「令和6年度の年金額改定について」より筆者作成
2023年度の老齢基礎年金の満額は81万6000円となりますが、これを75歳まで受給開始年齢を繰り下げると、150万1440円に増額となります。
一度繰り下げをすると、繰り下げ開始時の増額率は固定されます。たとえば75歳まで繰り下げると、その後の年金は生涯にわたって84%増額されるということ。こうすることで年金収入を増やすことができるのです。
また、老齢基礎年金と老齢厚生年金を一緒に繰り下げ請求するだけでなく、老齢基礎年金のみ、あるいは老齢厚生年金のみの繰り下げも可能です。夫婦のうち、どちらかの老齢年金をすべて繰り下げる、あるいは夫婦2人の老齢基礎年金だけを繰り下げするなど、家計状況に応じてアレンジするとよいでしょう。
夫婦の年金を増やす戦略4:加給年金を活用する
加給年金とは、厚生年金加入期間が20年以上ある人(受給者)が65歳になったとき、生計を共にする年下の配偶者がいる場合に支給される年金です。
加給年金は、配偶者が65歳になるまで受け取ることができます。加給年金の金額は年額23万4800円(2024年度)ですが、誕生日に応じて特別加算が付きます。
今回の例では、生年月日が昭和18年4月2日以後の夫には、17万3300円の特別加算額が付き、合計40万8100円(2024年度)の加給年金を受給できるのです。ただし、妻が厚生年金に20年以上加入している場合や妻の年収が850万円以上の場合、加給年金は支給停止となります。
1つ注意したいのは、加給年金を受給できる夫が老齢厚生年金を繰り下げ受給した場合、加給年金は支給停止となってしまう点です。加給年金の対象者となる夫が繰り下げ受給をするときは、老齢基礎年金のみにしておくのがよいでしょう。
夫婦の年金を増やす戦略5:夫婦でiDeCoに取り組む
もしかしたら年金だけでは老後の生活費が足りなくなるおそれがあります。そこで、できるだけ早いうちから年金を補てんするための準備が重要になります。その際、活用できるのが「iDeCo」です。
iDeCoは老後資金を準備するための私的年金で、運用して得られる利益は非課税になり、受け取る老齢給付金にも税制優遇があります。また、掛金全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)になるので、加入中も所得税や住民税を軽減できます。
このようなメリットを得られるiDeCoを夫婦で加入することで老後資金をしっかりと補てんでき、ゆとりのある生活も可能になってくるでしょう。
2024年12月20日に閣議決定された令和7年度税制改正大綱には、iDeCoの掛金の増額が盛り込まれています。
自営業者やフリーランスなど国民年金の第1号被保険者は月額掛金の上限が国民年金基金とあわせて68,000円となっていましたが、これが月額75,000円に引き上げられます。
また、会社員や公務員などの第2号被保険者は、これまでは企業年金の有無や企業年金の種類で月額掛金の上限が異なっていましたが、今回の改正では企業年金の有無や種類による違いが解消されて月額掛金の上限が一本化月額62,000円に引き上げられます。つまり、iDeCoは掛金の上限が撤廃されて、別に加入する企業年金の月額掛金とあわせて62,000円まで積み立てられるようになります。場合によっては、改正前よりもiDeCoの掛金を増やせるかもしれません。
さらに、iDeCoの加入年齢も「65歳未満」から「70歳未満」まで引き上げられる予定です。これまでは60歳以降もiDeCoで掛金を積み立てられるのは厚生年金の加入者と国民年金の任意加入者に限られていました。しかし、今回の改正ではiDeCoの加入者になれない人のうち、iDeCoに加入していた人や運用指図者だった人、企業年金からiDeCoに移管できる人も、老齢基礎年金やiDeCoの老齢給付金を受給していなければ制度の対象者となり、掛金を積み立てられるようになります。
ただし会社員の場合、iDeCoを退職金よりも先に一時金で受け取るときは注意したいことがあります。それは、制度改正によって退職所得控除の4年ルールが9年ルールに延長となる点です。
以前の4年ルールの場合、たとえば60歳でiDeCoを一時金で受け取り、4年以内に退職金を一時金で受け取ると、iDeCoの加入期間と会社の勤続年数が重複する年数分、退職所得控除が減らされていました。その4年ルールが9年に延長されるのです。たとえば60歳でiDeCoの一時金で受け取る場合、退職金を10年空けた70歳で受け取る形にしないと、退職所得控除が減ってしまうことになります。SNSなどでは、iDeCoの10年後に退職金をもらうなど現実的ではないという批判の声もあります。
逆に先に退職金を一時金で受け取り、後からiDeCoを一時金で受け取る場合、今度は退職所得控除の19年ルールで重複期間分、退職金の退職所得控除が減らされてしまいます。この場合、55歳で退職金を一時金で受け取り、20年空けてiDeCoを75歳で受け取る形にしないと、満額の退職所得控除を受けられないことになります。ますます現実的ではありませんね。
iDeCoの改正で長く加入できるようになりますが、通常、iDeCoを受け取る時期と退職金を受け取る時期は近くなる場合が多いので、期間が重複する分の退職所得控除が差し引かれる点は留意しておいたほうがよいでしょう。
夫婦の年金額を増やすことを考えよう
今回は、妻が働いたり、年金を繰り下げ受給したり、あるいは夫婦でiDeCoに取り組んで年金収入を増やす方法をご紹介しました。収入が増えるのはうれしいことですが、反面、納める所得税や住民税、国民年金保険料、介護保険料が増える可能性もあります。とはいえ、増えた収入よりも税金・社会保険料のほうが多くなる、ということはありません。老後に向けて、夫婦の年金額を増やすことをぜひ考えてみてください。
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前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。
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