24/08/26
退職後の「5つの支払い」テキトーに済ますと大損確定
会社に勤めている間は、社会保険料や税金の支払いをあまり意識していないでしょう。毎月の給与明細を見て、引かれている金額を見る程度ではないかと思います。しかし、会社を辞めた場合はそうはいきません。間を空けずに新しい勤め先に勤務するのであればあまり心配ありませんが、退職から再就職までの期間が空く場合、自分自身で年金や保険などの手続きが必要になります。
今回は、退職後にやってくる気をつけたい「5つの支払い」をご紹介します。面倒だからといって、そのまま放置してしまうと、あとあと大変なことになる可能性もありますので、そのようなことにならないようしっかりと事前準備を進めておきましょう。
退職後の支払い1:退職後の健康保険料は国民健康保険に切り替わる
会社員として働いているときは、会社から健康保険証の支給を受けているケースがほとんどかと思います。会社を辞めると、この健康保険証は返却することになります。
その後、退職から再就職までの期間に病院を受診する際には、新たな健康保険証が必要になりますので、会社を退職した場合、原則として住んでいる市町村の役所の窓口で手続きをして、国民健康保険に加入することになります(任意継続制度を利用できる場合もあります)。
国民健康保険料は、前年度の収入や住んでいる自治体により保険料が変わってきますので、会社勤めの頃に払っていた健康保険料よりも金額が上がるかどうかは一概には言えません。ですが、会社の健康保険に加入する場合は、健康保険料を会社が半額負担してくれるのに対し、国民健康保険料は全額が自己負担となるため、これまで払っていた会社の健康保険料よりも多くなる可能性は高いです。
また、扶養家族がいる場合は、さらに国民健康保険の負担が重くなる傾向があります。その理由は、会社の健康保険は扶養者分の保険料の上乗せがなく、加入者1名分の保険料で扶養家族の保険料も納めたものとみなされるのに対し、国民健康保険には扶養という概念がなく、社会保険では扶養家族とできる専業主婦・子などについても、加入者の人数分だけ月々の保険料が発生するためです。そのため世帯年収が高く、加入人数が多いほど、国民健康保険の保険料は高くなる傾向があるのです。
もし国民健康保険の負担増が気になる場合は、会社を退職した後も、元の会社の健康保険に最大2年間加入することができる任意継続被保険者制度を検討してみましょう。ただし、元の会社の健康保険に加入できるといっても、任意継続では元の会社による半額負担はなくなるため、これまでの2倍の金額の保険料を自分で払うことになる点は注意しておきましょう。
また、この任意継続ですが、2022年1月施行の健康保険法改正で、本人の希望によりいつでも資格喪失できるようになりました。というのも、改正前の任意継続は「原則2年間は資格喪失ができず、保険料も原則2年間変わらない」という制度だったので、任意継続か国民健康保険を選ぶ際、2年分の保険料を試算し比較する必要がありました。しかしながら、先の状況は不透明な部分も多いため、この任意継続の2年間の縛りのせいでどちらが安いかを一概に比較するのは困難でした。
しかし改正後は、例えば、「退職後最初の1年間は任意継続、2年目から国保の保険料が安くなるので国保に切り替える」といった選択ができるようになりました。会社を辞めた後に低収入の状態が続くと2年目の国民健康保険料はかなり安くなります。その安くなるタイミングで任意継続から国保に切り替えるのが合理的な選択といえるでしょう。
国民健康保険への加入が良いか元の会社の任意継続制度を利用するのが良いかの選択は、収入の状況や住んでいる自治体の保険料率によっても変わってくるため、役所の国民健康保険の相談窓口に自分の保険料がどのくらいかを問い合わせた上でどちらにするかを選択するのが良いでしょう。
ただし、元の会社の任意継続被保険者制度を利用する場合には、退職日の翌日から20日以内に健康保険組合または全国健康保険協会支部に退職者本人が提出しなければ加入することはできません。万が一、この期限を過ぎてしまうと任意継続を選びたくても加入ができないため、退職前から健康保険をどちらにするかは事前に考えておくとよいでしょう。
国民健康保険に切り替える場合には、退職した日の翌日から14日以内に必要書類を持参して、お住まいの市区町村(国民健康保険担当課)で国民健康保険の加入手続きを行います。ただ、もし、国民健康保険の加入手続きを放置して加入が遅れたとしても、その間の保険料は払わなくてもよいわけではなく、国民健康保険は退職日の翌日までさかのぼって加入し、その分の保険料もしっかり請求されることになります。このようなことにならないよう、健康保険の切り替え手続きは、期限内に行うようにしましょう。
退職後の支払い2:退職後の年金は国民年金に切り替わり、夫婦合わせて負担増
会社に雇用されている場合は、厚生年金保険に加入していた方がほとんどだと思います。厚生年金保険は保険料率が18.3%と一定ですが、収入によって支払う金額は変わります。例えば標準報酬月額30万円だとすると、その18.3%は54,900円ですが、この場合も会社が半額を負担してくれているため、本人負担分は27,450円です。
退職後も再就職まで期間が空く場合、国民年金保険に切り替わることになりますが、国民年金保険の保険料は1ヶ月当たりの保険料は16,980円(2024年度)で定額です。しかし、配偶者が専業主婦(夫、以下は専業主婦・妻として記載します)の家庭の場合、妻の国民年金保険料が新たな負担としてのしかかることも注意が必要です。
会社員の妻は公的年金制度でいう「第3号被保険者」となり直接保険料の負担をしなくても、65歳以降は自営業者やフリーランスと同じ老齢厚生年金が受給できます。しかし、妻自身が60歳に達する前に夫が会社員を辞めてしまうと、自分で国民年金に加入して、保険料を負担する必要がでてくるのです。前述した通り、国民年金保険の保険料は1ヶ月当たりの保険料は16,980円(2024年度)で定額ですので、夫婦2人合わせて33,960円となります。夫婦2人分で合わせて考えると負担が増えてしまいます。
さらに、厚生年金は将来年金を受給する際に、報酬に比例した分の上乗せを受けることができますが、国民年金は上乗せの部分がありません。そのため、特に会社員と専業主婦の夫婦においては毎月の保険料負担は少なく、将来の年金も増やせるという点で厚生年金に加入できていたほうが将来的にはお得といえるでしょう。
また、厚生年金から国民年金に切り替える手続きは、自分で厚生年金から国民年金に切り替える手続きをしなければならないことに注意しましょう。
手続きをする場所は、市役所や区役所の「保険年金課」です。退職日を証明できる書類(退職証明書、離職票、健康保険喪失証明書など)と年金手帳を持っていきましょう。この時、扶養に入っている配偶者がいる場合は、配偶者の年金手帳も一緒に持参します。
国民年金への切り替えを忘れると、日本年金機構から加入し忘れを知らせる届出書が送付されます。また、納付期限切れから2年を超えると、未納期間の年金保険料を後から納付できません。未納は年金受給額の減少につながるので、早急に切り替え手続きを進めましょう。
退職後の支払い3:退職後の住民税は後払いシステム
住民税は前年の所得に対してかかる税金です。会社員時代は毎月の給与から天引きされるため、あまり意識していない方が多い税金のひとつですが、退職した後は自分で納める必要があるため、その金額に驚かれる方も多いようです。
会社を退職する方についての住民税の納付方法は、転職先に就業するまでの期間が開いているかどうか、あるいは退職日が新たな年度に切り替わる6月より前か後かによって「転職先で特別徴収を継続する」「一括徴収」「普通徴収」の3つの方法で住民税を徴収することになります。すでに転職先が決まっている場合の住民税の納付方法は「特別徴収」の継続となるのであまり問題はないのですが、「転職先がまだ見つかっていない」、あるいは「次の会社で働き始めるまでに期間が空いてしまう」というように再就職まで一定期間がある場合は住民税の納付方法は「一括徴収」「普通徴収」のどちらかになります。
退職時にどちらがよいか会社から聞かれる場合もあります。住民税は6月で新たな年度に切り替わるため、退職日が6月より前なのか後なのかで、住民税の残額も変わってきますので、もし残額が少ないのであれば「一括徴収」、残額が多く残っているのであれば、分割納付が可能な「普通徴収」を選ぶとよいでしょう。
退職し、住民税を自分で納める場合、前年の所得に対してまとめて請求されることが多いため、一度に納める金額がさらに高額な印象を受けてしまうことも負担増とみられる要因のひとつに考えられます。
退職前からご自身の給与明細をよく見ておけばおおよそどのくらいの金額が必要か見当はつくはずですので、納税資金のためのお金は計画的に積み立てておくなどして、生活資金とは別にしっかりと確保して準備しておけば慌てることにはならないでしょう。
退職後の支払い4:退職金は勤続年数によって控除額が変わる
退職後に受け取る退職金は、長年の勤続の成果として期待される一方で、その控除額が勤続年数によって大きく変わるため、注意が必要です。
退職金には「退職所得控除」という特別な控除制度があります。この控除額は、勤続年数が長ければ長いほど増加する仕組みになっており、具体的には勤続年数が20年以下の場合、1年あたり40万円の控除が適用されます。しかし、勤続年数が20年を超えると、1年あたりの控除額は70万円に引き上げられます。
[退職所得控除額の計算式]
勤続年数が20年以下の場合:
退職所得控除額 = 40万円 × 勤続年数
勤続年数が20年を超える場合:
退職所得控除額 = 800万円 + 70万円 × (勤続年数 - 20年)
例えば、勤続年数が15年の人が500万円の退職金を受け取る場合、退職所得控除額は以下の通り計算されます。
退職所得控除額 = 40万円 × 15年 = 600万円
この場合、500万円の退職金全額が退職所得控除内に収まるため、課税所得は0円となり、税金は発生しません。
しかし、もし勤続年数が10年で、退職金が1,000万円だった場合、控除額は次のように計算されます。
退職所得控除額 = 40万円 × 10年 = 400万円
この場合、課税対象となる退職所得は以下の通りです。
課税対象退職所得 = (退職金1,000万円 - 退職所得控除額400万円) ÷ 2 = 300万円
この300万円に対して所得税と住民税が課せられるため、税負担が発生します。
一方、勤続年数が25年で同じ1,000万円の退職金を受け取る場合は
退職所得控除額 = 800万円 + 70万円 × (25年 - 20年) = 800万円 + 350万円 = 1,150万円
ですので、退職金1,000万円は全額退職所得控除額の範囲内に収まり、課税所得は0円となります。
これらの計算からわかるように、勤続年数が長ければ長いほど、控除額が増え、税負担が軽減される仕組みです。退職金に税金がかかるのか、かかるとすればどのくらいなのかを事前に確認しておきましょう。
●退職金の受け取り方にも注意
退職金の受け取り方にも注意が必要です。例えば、一時金として全額を受け取る場合、退職所得控除の対象となり、税金の負担が軽減されますが、分割して受け取ると、退職金が年金として扱われ、通常の所得税がかかるうえ、退職所得控除も利用できないので、税負担が増える可能性があります。
したがって、退職金の受け取り方を検討する際には、税金の計算方法や自分の勤続年数、退職金額を考慮し、事前にしっかりとシミュレーションを行うことが重要です。
退職後の支払い5:ふるさと納税の上限額が少なくなる
ふるさと納税は、自己負担2,000円でさまざまな返礼品が受け取れる人気の制度ですが、退職後はこの自己負担2,000円で済む寄付金額(上限額)が大幅に減少する可能性があります。これは、ふるさと納税の控除額がその年の所得税や住民税の負担額に基づいて決まるためです。
ふるさと納税の上限額は、年間の所得や扶養親族の数等に応じて決定されます。そのため、退職によって所得税や住民税が減少すると、この上限額も少なくなります。
退職後は、退職前と比べて収入が大幅に減少するため、ふるさと納税の上限額も大きく制限されることを意識する必要があります。特に、年金収入のみが主な所得源となる場合、ふるさと納税の恩恵を享受する機会が限られるため、退職前に寄付可能額のシミュレーションを行い、計画的にふるさと納税を利用することが重要です。上限額を超えて寄付をすることもできますが、超えた分は自己負担になります。退職前と同じ感覚で寄付をすると、思わぬ支出増になってしまうかもしれません。
退職後の支払いに気を配ろう
退職前と退職後では、社会保険や税金の扱いが大きく変わるため、退職後の収入減少に伴い、これまで以上に情報のアンテナを張ることが重要です。退職前に制度の仕組みや将来の税負担をしっかりと理解し、計画的に対策を講じることが必要です。適切な情報収集と準備が、退職後の金銭的負担を軽減し、生活や家計の安定に繋がることでしょう。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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