24/05/23
定年後の仕事は「64歳11カ月で退職がベスト」は本当?
企業は従業員の希望があれば65歳まで雇用を継続することが義務づけられています。また、改正高年齢者雇用安定法によって、70歳までの就業確保を講じる努力義務が課されています。
定年後も長く働ける環境は整っているとはいえますが、肝心の給与はと言うと、平均給与は50代をピークに減少し、60代後半以降は年収300万円以下で働く人が大半です。働き方にはさまざまな形がありますが、定年後どんな働き方をするのか、どのタイミングで辞めるのかを早めに考えておくべきでしょう。
今回は、定年後の仕事は「64歳11カ月で退職するのがベスト」が本当なのか、一緒に確認していきます。
定年後の働き方で多いのは再雇用・再就職
定年後の働き方には、
・同じ会社で再び雇用される「再雇用」
・別の会社に就職する「再就職」
・会社に属せず働く「業務委託」
・新しく事業を始める「個人事業主・起業」
などがあります。
このなかで、もっとも多いのは再雇用・再就職です。
ただ、内閣府「令和5年版高齢社会白書」によると、55~59歳時点では約11%(男性)・約59%(女性)だった非正規社員の割合が60代を境に急増し、65~69歳では約68%(男性)・約84%(女性)に増加。再雇用・再就職の多くは非正規社員です。
業務委託ならば、委託された業務を期日までにこなせばいいので、自分の好きな時間・場所・仕事で稼ぐことができます。ただし、再雇用・再就職と違って収入は安定しません。よくも悪くも自分の裁量・責任が問われます。
また、個人事業主でいるより法人化したほうが節税できるといって、開業する人もいます。生涯現役で働き続ける「定年起業」も増えています。しかし、業務委託同様、仕事がなくて収入が安定しないこともあります。
定年退職しても失業手当が受けられる
雇用保険に加入している人が退職すると、失業手当(雇用保険の失業等給付の基本手当)がもらえます。
具体的には、
①就業したいという意思がある
②いつでも就職できる能力・環境がある
③就職できていない
④積極的に求職活動をしている
という条件を満たし、失業の状態にあると認められた人がもらえる手当です。
ですから、
・家事や家業をするため就職できない
・再就職が決まっている
・病気などで今すぐ働けない
・定年退職後、しばらく休養する
といった人は、もらえません。
失業手当の対象となるのは、65歳未満までです。65歳以上の場合には、失業手当ではなく「高年齢求職者給付金」がもらえます。
失業時の給付を最大化するなら、「64歳11カ月で退職がベスト」
失業手当と高年齢求職者給付金の違いは、次のとおりです。
<失業手当と高年齢求職者給付金>
著書『1日1分読むだけで身につく老後のお金大全100』(自由国民社)より
失業手当と高年齢求職者給付金では、給付金額に大きな違いがあります。1日あたりの給付金額はそれほど大きく変わりませんが、失業手当は最長150日分受け取れるのに対し、高年齢求職者給付金は30日または50日分しか受け取れません。
たとえば、賃金日額が1万円の60代前半の人が失業手当(150日)を受け取る場合と、60代後半の人が高年齢求職者給付金(50日)を受け取る場合を比べると、
【失業手当の場合】
基本手当日額5,020円×150日=75万3,000円
【高年齢求職者給付金の場合】
基本手当日額6,036円×50日=30万1,800円
総額で45万円以上の差がついてしまいます。つまり、失業手当を受け取ったほうが有利なのです。
失業手当を受け取るには、65歳になるまでに退職すればいいのですが、特別支給の老齢厚生年金をもらう場合や、老齢年金の繰り上げ受給をする場合には、失業手当の手続きをすると老齢年金の支給が停止されてしまいます。したがって、失業時の給付を最大化するなら、「64歳11カ月」で退職するのがベストタイミングです。
ただし、法律では誕生日の前日に年齢が上がるルール。「64歳で退職した」とするなら誕生日の前々日までに退職しないといけない点に注意しましょう。
また、会社によっては65歳を待たずに退職することで退職金や賞与が少なくなってしまうことがあるので、そうした規定がないか、事前に会社に確認しておきましょう。
なお、高年齢求職者給付金にもメリットはあります。
●高年齢求職者給付金は失業の認定が1回で済む
失業手当をもらう場合は、4週間に1度ハローワークに行き、失業の状態であることを認定してもらう必要があります。しかし、高年齢求職者給付金は一時金なので、失業の認定も1回で済みます。
●高年齢求職者給付金はまとめてもらえる
高年齢求職者給付金は、30日または50日分を一時金でまとめてもらえます。それに対して、失業手当は28日(4週間)分ずつです。
●高年齢求職者給付金は年金と一緒にもらえる
高年齢求職者給付金は年金と一緒にもらえます。一方、失業手当は年金と一緒にもらうことができません。失業手当をもらうと、繰り上げ受給した老齢厚生年金や特別支給の老齢厚生年金など、65歳までの間にもらえる年金は支給停止になります。
高年齢求職者給付金は、失業手当に比べて給付日数が少ないことは少々残念かもしれません。しかし、一時金でまとまった額がもらえる、年金と一緒にもらえるなど、求職中の収入を補うのに役立つ制度といえます。
公共職業訓練を受ければ失業手当を長く受け取れる
再就職のためにスキルアップしたい場合に役立つのが職業訓練です。失業手当を受給している人は、公共職業訓練を受けることができます。 公共職業訓練の訓練コースはさまざまあります。
<公共職業訓練の訓練コースと関連資格の例>
公共職業訓練のリーフレットより
訓練では資格に関連する知識の習得を目指します。資格の受験は任意ですが、資格を取ることができればさらに再就職にも役立つでしょう。
公共職業訓練の受講期間はおおむね3カ月から2年となっています。受講料は無料(別途教材費など、実費負担あり)。自費で専門学校に通うより費用負担が少なくて済みます。
しかも、公共職業訓練を受けると次のようなメリットもあります。
●失業手当の受給期間が延長できる
公共職業訓練の受講中に失業手当の受給期間が終了しても、公共職業訓練を受けている間は、その訓練終了日まで失業手当の支給が延長されます。延長された日数分だけ、もらえる失業手当も増えますので、より安心して公共職業訓練を受けることができます。
●各種手当がもらえる
公共職業訓練を受けると、次のような手当ももらえます。
・受講手当:公共職業訓練を受けることでもらえる手当
1日500円(上限2万円)
・通所手当:公共職業訓練施設への交通費
最高4万2500円
・寄宿手当:公共職業訓練を受けるために家族と別居する場合に支給される手当
月額1万700円
なお、失業手当の受給期間の残りが一定期間(原則3分の1にあたる日数)を下回ると、公共職業訓練を受けることができないことには注意が必要です。
65歳以上で雇用保険に加入できる「マルチジョブホルダー制度」
複数の事業所に勤務する65歳以上の労働者が雇用保険に加入できる制度に「マルチジョブホルダー制度」があります。
かつては、雇用保険に加入するには、主に働いている勤め先で「1週間の所定労働時間が20時間以上」「31日以上の雇用見込み」がある必要がありました。
マルチジョブホルダー制度では、
・65歳以上で、2つ以上の事業所に雇用されている
・複数の事業所での1週間の所定労働時間が合計20時間以上
・雇用見込みが31日以上
の条件を満たしていれば、雇用保険に加入できるようになっています。
複数の事業所で働く人でも雇用保険に加入しやすくなります。また、一定の要件を満たせば、失業後には高年齢求職者給付金の受け取りができるようになります。
なお、マルチジョブホルダー制度の利用手続きは労働者本人がハローワークに「雇用被保険者資格取得届」を提出して行います。
「64歳11カ月退職」は、退職金や賞与の減額も含めて考える
仕事を64歳11カ月でやめるのと65歳でやめるのでは、雇用保険からもらえるお金が失業手当なのか高年齢求職者給付金なのかの違いがあることを紹介しました。雇用保険からもらえる金額の面で見れば、失業手当のほうが多くなります。
つまり、65歳くらいで元の仕事を辞めて、違う仕事に就こうと考えているならば、64歳11カ月がベストタイミングだということです。なお、失業給付は休職活動をしていないと給付を受けられません。
ただし、64歳11カ月がよい時期となるのは、失業時の給付だけを考えた場合です。会社によっては、65歳より前に退職することで、退職金や賞与が少なくなってしまう可能性もあります。その点をよく確認して退職日を検討してください。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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