24/02/24
年金の確定申告はやらなくても損をしないのか
老齢年金は課税対象となる「雑所得」に分類されるため確定申告が必要です。しかし、老齢年金をもらう高齢者すべてが確定申告の対象になる訳ではありません。というのも、「確定申告不要制度」に該当すれば、確定申告をしなくてもよいことになっているからです。
ただし、確定申告不要制度に該当する方の中でも、医療費控除や生命保険料控除などの控除の対象となる支出がある場合は、確定申告をすることで還付金が受け取れる場合があります。確定申告の手続きそのものは面倒かもしれませんが、できるならばやらないと損となる場合があります。
確定申告不要制度とは?
確定申告不要制度とは、年金受給者が確定申告にかかる手間を減らすための制度です。
次の条件に当てはまる年金受給者は、確定申告を行う必要がありません。
●確定申告不要制度の条件
①公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下であり、かつ、その公的年金等の全部が源泉徴収の対象となる
②公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下である
<確定申告不要制度>
政府広報オンラインより
確定申告不要制度の対象者でも確定申告が必要な場合とは?
先述した、「確定申告不要制度」の対象の方でも、たとえば次のような控除がある場合は、確定申告をすれば所得税が還付になる可能性があります。
・医療費控除
・セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)
・社会保険料控除
・生命保険料控除
・地震保険控除
・ふるさと納税
・雑損控除
このうち「医療費控除」と「生命保険料控除」を利用して確定申告をしたタナカさん(仮名・68歳)の例をご紹介します。
「わざわざ確定申告をするメリットがあるの?」と感じたタナカさんの事例とは
タナカさんの公的年金等の収入金額の合計額は400万円以下。確定申告不要制度に該当するため、基本的に確定申告は必要ありません。しかし、医療費控除と生命保険料控除を利用すれば所得税が還付になるので、毎年確定申告をしています。
医療費控除とは、1月1日~12月31日まで、本人あるいは一緒に暮らす家族のための医療費を支払った場合、一定金額の控除を受けられる所得控除です(最高200万円まで)。
医療費控除を受けるには、医療費の領収書から「医療費控除の明細書」を作成して、確定申告書に添付する必要があります。
また、生命保険料控除とは、生命保険料や介護医療保険料、個人年金保険料を支払っている納税者に適用される所得控除です。生命保険料控除を受けるためには、一般的に生命保険会社から秋頃に郵送されてくる「生命保険料控除証明書」の提出が必要です。
タナカさんは、「医療費控除の明細書」と「生命保険料控除証明書」を準備して、確定申告書を記入しました。確定申告は年に1回ということもあり、書類の作成に手間がかかります。なんとか書類を作成して税務署に行くと、うんざりするほどの長蛇の列。3時間も並んで手続きを済ませることができました。
タナカさんは、手続を終えてホッとしましたが、1ヶ月半後、銀行で通帳をみてがっかりしました。というのは、記帳された所得税の還付金がたった9000円だったからです。
「あんなに面倒な手続きをして、たった9000円…。やるメリットあるの?」と感じたそうです。
使える所得控除がある方は確定申告をしよう
確かに、慣れない作業をしたうえ、3時間も並んで手続きをした見返りであれば、もっと多くてもよいのでは?と感じてしまうのは仕方がないことかもしれません。しかし、ここは別の視点で9000円を眺めてみると、違った気づきが得られます。
●9000円が数十年続いたら?
還付金の9000円は、1年だけであれば少ないかもしれません。しかし、生命保険控除も医療費控除も、今後、継続的に発生すると考えられます。
タナカさんは現在68歳ですが、仮にこの先20年間、2つの所得控除を受けることになれば18万円にもなります。まとまった金額といえるのではないでしょうか。
●メガバンクの1年定期預金の利息と比べてみたら?
メガバンクの1年定期預金の利率は0.002%なので、100万円を銀行に1年預けてもらえる利息は税引き後で16円です(2024年2月時点)。
メガバンクの1年定期預金の利息16円と、還付金の9000円を比べると、約563倍にもなります。
また、9000円あれば、1回800円ぐらいのスーパー銭湯に年間11回も行き、プチ贅沢を味わうこともできるでしょう。
1年だけで考えれば「たった数千円…」と思いますが、長期的な視点で考えたり、何かと比較してみたりすれば、メリットをより大きく感じられるはずです。
このように、医療費を多く支払っている、生命保険に加入しているなどの場合は、たとえ還付金が少なくても確定申告を行った方がいいでしょう。
確定申告書の作成と提出方法
確定申告書を提出する場合、タナカさんのように所轄の税務署へ直接提出する方法もありますが、パソコンやスマホから簡単に手続きができる「e-Tax」を利用するという方法もあります。e-Taxを利用する際は、「医療費控除の明細書」や「生命保険料控除の証明書」などの原本書類の提出・提示が省略できます(ただし、証明書や領収書などは確定申告期限等から5年間自宅等で保存する必要があります)。
原則、e-Taxを利用するには、利用者識別番号(半角16桁の番号)が必要です。しかし、お手元にマイナンバーカードがあれば「マイナンバーカード方式」によるログインが可能。利用者識別番号を取得しなくても、マイナンバーカードを読み取り、利用者証明用電子証明書の暗証番号(数字4桁)を入力することでe-Taxにログインできます。
年金生活者でも確定申告して還付を受けよう
今年からタナカさんは、スマホでの「e-Tax」の確定申告にチャレンジしてみるそうです。
タナカさんが利用した「医療費控除」と「生命保険料控除」以外の所得控除が該当する方も、確定申告をして、所得税を還付してもらいましょう。
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舟本美子 ファイナンシャルプランナー
「大事なお金の価値観を見つけるサポーター」
会計事務所で10年、保険代理店や外資系の保険会社で営業職として14年働いたのち、FPとして独立。あなたに合ったお金との付き合い方を伝え、心豊かに暮らすための情報を発信します。3匹の保護猫と暮らしています。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。FP Cafe登録パートナー
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