23/11/10
「持ち家世帯は年金月10万円で暮らせる」は本当なのか
よく家計調査のデータをもとにした「老後の1か月の収入・支出」が紹介されていることがあります。そして「持ち家でない場合は家賃がかかり続ける」と説明されます。
確かに賃貸住宅であれば、毎月家賃がかかり続けるため、1か月あたり10万円ほどの年金で生活していくのは苦しいかもしれません。では、持ち家であれば、月10万円の年金で暮らしていけるのでしょうか?
今回は、家計調査の消費支出の実態を参考にしながら、持ち家の人が年金10万円だった場合、どのくらい資金が不足するのか試算してみます。さらに、不足した資金の補い方もご紹介します。
持ち家を前提に65歳以上の生活を考えた場合、月3万円の赤字になる
まずは、老後にかかる生活費の目安を総務省の「家計調査報告(令和4年)」で確認してみましょう。
●65歳以上単身無職世帯の家計収支
総務省「家計調査報告(令和4年)」より
65歳以上の単身無職世帯の1か月の消費支出の平均は、14万3139円です。消費支出の内訳には、上の図のように「食料」「高熱・水道」「住居」「家具・家事用品」「被服及び履物」「保健医療」「交通・通信」「教養娯楽」「その他消費支出」があります。そして、住居にかかる費用はそのうちの8.9%、1万2746円となっています。
仮に、持ち家で住居費がまったくかからなかったとすると、毎月の生活費は「14万3139円-1万2746円=13万393円」になります。したがって、毎月の年金が10万円とすれば、毎月約3万円、年間36万円が赤字ということになります。
●たとえ「持ち家」でも住居費はかかる
年金10万円なら毎月3万円なので、暮らしていくのは難しいかもしれません。しかし、年金額の平均(厚生年金+基礎年金)は14万3965円(厚生労働省年金局「令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」より)です。もし年金額がこの平均だとしたら、収支は黒字になります。
しかし、ここではわかりやすくするために「住居:1万2746円」を消費支出から外しましたが、実際は持ち家であっても住居費はかかります。たとえば、次のようなものがあります。
【バリアフリー化のためのリフォーム】
高齢になれば、手すりやスロープを設置する、段差をなくす、トイレや風呂場の扉を引き戸にするなど、バリアフリー化する必要があります。もし、要支援・介護認定が下りれば、いくらか補助金が出ます。とはいえ、家全体を住みやすく手入れするとなれば、補助金だけではとうていまかないきれません。家の状況やリフォームの内容によっては、数百万円単位の費用がかかる場合もあります。
【修繕費】
築年数によっては、屋根の補修、外壁工事が必要になることもあるでしょう。また、トイレ、風呂場、キッチンなどの水回りは、15~20年ごとに修繕が必要になるといわれています。さらに、電気温水器も耐用年数は10年ほど…と考えると、相当な額を準備しておく必要がありそうです。また、災害による損傷を受ければ突発的な支出があるかもしれません。
【火災保険・固定資産税】
火災は、家が火事になったとき、災害にあって損傷したとき、地震が起きて倒壊したときなどを補償する保険です。
持ち家の方であれば、ほとんどの方が加入しています。家の大きさ、構造によって保険料が決まりますが、きちんとした補償を得るには年間10万円以上を支払っている人もいます。また、土地や家屋および償却資産などの固定資産には固定資産税がかかります。税額は、固定資産税評価額(課税標準額)に税率1.4%を乗じて計算します。
このように、持ち家に住むときはさまざまな費用がかかります。もし、持ち家に住めば、賃貸のような費用がかからないと思っていると、後から「困った…」ということになります。持ち家に住んでいる人は、家の中、外を早いうちに点検して、修繕が必要になりそうな部分をチェックしておきましょう。
持ち家にまつわる費用を補うためには
持ち家にまつわるさまざまな費用をご紹介しました。もしかしたら「こんなにいろんな費用がかかると思わなかった」という人が中にいるかもしれません。まずは、どんな費用がかかるか把握できた次の段階として、今後どうするかを考えましょう。
持ち家にまつわる費用を補うには、以下の4つの方法があります。
●持ち家にまつわる費用を補うための方法1:老後を想定して節約生活を開始する
持ち家にまつわる費用は、思った以上にかかる場合が多くあり、計画的な準備を必要とします。先々を考え、早いうちから年金だけの生活を想定して節約生活を開始しましょう。まずは、固定費(通信費、保険料、住宅費、水道光熱費、駐車場代、サブスクの定期購入代、スポーツジム会費など)で削減できるものがないかチェックしましょう。
固定費は一度見直せば、削減効果が高く、継続性もあります。今月は通信費、来月は保険料など、1個ずつ見直せば、1年後は月々の固定費が減り、スッキリするはずですし、現役のうちから節約したことで貯金が増えます。
●持ち家にまつわる費用を補うための方法2:私的年金で年金の上乗せを準備する
私的年金とは、公的年金の上乗せ部分を自分で準備する仕組みです。
たとえばiDeCoは自分で出した掛金を運用して老後の年金を作る制度です。60歳以降国民年金に加入する場合(会社員・公務員・国民年金の任意加入者)は65歳未満まで掛金を出すことができます(その他の方は60歳まで)。
iDeCoでは、毎月一定の金額を積み立て、あらかじめ用意された預金・保険・投資信託などの金融商品を自ら運用します。月額5000円からはじめることができ、上限は、加入者の職業等で違いがあります。
iDeCoのメリットは、拠出、運用、受取のタイミングで税金の節約ができること。より効率よく自分年金を準備できます。ただし、iDeCoは老後資金を準備するのが目的となっているため、原則60歳まで引き出すことはできない点は注意が必要です。
●持ち家にまつわる費用を補うための方法3:働いて収入を確保する
最近は、90~100歳まで生きることも夢ではありません。早いうちにリタイヤしてしまえば、時間を持て余すことになるかもしれません。余暇が多ければ、時間つぶしにお金がかかります。そんなとき「お金がどんどん無くなる…」という不安を抱えながら生活するよりも「余った時間でお金を稼ぐ!」ようにしましょう。お金をもらいながら、身体を動かしたり、若い方々と交流できたり、規則正しい生活が出来たりと一石二鳥といえます。
企業も人材不足傾向にあり、意欲あるシニア層の働き手を必要としています。「体力的に週2~3日しか働けない」場合でも、それに合う条件の働き口はあるはずです。働けるうちは働き、収入を確保しましょう。
●持ち家にまつわる費用を補うための方法4:持ち家のリフォームを済ませておく
持ち家の中で「ここは修繕したほうがいい」という部分はあるかもしれません。放置せず、現役のうちに修繕を済ませましょう。
家は、築年数が経過すればだんだん古くなるもの。なんとかなると問題を先送りにすれば、あっちもこっちも古くなって、修繕費がかさむだけです。「この家で無事に90~100歳まで生活できるか?」を50~60代のうちにしっかり考えておきましょう。
持ち家でもお金がかかることを忘れずに
老後、資金が不足するのは賃貸に住む方だけではありません。持ち家であれば家賃はかかりませんが、老朽化すれば相応の手入れが必要です。そうなれば、数十万~数百万円という自己資金が必要になるでしょう。「知らなかった…」と後悔することのないよう、現役のうちから、自分が住んでいる家のことを気にかけておくようにしましょう。
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舟本美子 ファイナンシャルプランナー
「大事なお金の価値観を見つけるサポーター」
会計事務所で10年、保険代理店や外資系の保険会社で営業職として14年働いたのち、FPとして独立。あなたに合ったお金との付き合い方を伝え、心豊かに暮らすための情報を発信します。3匹の保護猫と暮らしています。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。FP Cafe登録パートナー
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