23/07/30
60歳以上で「自己破産」する人はどのくらいいるのか
自己破産とは、財産や収入が不足して、借金の返済ができないことを裁判所に認めてもらい、全ての借金をゼロにする手続きです。その自己破産に占める60歳以上の割合が増えています。定年後に家計が行き詰まるケースは少なくありません。収入や年金額に関係なく、誰もが陥る可能性がある自己破産の全容について見ていきましょう。
自己破産はどれくらいあるのか
裁判所「令和3年司法統計年報概要版」によれば、破産の新規の受理件数のうち、自然人(法人ではない、個人のこと)の自己破産は年間7万件近くあります。
●近年の自己破産の件数
裁判所「令和3年司法統計年報概要版 民事・行政編」より筆者作成
60歳以上の自己破産者が増えている背景には、老後の期間が長くなり、収入が限られることが根底にあります。それに加えて、近年、核家族化が一層進み、一人暮らしの高齢者が増えるなど、離れた家族に相談しにくいことも影響しています。
返済に行き詰った場合には、自己破産のほか任意整理、個人再生などがあります。このうち自己破産は、税金などを除いて債務がゼロになりますが、持ち家などの財産を処分しなければならず、老後の生活に大きなダメージが残ります。
日本弁護士連合会「2020年破産事件及び個人再生事件記録調査(報告編)」によれば、自己破産に陥った人の年齢は40歳代がもっとも多くなっています。ただ、60歳代以上の割合も4分の1を超えており、近年70歳代以上の比率が高くなっている傾向があります。
●破産年齢の推移
※ 日本弁護士連合会「2020年破産事件及び個人再生事件記録報告書」をもとに筆者作成
かつては、三世代同居という家族構成も珍しくありませんでした。同居の家族がいれば、金銭面や介護が必要になっても助け合うこともできました。しかし、核家族化が進んで子どもとのコミュニケーションが取りづらく、家計が困窮してどうにもならない状況に陥ってしまうようです。
また、破産債務者の平均月収は14万2021円。とてもゆとりのある暮らしができる金額ではありません。
破産に陥った理由は?
前出の「破産事件及び個人再生事件記録調査」では、自己破産者が多重債務に陥った原因として多い順に(複数回答)、
①生活苦・低所得 61.69%
②病気・医療費 23.31%
③負債の返済(保証以外) 20.48%
④失業・転職 17.58%
となっています。
●破産事由
日本弁護士連合会「2020年破産事件及び個人再生事件記録調査」より
この「破産事件及び個人再生事件記録調査」は原則3年に1度実施されていますが、3年前にくらべると、「生活用品の購入」や「教育資金」、「クレジットカードによる購入」の項目割合が高くなっています。これは、家計の負担が増加傾向になった末に、生活苦に陥ったことで自己破産につながったと考えられます。
特に高齢者の場合には、年齢とともに就労の収入が減ってきます。「どうにかなるだろう」と甘く考え、公的年金をどれだけもらうのか知らないまま定年を迎えると、思った以上に年金受給額が少なったと後悔する人もいます。
また、老後の生活設計で見落としやすいのが、「収入の崖」と呼ばれる一定のタイミングで収入が減る時期のことです。今まで企業年金や生命保険の個人年金があり、ゆとりある生活ができても、その受給期間が終了することでそれ以降の収入がガクンを減ってしまうのです。長期の視点で収支を把握していなければ、老後破綻を招くことにつながってしまいます。
老後破産を防ぐための対策
老後破産につながる要因として
・年金受給額が把握できておらず、老後資金のシミュレーションをしていない
・生活費が高いままになっている
・教育費のかけすぎ
・医療・介護費の負担が大きい
・想定外の支出が多くある
などがあげられます。
まずは、今後のライフプランを立てましょう。女性の平均寿命程度の90歳まで作るとよいでしょう。家計の収入や支出と貯蓄額、イベントを長期的な見通しをしたキャッシュフロー表に書き出して可視化してみましょう。作ってみて驚くことがあるかもしれません。定年後だからといって、現役時代の生活費を支出削減することは容易ではありません。定年後と現役時の生活をくらべることで、節約したり、ダウンサイジングしたりする見直し項目が見つけやすくなります。そのうえでいつまで働くのか、いつから年金をもらうのかなどを決めていきます。老後までに時間があれば、NISAやiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)などを利用して老後資金をしっかり準備することも重要になってきます。
定年後も長く働こうという場合に必要なことは、健康や働く意欲です。健康が維持できれば、健康寿命も延ばすことができますし、将来の医療費や介護費用の心配も減りますね。
それでも困ったときには、早めに相談することです。問題を一人で抱え込んでしまわないように、孤立しないようなコミュニティーづくりも高齢期には重要になります。
地域包括支援センターは、高齢者の生活の相談窓口です。法的トラブルや解決に必要なサービスの提供は、日本司法支援センター(法テラス)が行っています。多重債務の相談は消費生活センター、生活困窮者のための相談は自立相談支援機構が窓口になっています。そうした相談窓口を知っていれば、生活を立て直す助けになるでしょう。
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池田 幸代 株式会社ブリエ 代表取締役 本気の家計プロ®
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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