23/07/01
結局、異次元の少子化対策の中身はどうなったのか
はじめてその言葉を聞いたとき、なかなかのインパクトがあった「異次元の少子化対策」。これまでになかった少子化対策が実施されると期待した人も少なくないのではないでしょうか?これからどのような支援が始まるのか、とても気になりますね。そこで今回は、閣議決定された異次元の少子化対策の注目すべき施策をご紹介します。
異次元の少子化対策「こども未来戦略方針」が閣議決定
岸田首相が打ち出した異次元の少子化対策。その具体的な内容が盛り込まれた「こども未来戦略方針」が6月13日に閣議決定されました。続く6月16日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太の方針)にも、その内容が色濃く反映されています。
今、日本は少子化が進んでいます。2022年の出生数は約77万人で、合計特殊出生率は1.26となり、過去最低を記録しています。このまま少子化が進めば日本の経済社会システムが維持できなくなるため、今、少子化に歯止めをかける施策が必要になっているのです。
そこで打ち出したのが「こども未来戦略方針」で、以下の3本の基本理念を掲げています。
(1)若い世代の所得を増やす
(2)社会全体の構造・意識を変える
(3)すべての子ども、子育て世帯に切れ目なく支援する
今、経済的な不安があまりにも大きく、結婚して子どもを産み育てることになかなか踏み切れないのが若い世代です。政府はそんな若者たちを支援することで、2030年までに少子化を反転させようと、こども未来戦略方針として「こども・子育て支援加速化プラン」を策定しました。
2030年の少子化反転に向けて、政府は2024年から2026年までの3年間、集中的に「こども・子育て支援加速化プラン」の大元になる施策に取り組み、2028年には完了させると表明しています。
こども未来戦略方針「こども・子育て支援加速化プラン」の主な施策とは
ここで、政府が策定したこども未来戦略方針の「こども・子育て支援加速化プラン」の中から、主な施策をご紹介しましょう。
●児童手当の拡充
これまでの児童手当では、所得制限限度額以上の所得がある世帯には「一律5,000円/月」しか支給されず、所得上限限度額以上になると支給が止められていました。
しかし、今回の加速化プランでは所得制限が撤廃されます。そして、支給期間が高校生まで延長となり、第3子以降の子どもには3万円が支給されることになりました。2024年10月(2025年2月支給分)より児童手当の拡充が反映される予定です。
【新しい児童手当の1人当たりの支給月額】
※第3子以降は月額3万円
出典:内閣府「児童手当制度のご案内」、内閣官房「こども未来戦略方針」より
ただし、子どもが3人いる世帯の第3子には月額3万円が支給されますが、第1子が高校を卒業すると第3子は第2子に繰り上げとなり、支給額が減るので注意しましょう。
●出産等の経済的負担の軽減
2023年1月から、妊娠してから子育ての時期まで切れ目ない支援を行うため、10万円相当のクーポンがもらえる「出産・子育て応援給付金」が始まっています。これが加速化プランでは制度化されることになります。
また、2023年4月からは「出産育児一時金」が42万円から50万円に引き上げられました。さらに、2026年には出産費用(正常分娩)を保険適用とすることを検討中です。
●高等教育費の負担軽減
今、奨学金の返済が若者たちの大きな負担になっていることから、奨学金制度が見直されます。貸与型奨学金では、月々の返済額を少なくする減額返還制度を利用できる年収上限が325万円から400万円に、子ども2人世帯は 500 万円以下、子ども3人以上世帯は 600 万円以下まで引き上げられます。
また2024年からは修士段階の学生を対象に「授業料後払い制度」が導入されます。
●年収の壁(106万円・130万円の壁)への対応
これまで、パートなど短時間労働者が106万円の壁・130万円の壁を意識して、あえて働く時間を減らすことで起きる人手不足を解消することが急務とされていました。そこで政府は、年収の壁を意識せずに働けるよう、短時間労働者への被用者保険の適用拡大や最低賃金の引き上げに取り組んでいきます。
また、106万円の壁を超えて働くと手取りが逆転する問題については、労働時間の延長や賃上げに取り組む企業に対し、費用補助などの支援強化パッケージを決め、実行する見込みです。
●こども誰でも通園制度(仮称)の創設
日中は話し相手や相談相手もなく、育児をする人の多くが不安や悩みを抱えているといわれています。そこで孤独な育児をする人を支援するため、仕事の有無に関係なく月の一定時間まで時間単位で子どもを預けられる「こども誰でも通園制度(仮称)」が創設されます。
●男性育休の取得促進
男性の育休取得が当たり前になる社会を目指す政府は、男性の育児休業取得率を現行の目標(2025年までに30%)から大きく引き上げます。
・男性の育児取得率の目標
2025年:公務員85%(1週間以上の取得率)・民間50%
2030年:公務員85%(2週間以上の取得率)・民間85%
また、産後パパ育休の給付率が現行の67%(手取りで8割相当)から、80%程度(手取りで10割相当)に引き上げられます。
年間3兆円の追加予算、財源はどうなる?
こども・子育て支援加速化プランでは、「年間3兆円半ば」の予算が必要になるとの試算が出ています。
政府は加速化プランが完了する2028年までに徹底して国の歳出を見直し、既定予算を最大限に活用すると述べています。加えて、企業と国民が負担する保険料のしくみに「支援金制度(仮称)」という新たな枠組みを構築して、財源の一部を確保する見込みです。
財源確保のため消費税などの増税は行わないと述べる政府ですが、2026年までの財源確保で不足する分のつなぎとして、国債「こども特例公債」を発行すると表明しています。
まとめ
2030年に少子化を反転させることを目標に、2024年から本格的に始まるこども未来戦略方針「こども・子育て支援加速化プラン」。児童手当の拡充や出産での経済的負担の軽減のほか、年収の壁への対応や男性の育児休業の取得促進など、これから結婚する若者や子育て世代への支援がいくつも盛り込まれています。
ただ気になるのは財源の確保です。そのための増税は行わないと政府は述べていますが、医療保険など別のところでの負担が生じる可能性があります。実際、どのように財源が確保されていくのか、また、どの保険料に支援金制度による負担が上乗せされるのか、今後の動向に注目していきたいです。
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前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。
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