23/05/06
企業型DC「選択制」だと厚生年金が118万円減るのは本当か
近年多くの企業で採用されている企業型確定拠出年金(企業型DC)。本来は企業が掛金を拠出し、従業員が商品を選んで自ら運用する年金制度です。しかし給与の一部を掛金として積み立てるか、そのまま給与として受け取るかを選べる「選択制」の企業型DC(以降、選択制DC)を導入する企業もあります。給与の一部を掛金とする場合、税金や社会保険料の負担が抑えられるというメリットがある反面、将来もらえる厚生年金額も減ってしまう可能性がある点には注意が必要です。
今回は選択制DCで将来の厚生年金額が減る仕組みを解説。そのうえで、給与の一部を掛金とした場合、税金・社会保険料と厚生年金額がどの程度変わるのかをモデルケースを用いてシミュレーションします。お勤めの会社で選択制DCを導入する予定がある方は、どちらを選ぶべきか参考にしてみてください。
給与の一部を掛金にすると厚生年金が減る理由
選択制DCで給与の一部を掛金にすると、なぜ厚生年金額が減ってしまうのでしょうか?その理由は、将来もらえる厚生年金額は給与額をベースに算出されるからです。給与の一部を掛金にするとその分は給与から減額されます。このとき、社会保険料の計算に使われる標準報酬月額の等級が下がると、税金(所得税・住民税)や社会保険料の負担は減る一方で、厚生年金額も減ってしまうのです。
選択制DCで給与の一部を掛金にすることで税金・社会保険料と65歳以降にもらえる老齢厚生年金にどの程度影響があるか、以下のモデルケースを用いて見ていきましょう。
●モデルケース
・年齢:30歳
・家族構成:独身(所得控除は基礎控除と社会保険料控除のみ)
・月収:40万円(年収480万円)
・選択制DC :給与から月2万円の掛金を拠出(30歳から60歳までの30年間)
なお計算をシンプルにするために、賞与や介護保険料の考慮はせず、年収や家族構成、掛金は変わらないものとします。
〇税金・社会保険料の負担軽減
軽減される税金・社会保険料(年間)
(1)所得税:1万4075円
(2)住民税:1万4075円
(3)社会保険料(厚生年金保険料、健康保険料):5万1246円
(1)+ (2) +(3)= 7万9396円
※30歳から60歳までの30年間で総額238万1880円の負担減
〇老齢厚生年金の減額
減額される老齢厚生年金額(年間)
=毎月の掛金×5.481÷1000×選択制DCの拠出期間
=2万円×5.481÷1000×360か月(30年間)
=3万9463円
※65歳から95歳の30年間だと総額118万3890円減る
このモデルケースでは、給与の一部を掛金にすることで税金・社会保険料の負担が約238万円減る一方、老齢厚生年金も約118万円減っています。金額だけを見ると税金・社会保険料の負担軽減のほうが100万円以上多いですが、老後生活の柱であり、生きている限りもらえる老齢厚生年金が減ってしまうことに不安に感じる人も少なくないでしょう。
もしもの際にもらえる年金や手当てが減る可能性も
選択制DCで給与の一部を掛金とする場合、減ってしまうのは老後にもらえる老齢厚生年金だけではありません。厚生年金にはご自身がケガや病気で一定の障害状態になったときにもらえる「障害厚生年金」、ご自身がなくなったときに遺族が受け取れる「遺族厚生年金」がありますが、これらの年金も減ってしまうのです。
また、ケガや病気で働けないときにもらえる「傷病手当金」、出産で会社を休んだときにもらえる「出産手当金」も給与が減額されることで支給額が減ってしまうので注意が必要です。
選択制DCで給与の一部を掛金とする場合は、このような見えにくいデメリットもふまえて検討することをおすすめします。もっとも、厚生年金保険料と健康保険料には等級(保険料を計算しやすくするため、報酬額を一定範囲に区切ったもの)が設けられているため、その等級が下がらない範囲で掛金を拠出するなら厚生年金や健康保険の手当てなどを減らさずに積み立てられます。
しかしそうでなく将来の年金や手当てを減らしたくない場合は、給与としてもらってほかの方法で資産形成するのも一案です。老後資金は「iDeCo(個人型確定拠出年金)」で積み立てる、老後資金だけでなく住宅購入や教育資金にも使えるお金を準備したいならいつでも引き出せる「つみたてNISA」を利用する、といった選択肢も検討しましょう。
まとめ
今後お勤めの会社で選択制DCが導入される場合は、制度の内容をよく理解したうえで、給与として受け取るか、給与の一部を掛金とするか検討しましょう。選択制DCは、給与として受け取るか、掛金として拠出するかを選ぶと、原則60歳まで変更できません。給与の一部を掛金とする場合、あとから掛金額の変更はできますが、拠出自体をやめることはできないので、今後のライフプランもふまえて継続的に給与から拠出できるお金かどうか十分に検討することをおすすめします。
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鈴木靖子 ファイナンシャルプランナー(AFP)、2級DCプランナー(企業年金総合プランナー)
銀行の財務企画や金融機関向けコンサルティングサービスに10年以上従事。企業のお金に関する業務に携わるなか、その経験を個人の生活にも活かしたいという思いからFP資格を取得。現在は金融商品を売らない独立系FPとして執筆や相談業務を中心に活動中。
HP:https://yacco-labo.com
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