23/04/27
年金「211万円の壁」1万円でも超えると手取りが6万円減る
65歳以上の年金収入だけで夫婦2人が生活している世帯には、「211万円の壁」があります。もし、211万円の壁を1万円でも超えると、住民税非課税世帯ではなくなり、税金を支払ったり、社会保障費が増えたりして、手取りを大きく減らすことになります。
今回は、211万円の壁とはどんな壁なのかと、国民健康保険料や介護保険料などがいくら違ってくるのか、具体的な例を挙げて解説します。
年金「211万円の壁」の計算方法
まずは、年金の211万円の壁について確認しましょう。なお今回は、夫婦2人世帯、どちらも65歳以上で公的年金(夫:厚生年金・妻:国民年金)をもらっている世帯という前提でお話しします。
211万円の壁とは、世帯主の年金収入が211万円以下、配偶者の年金収入が155万円以下であれば、住民税非課税世帯となり、社会保険料などの負担が少なくてすむ境目をいいます。
公的年金の収入は「雑所得」として所得税・住民税がかかります。税金を計算するときには、老後に受け取る公的年金収入から、自営業者でいう経費に該当する「公的年金等控除」を差し引きます。
公的年金控除の金額は、年金をもらう人の年齢や公的年金の収入金額によって区分されています。
●公的年金等に係る雑所得の速算表(令和2年分以後)
国税庁のウェブサイトより
例えば、65歳以上の方の公的年金等の収入が110万円超~330万円未満の場合、控除額は110万円となります。もし、1年間の公的年金等の総額が110万円までなら「110万円(公的年金)-110万円(公的年金控除)=0(雑所得額)」になります。
しかし、公的年金が110万円を超える金額が、市区町村の条例で定める「非課税限度額」以下であれば、住民税(所得割・均等割)が非課税になります。
非課税限度額を計算するときは、以下の計算式を使います。
・扶養なし:非課税限度額=45万円
・扶養あり:非課税限度額=〔基礎控除(35万円)×世帯人数〕+31万円
なお、非課税限度額は住んでいる地域の「級地区分」によって異なります。級地区分というのは、物価が高い地域の順番で1級地・2級地・3級地と定められています。
お住まいの地域の級地は、厚生労働省のウェブサイトで確認できます。
次に、夫の年金収入が211万円、妻の年金収入が155万円の場合を例に、雑所得を計算してみましょう。
【夫の雑所得額の計算】
・211万円(公的年金)-110万円(公的年金控除)=101万円(ア)
・非課税限度額=基礎控除(35万円×2人)+31万円=101万円(イ)
・211万円(公的年金)-101万円(ア)-101万円(イ)=0(雑所得)
【妻の雑所得額の計算】
・155万円(公的年金)-110万円(公的年金控除)=45万円(ウ)
・非課税限度額=45万円(エ)
・155万円(公的年金)-45万円(ウ)-45万円(エ)=0(雑所得)
これより、夫婦ともに「雑所得=0」となります。
夫と妻どちらも雑所得がゼロ。ともに住民税非課税対象者であり、住民税非課税世帯となります。この場合、性別は関係ないため、夫と妻の年金額が逆でも同様に考えます。
なお、年金の収入は、国民年金や厚生年金、共済年金だけが対象になるのではなく、国民年金基金、厚生年金基金、確定拠出年金、個人型(iDeCo)、小規模企業共済などの年金も合計します。
年金受給者の住民税非課税限度額の211万円の壁は、お住いの地域により若干異なります。「211万円の壁」は、1級地に住んでいる場合です。2級地であれば「203万円の壁」、3級地であれば「193万円の壁」に変わりますので注意しましょう。
住民税非課税世帯になると健康保険料や介護保険料の負担が減る
年金収入が211万円の壁を超えないことで、住民税非課税世帯になった場合のメリットとしては、健康保険料や介護保険料の支払いが軽くなることが挙げられます。実際にどのくらい違うのか試算してみましょう。なお、以下は東京都練馬区在住の2人世帯・夫婦ともに収入は公的年金のみという前提で計算しています。
【事例1】
・夫67歳:211万円、妻66歳:110万円の場合
・国民健康保険料:17万5822円
・介護保険料 :7万4640円
・合計額 :25万462円
【事例2】
・夫67歳:212万円、妻66歳:110万円の場合
・国民健康保険料:17万6781円
・介護保険料 :13万9440円
・住民税 :5000円
・合計額 :32万1221円
練馬区「令和5年度国民健康保険料試算フォーム」「65歳以上の方の介護保険料」より筆者作成
事例1と事例2の違いは、夫の年金収入が211万円か212万円かのみです。しかし、この1万円の違いによって合計額の差額は7万759円となり、介護保険料の負担額に大きな違いがでることがわかります。
老後の年金額が1万円増えることで、1年間に負担する社会保険料が約7万円増加するのですから、手取り額は差し引き6万円減ってしまします。
なお、今回の試算は、練馬区での結果となります。お住いの自治体ごとに保険料に違いがありますので、詳細は担当窓口にてご確認をお願いいたします。
住民税非課税世帯のメリットは他にもある
住民税非課税世帯になると、上記のような社会保険料(国民健康保険料・介護保険料)以外に負担が少なくなるものがあります。
例えば、高齢になり高額な医療費がかかる場合があります。一定額以上を負担した場合に医療費の一部が支給される「高額療養費制度」において、住民税非課税世帯は自己負担額の上限が低くなります。同様に、介護サービスを受けた際「高額介護サービス費制度」を利用すると、毎月、負担した介護サービス費用の上限が引き下げられます。
また、自治体によって異なりますが、NHKの受信料が無料になったり、インフルエンザ等の予防接種が無料になったりすることもあります。また、介護施設に入居した場合、住居費、食費の軽減、「生活福祉資金貸付制度」による貸付ができるなど、手厚いサポートがあります。
まとめ
今回は、年金収入の211万円の壁について紹介しました。年金収入の手取りを増やすため、一定額以下という境界を意識することは大事なことかもしれません。しかし、その壁ばかりをみていても、気持ちは豊かになるでしょうか。やりがいのある仕事をして、収入を増やした方が、人との交流も生まれますし、気持ちに張りができるでしょう。
もしかしたら、将来、211万円の壁の見直しがあって、境目となる所得が引き下げられるかもしれません。そうなれば、今まで負担しなくて良かった社会保険料などが上乗せになり、手取り額が減ってしまいます。そうなっても老後の人生が活き活きとしたものにできるように、収入をどうするか考えていくとよいのではないでしょうか。
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舟本美子 ファイナンシャルプランナー
「大事なお金の価値観を見つけるサポーター」
会計事務所で10年、保険代理店や外資系の保険会社で営業職として14年働いたのち、FPとして独立。あなたに合ったお金との付き合い方を伝え、心豊かに暮らすための情報を発信します。3匹の保護猫と暮らしています。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。FP Cafe登録パートナー
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