22/05/13
夫婦の年金繰り下げ3パターン!年金額はいくら増える?
老後の収入の柱となる公的年金。受け取る時期を遅らせる(繰り下げる)ことにより、もらえる年金額を増やせることをご存知でしょうか?夫婦で老後生活をおくる場合、どちらの年金をどのように繰り下げるかによってもらえる年金額は変わります。今回は夫婦の公的年金の繰下げパターンを紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
公的年金の繰り下げで最大84%の年金が増える
公的年金の支給は原則65歳からです。しかし希望すれば、受け取る時期を最長75歳まで遅らせることができます。このように年金の受け取り時期を遅らせることを「繰り下げ」と言います。
繰り下げた年金は1ヵ月あたり0.7%増える仕組みです。たとえば75歳0ヵ月まで繰り下げた場合、84%も年金額を増やせるのです。繰り下げ期間中の生活費を補うだけの収入や蓄えがあるなら、繰り下げは有効な手段です。公的年金は亡くなるまで支払われるので、長生きリスクにも備えられます。
国民年金に加入していた人がもらえる「老齢基礎年金」と、会社員や公務員など厚生年金保険に加入していた人がもらえる「老齢厚生年金」は別々に繰り下げられます。そのため、夫婦で年金の繰り下げを検討する際は「誰の、どの年金を繰り下げるか」がポイントとなります。
夫婦の寿命を考えると、一般的には女性、妻のほうが長生きでしょう。妻は多くの場合、夫の死後、夫の遺族厚生年金(夫の65歳時点の老齢厚生年金の4分の3)と妻自身の老齢基礎年金を受け取ることになります。これを踏まえると、妻は老齢基礎年金だけを繰り下げておくのがいいでしょう。あとは、夫がどの年金を繰り下げるかによって、大きく3つの繰り下げパターンが考えられることになります。
年金繰り下げでいくら増えるか検証してみよう!
ここでは夫が会社員、妻が専業主婦の例を用いて、3つの繰り下げパターンをご紹介します。繰り下げ期間は70歳までの60ヵ月(5年)とします。年金を繰り下げることでいくら増やせるのか、それぞれチェックしてみましょう。
【繰下げ前の年金額】
夫の年金額:合計200万円
・基礎年金:78万円
・厚生年金:122万円
妻の年金額:合計90万円
・基礎年金:78万円
・厚生年金:12万円
夫婦の年金額:合計290万円
●パターン1:夫・妻ともに基礎年金のみ繰り下げ
筆者作成
まず、夫婦ともに基礎年金のみを繰り下げるケースを見ていきましょう。
このケースでは夫婦で年額約66万円、ひと月あたり約5.5万円を増やせます。年金額は夫婦合わせて356万円程度(ひと月あたり30万円弱)です。
【繰り下げ後の年金額】
夫:78万円(基礎)× 増加率0.7% × 60ヵ月=32.8万円増
妻:78万円(基礎)× 増加率0.7% × 60ヵ月=32.8万円増
年金額合計:本来の年金額290万円 + 増加分65.6万円 =355.6万円
生命保険文化センター「令和元年度生活保障に関する調査」によると、夫婦2人家庭の老後の最低日常生活費は月額22.1万円(年額265.2万円)、ゆとりある生活費は月額36.1万円(年額433.2万円)です。繰り下げ期間中の年金額は134万円、ひと月あたり11万円程度です。年金収入だけでは最低日常生活費に届かないため、70歳まで働くか不足分を補うだけの蓄えが必要です。
●パターン2:夫は厚生年金のみ、妻は基礎年金のみ繰り下げ
次は、夫の厚生年金と妻の基礎年金を繰り下げるケースです。
このケースでは夫婦で年額約84万円、ひと月あたり7万円程度を増やせます。年金額は夫婦合わせて372万円程度(ひと月あたり31万円弱)です。繰り下げた厚生年金額が基礎年金額より多いため、パターン1より年金額は多くなりました。
【繰り下げ後の年金額】
夫:122万円(厚生)× 増加率0.7% × 60ヵ月=51.2万円増
妻:78万円(基礎)× 増加率0.7% × 60ヵ月=32.8万円増
年金額合計:本来の年金額290万円 + 増加分84万円 = 372万円
繰下げ期間中の年金額は90万円、ひと月あたり7.5万円です。
●パターン3:夫は基礎・厚生年金の両方、妻は基礎年金のみ繰り下げ
筆者作成
最後は夫が基礎年金と厚生年金の両方を繰り下げて、妻は基礎年金のみを繰り下げるパターンです。このケースでは夫婦で年額約117万円、ひと月あたり10万円弱を増やせます。年金額は夫婦合わせて407万円(ひと月あたり34万円程度)です。
【繰り下げ後の年金額】
夫:年金額(基礎・厚生)200万円 × 増加率0.7% × 60ヵ月(5年) = 84万円増
妻:年金額(基礎)78万円 × 増加率0.7% × 60ヵ月(5年) = 32.8万円増
年金額合計:本来の年金額290万円 + 増加分117万円 = 407万円
上で紹介したゆとりある生活費には少し届きませんが、最低日常生活費は十分まかなえる程度に増やすことができました。
ただし、このパターンでは70歳までは妻の厚生年金しかもらえません。妻の厚生年金額は12万円(月額1万円)と少ないため、70歳までは夫婦またはどちらかが働いて不足する生活費を稼ぐか、繰り下げ期間中の生活費を補うだけの蓄えがないと厳しいでしょう。
パターン1~3の結果でもわかるように、繰り下げる年金の額が多いほど増やせる年金額も多くなります。ただし繰り下げ期間中は年金収入が減ってしまうため、その間の生活費をどのようにまかなうかを合わせて考えておくことが大切です。
65歳以降も余裕をもって生活していけるだけの収入があるなら、パターン3のように年金の大部分を繰り下げることで年金額を大きく増やす方法は有効です。一方で65歳以降の収入が生活費をまかなえるほど得られないようであれば、パターン1や2のように基礎年金または厚生年金の片方だけを繰り下げるのがよいでしょう。
足りない分は貯蓄などを取り崩すという手もありますが、高齢になると介護やリフォームなどでまとまった資金が必要になることも考えられます。そのような場合に備えて、繰り下げ期間中は極力貯蓄を減らさないよう働くことも検討しましょう。
厚生年金の繰り下げ期間中は加給年金が止まる点に注意
なお、年下の配偶者がいる場合、厚生年金の繰り下げには注意が必要です。厚生年金を繰り下げている期間は「加給年金」がもらえなくなるためです。
加給年金とは、厚生年金保険の加入期間が原則20年以上ある人がもらえる「家族手当」のようなお金です。65歳以降の老齢厚生年金に上乗せされます。たとえば年下の配偶者がいる場合にもらえる加給年金は年額39万円程度で、配偶者が65歳になるまでもらえます。
夫婦の年齢差がない場合や専業主婦であった妻が年上なら加給年金がもらえなくなるデメリットは少ないでしょう。逆に年の離れている専業主婦の妻がいる場合などは、厚生年金を繰り下げず加給年金をもらったほうが、受け取れる年金額の総額が多くなる場合もあります。
どちらがお得か知りたい場合は、街角の年金相談センターや社労士に相談してみることをおすすめします。
まとめ
年金の繰り下げは受け取れる年金額を増やすのに有効な手段です。ただし老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げられるため、どの繰り下げパターンを選ぶかで増やせる年金額は変わってきます。夫婦で話し合い、繰り下げや老後の働き方も含めた「年金戦略」を考えてみてはいかがでしょうか。
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鈴木靖子 ファイナンシャルプランナー(AFP)、2級DCプランナー(企業年金総合プランナー)
銀行の財務企画や金融機関向けコンサルティングサービスに10年以上従事。企業のお金に関する業務に携わるなか、その経験を個人の生活にも活かしたいという思いからFP資格を取得。現在は金融商品を売らない独立系FPとして執筆や相談業務を中心に活動中。
HP:https://yacco-labo.com
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