21/04/24
給料が1円違うと年金が5万円変わるって本当?
毎月の皆さんのお給料から天引きされている厚生年金保険料。この保険料は、少し特殊な仕組みで決まっています。そのため、給料がたった1円違うだけで、将来受け取る年金額に大きな差が出ることがあるのです。今回は、その理由について具体例を挙げて、詳しく解説いたします。
給料に比例して保険料も高くなる厚生年金保険料
自営業者や学生が加入する国民年金の保険料は、月1万6610円(2021年度)の定額です。ですから本人の所得の多寡にかかわらず同じ保険料を負担しています。
一方、会社員や公務員が加入する厚生年金の保険料は「給料×保険料率」で算出することになっています。従って給料が高くなれば、それだけ保険料も高くなる仕組みということになります。
ちなみに現在の保険料率は18.3%(2017年9月以降は固定)で、給料にもボーナス(賞与)にも同じ率で保険料を算出することになっています。会社が半額負担しているため、会社員の皆さんの実質的な負担は9.15%となります。
厚生年金保険料の計算には、金額に応じたランク(等級)を使用する
厚生年金の保険料は主に「給料(もしくは賞与)×保険料率」で計算されるのですが、保険料の計算における給料の額は、少し特殊な仕組みで決まっています。
まず、給料については、金額に応じたランクが設定されています。このランクを等級と呼んでおり、現在1等級~32等級までの32等級が設定されています。一定の範囲内にある給料は同じ等級となり、保険料も同じとなります。
日本年金機構HP 厚生年金保険料額表より
上記の表を見ると、例えば、「給料(報酬月額)が29万円以上31万円未満」に当てはまる方は全員、同じ等級(19等級・標準報酬月額30万円)となります。ちなみに19等級の毎月の保険料は5万4900円で、これを会社と本人が折半して負担しています。したがって、実際に給料から天引きされるのは、2万7450円となります。
たった1円の差で等級が上がり、保険料も大幅アップ!?
厚生年金保険料額表で、この19等級は31万円「未満」までですから、給料が31万円の方は20等級にランクアップとなります。
ランクアップは、つまり保険料アップということです。極端に言うと、給料が30万9999円なら19等級で、毎月の天引額は2万7450円ですが、給料が31万円だと20等級で、毎月の天引額は2万9280円となります。給料がたった1円違うだけで、保険料は月1830円の差。年間にすると2万1960円の差となります。
同じ条件で、40年間厚生年金に加入したとすると約90万円(87万8400円)もの差が生まれるのです。保険料を支払う立場からすると、たった1円の違いで保険料が大きくアップするのはちょっと辛いですよね。
保険料の等級は、毎月4、5、6月の給料で決まる
厚生年金保険料の等級が決まる仕組みについても確認しておきましょう。
等級は毎月変動するものではなく、原則1年間同じ等級のまま据え置かれることになっています。1年間の等級は、毎年4、5、6月に受け取る給料の平均で決まるのです。
給料には残業手当や交通費も含まれます。したがって、同じ基本給でも4、5、6月に残業が多い人や、交通費の多い人は給料総額が多くなり、それだけ等級が高くなります。もし、残業する時間を年間を通して調整できる方であれば、毎年4、5、6月に支払われる残業代を抑えることで等級が上がることを避けることができるわけです。
等級が高いと将来受け取れる年金も増える
では、「毎年4、5、6月に残業を多くしてしまうと損なのか?」というと、一概に損ばかりとは言いきれません。さきほどは、「保険料を負担する側」という観点で等級を低く抑えたほうが得という解説をしましたが、「将来年金を受け取る側」という観点でみると、全く逆の発想となります。なぜなら、厚生年金は「多く払えば、その分多く受け取れる」という仕組みとなっているため、等級が高いと将来受け取れる年金も増えることにつながるからです。つまり、長期的な観点では、等級を上げた方が将来有利に働くのです。
では、給料1円の差で1等級の違いが生じた場合、19等級と20等級で将来の年金額にどのくらいの差がでるかを見てみましょう。
老齢厚生年金の受給額は、以下の計算式で求められます。
●老齢厚生年金受給額の計算式(原則)
A+Bを合計したものが厚生年金受給額となる
A=平均標準報酬月額×7.125/1000×2003年(平成15年)3月までの加入月数
B=平均標準報酬額×5.481/1000×2003年(平成15年)4月以降の加入月数
計算式の「平均標準報酬月額」や「平均標準報酬額」が加入期間中の給与の平均を指します(「平均標準報酬額」の方には賞与も含まれます)。
実際には、この計算のほか生年月日に応じた例外があったり、過去の給与額を現在の物価に引き直したりするのでかなり複雑なのですが、ここでは比較を目的としますので、厚生年金保険料はすべて2003年(平成15年)4月以降に納付したもの、加入期間中の標準報酬月額と賞与は変動がなかったものとして計算します。
●19等級と20等級の厚生年金受給額の違い
たった1円の差でも、それが等級の分かれ目となり、標準報酬月額が変われば、厚生年金加入40年で受け取る年金の差は、約5万円となります。
これを損とみるか得とみるかは、老齢年金をどれくらいの期間受給し続けられるかによるでしょう。仮に、65歳から80歳までの15年間老齢年金をもらい続けるとすれば、20等級の方が約75万円多くもらえます。これが65歳から85歳までの20年間になれば約100万円多くもらえるのです。
標準報酬月額が増えると受給額も増えるものは他にもある
このほか、国の社会保険制度により受給できるお金のなかで、厚生年金保険と同様、標準報酬月額が適用され、かつ支払った額に応じて受給額も増えるものが他にもいくつかあります。以下、その代表例を取りあげます。
※上限額や受給期間などの条件は、ここでは割愛させていただきますので、別途確認してください。
●①遺族厚生年金
遺族厚生年金の年金額は、「(平均標準報酬月額×7.125/1000×平成15年3月までの加入月数+平均標準報酬額×5.481/1000×平成15年4月以降の加入月数)×3/4」で求められます。上で紹介した老齢厚生年金の4分の3です。
式中の平均標準報酬月額とは、被保険者であった期間中の標準報酬月額の平均値のことで、平均標準報酬額は、期間中の標準報酬月額と賞与の合計額の平均値を指します。標準報酬月額が増えれば支給年額も増えるので、その分保障も手厚くなります。
●②傷病手当金
支給日額は、「支給開始以前の12か月間の各月の標準報酬月額の平均×1/30×2/3」で求められます。こちらも式の通り、標準報酬月額が増えれば支給日額も増えます。
●③出産手当金
支給日額は、「支給開始以前の12か月間の各月の標準報酬月額の平均×1/30×2/3」で求められます。こちらも同様に、標準報酬月額が増えれば支給日額が増えます。
●④育児休業給付金
支給日額は、6か月まで「休業開始時賃金日額×67/100」、6か月以降は「休業開始時賃金日額×50/100」で求められます。
式中の休業開始時賃金日額とは、育児休業開始前6か月間の総支給額を180で除した値のことです。標準報酬月額と同様、賞与を除く残業代などの各種手当も考慮されるので、通常のケースでは標準報酬月額が増えれば支給日額も増えます。
まとめ
このように、払うべき社会保険料が増えても、将来受け取る年金額や標準報酬月額が適用される各種手当等を考慮すれば、一概に損とは言い切れません。逆に、特に手当などをもらう予定がなければ、等級を上げて社会保険料を多く払う事は損だと捉えることもできます。社会保険制度は複雑ですが、目先の損得で本来の目的や総合的な利益を見失わないこと、多面的に判断することが重要なポイントと言えそうですね。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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