25/05/03
掛金増の「新iDeCo」いくら積み立てる?iDeCoとNISAのどちらを優先すべきか

税制優遇を受けながら公的年金の上乗せを自分で作れるiDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)。2025年の税制改正大綱にはiDeCoの掛金額上限の大幅引き上げが盛り込まれています。実現すれば、iDeCoの所得控除の節税効果がアップするうえ、運用中の利益にかかる税金もゼロなので、老後資金をより効率よく増やせるようになるでしょう。
ただiDeCoは、資産を受け取るときに税金がかかる場合があります。iDeCoの資産を一時金で受け取るときには「退職所得控除」、年金で受け取るときには「公的年金等控除」が適用でき、税負担をある程度軽くできますが、運用して築いた資産額が大きければ、かかる税額も多くなります。
iDeCoの制度が改正され「新iDeCo」になったとして、新iDeCoにいくら積み立てればよいのでしょうか。また、新NISAとの兼ね合いはどうすればよいのでしょうか。
今回は、iDeCo改正後を見据えた積立金額の考え方を紹介します。
iDeCoの掛金上限額が大幅アップ予定!
iDeCoの掛金は毎月5,000円からで、1,000円単位で増やせます。といっても、いくらでも増やせるわけではありません。公的年金の種類や企業年金の有無によって、iDeCoの掛金上限額は変わります。
2025年の与党税制改正大綱には、iDeCoの掛金上限額の引き上げが盛り込まれています。
<iDeCoの掛金上限額>

(株)Money&You作成
会社員のiDeCoの掛金額はこれまで月2万円・2万3000円だったのが、月6万2000円と大きく引き上げられています。企業年金の制度のひとつ「企業型確定拠出年金(企業型DC)」と同じ水準に揃えるためです。
公務員のiDeCoの掛金額は2024年12月に1万2000円が2万円に引き上げられたのですが、そこからさらに、月5万4000円に大幅増加します。
また、自営業者・フリーランス・学生といった、もともと上限が多かった人のiDeCoの掛金額も7000円増の月7万5000円となります。自営業者・フリーランスには会社員や公務員のような厚生年金がありません。少なくなりがちな老後の年金をカバーする意味で、iDeCoの掛金額が手厚くなっています。
ただ本稿執筆時点(2025年4月23日)で、上記のiDeCoの掛金上限額のアップはまだ決定していません。
税制改正大綱には、iDeCoの改正を「確定拠出年金法等の改正を前提に」行うと記載されています。その前提となる年金制度改革関連法案が、本稿執筆時点ではまだ国会に提出されていないからです。
報道によると、年金制度改革関連法案にはパートの厚生年金加入拡大など負担増につながる内容も含まれているため、与党は2025年夏の参議院選挙への影響を懸念しているとのこと。与党内から「提出を先送りすべき」という意見が相次いでいることから、まだ年金制度改革関連法案が出されていないのだそうです。
今後、iDeCo掛金上限額のアップはおそらく行われますが、その実施時期は遅れる可能性が高いことを押さえておきましょう。
iDeCoの掛金が増えれば、所得税・住民税が安くなる
iDeCoでは掛金全額が「小規模企業共済等掛金控除」という所得控除の対象になるため、毎年の所得税や住民税が軽くなります。
<所得税額が決まるまでの算定ステップ>

(株)Money&You作成
iDeCoの掛金上限額が増えるということは、所得控除できる金額が増え、税金の計算の元になる課税所得を多く減らせるということ。それによって、税金も多く減らせます。
所得税率は、課税所得に応じて5%〜45%までの7段階あります。また、住民税も同様の手順で計算しますが、住民税率は課税所得にかかわらず一律10%です。年間の掛金額にこれらの税率をかけた金額が節税金額になります。
年収400万円、600万円、800万円、1000万円、1200万円の企業年金のない会社員がiDeCoを上限額まで利用した場合の節税金額は、次のとおりです。
<iDeCoの節税効果>

(株)Money&You作成
所得控除の金額は年収に関わらず27万6000円・74万4000円です。年収増加とともに所得税率が10%、20%、23%とアップすると、節税できる金額も大きくなっていくことがわかります。iDeCoは年収が高い人ほど節税の恩恵が大きくなるのです。
なお、現行制度ではiDeCoに加入して掛金を拠出できる人は最長で「65歳未満」。65歳未満まで加入できるのは、会社員・公務員といった厚生年金の加入者と、国民年金保険料の納付期間を増やして年金額を増やすために60歳以降も国民年金に加入している「任意加入被保険者」です。自営業やフリーランス、専業主婦(夫)などは60歳未満までです。
改正案では、60歳以上70歳未満でiDeCoに加入できなかった人のうち、「iDeCoの加入者・運用指図者だった」または「私的年金の財産をiDeCoに移換できる」人は70歳未満までiDeCoに加入できるようになります。
iDeCoは資産を受け取るときに税金がかかる
iDeCoは資産を受け取るとき、つまり「出口」で税金がかかる仕組みです。
iDeCoの資産は、一時金で受け取るときには「退職所得控除」、年金で受け取るときには「公的年金等控除」が適用できるため、税負担をある程度軽くすることができます。しかし、退職所得控除や公的年金等控除が適用できる金額を超えると、税金がかかります。退職所得控除や公的年金等控除は、会社を退職するときにもらう退職金にかかる税金を減らす仕組みですが、iDeCoでも利用できます。
iDeCoの資産を受け取るときの税金を減らしたいなら、一時金で受け取った方がよいでしょう。退職所得控除が一時金よりも多い場合には、税金はかかりません。また、一時金が退職所得控除より多い場合には、一時金から退職所得控除の金額を引き、さらに「2分の1」をかけた金額が退職所得となります(2分の1課税)。この退職所得をもとに所定の税率をかけ、所得税や住民税の金額が算出されます。 また、一時金で受け取る場合には社会保険料の負担もありません。
<一時金の場合の税金・社会保険料>

(株)Money&You作成
iDeCoの退職所得控除の金額は、加入期間が20年以下なら年40万円ずつ増え、21年目以降は年70万円ずつ増えます。なお退職金の場合は、加入年数ではなく「勤続年数」で算出します。
たとえば、iDeCoの加入年数25年、資産が2000万円のとき、一時金で引き出す際の税金は次のとおりです。
退職所得:(2000万円−1150万円)×1/2=425万円
所得税:425万円×20%−42万7500円=42万2500円
住民税:425万円×10%=42万5000円
納める税金:84万7500円
iDeCoの加入年数25年、資産が2000万円のときに一時金で受け取ると、納める税金は84万7500円になります。この金額は、25年間にわたって毎月約4万5000円を投資し、年3%で運用できた場合を想定したものです。
仮に、毎月4万5000円を25年間投資しつづけた場合、掛金総額は1350万円です。所得控除による節税効果は、所得税率が5%であれば、住民税率10%(一律)と合わせて、1350万円×15%=202万5000円です。「所得控除による節税効果」(202万5000円)から「出口でかかる税金」(84万7500円)を引くと117万7500円なので、出口で84万7500円の税金がかかったとしても、それを上回る節税効果が得られることがわかります。この場合は、iDeCoを活用した方がベターですね。
退職金とiDeCo、両方もらう場合の税金
しかし、退職金とiDeCoを両方もらえる場合の退職所得控除の扱いは少々複雑です。退職所得控除は退職金とiDeCoを合算した金額に適用します。このとき、iDeCoを先に受け取るか、退職金を先に受け取るかで合算の対象になる年数が異なります。
【退職金を先に受け取り、iDeCoを後から受け取る場合】
「前年から19年以内」に受け取った一時金が退職所得控除の合算の対象
【iDeCoを先に受け取り、会社の退職金を後から受け取る場合】
・現行:「前年から4年以内」に受け取った一時金が退職所得控除の合算の対象
・改正案(2026年1月1日以降):「前年から9年以内」に受け取った一時金が退職所得控除の合算の対象
退職金とiDeCo、それぞれの退職所得控除を利用するには、たとえば「60歳でiDeCoを先に受け取り、70歳で退職金を後から受け取る」ことが必要になります。もしも退職金が先なら、iDeCoの受け取りは最長で75歳からなので「55歳で退職金を先に受け取り、75歳でiDeCoを後から受け取る」ことが必要に。つまり、どちらにしてもそれぞれの退職所得控除を利用するのは実質的に不可能でしょう。
退職金とiDeCoの合算の対象期間中に両者を受け取る場合、退職所得控除に適用する年数は長い方が採用されます。
では、退職金とiDeCo、両方もらう場合の税金を計算してみましょう。
勤続年数35年・退職金2000万円、iDeCoの加入年数25年・資産2000万円を60歳で受け取る場合、納める税金は次のとおりです。
退職所得:(4000万円―1850万円)×1/2=1075万円
所得税:1075万円×33%―153万6000円=201万1500円
住民税:1075万円×10%=107万5000円
納める税金:308万6500円
この例では、退職所得控除がより長い「勤続年数」で計算されています。しかしそれでも、納める税金が308万6500円になってしまいます。
前述の「iDeCoで25年間、月4万5000円を積み立てた場合」の所得控除による節税効果は202万5000円でしたので、所得税率が5%・10%の場合は支払う税金のほうが多くなってしまいます。
●受け取りを1年以上ずらせば税金が減る
支払う税金を減らすために、退職金とiDeCoの受け取りを1年ずらすことを考えてみましょう。退職金とiDeCoは、同時に受け取らなくても問題ありません。たとえば60歳で退職金、61歳以降にiDeCoを受け取ることも可能です。
退職金受け取り時に退職所得控除を使い切るため、iDeCoでは退職所得控除が使えませんが。iDeCoの60歳以降の加入年数に基づく退職所得控除が活用できます。退職所得控除が80万円に満たない場合には、80万円となります。
これにより、受け取りのタイミングをずらせば適用される所得税率が下がり、所得税が少なくできる場合があります。
60歳で退職金を受け取り、61歳でiDeCoを一時金で受け取る場合で税金を計算してみます。勤続年数35年・退職金2000万円、iDeCoの加入年数26年・2060万円です。
【退職金】
退職所得:(2000万円―1850万円)×1/2=75万円
所得税:75万円×5%=3万7500円
住民税: 75万円×10%=7万5000円
納める税金:11万2500円
【iDeCo】
退職所得:(2060万円―80万円)×1/2=990万円
所得税:990万円×33%―153万6000円=173万1000円
住民税: 990万円×10%=99万円
納める税金:272万1000円
→納める税金合計:283万3500円
納める税金の合計は283万3500円になりました。同時に受け取る場合は308万6500円でしたので、税金は25万円安くなります。
ただ、退職金とiDeCoを受け取るタイミングをずらすことで税金が安くできる場合があるといっても、所得控除の節税効果を打ち消して税金を多く払う可能性があることには変わりません。
そこで活用したいのが新NISAです。新NISAは投資で得られた利益にかかる税金を生涯にわたってゼロにできる制度。新NISAであれば、出口で税金がかかることはありません。仮に投資元本1800万円が1億円になったとしても全額を非課税で受け取れます。
iDeCoとNISAは併用がベター!どちらを優先する?
iDeCoの所得控除の効果は確かに魅力的で、新NISAよりも強力ですが、資産を受け取るときの出口を考えると、NISAと使い分けたほうがよいでしょう。
iDeCoは、投資成果に関わらず確実に節税金額が得られる制度です。そして、65歳未満(改正案では70歳未満)までしか積み立てられない期間限定の制度でもあります。それを考えると、iDeCoは積極的に活用したい制度だといえます。
NISAには、iDeCoのような所得控除はありませんが、年齢上限なく一生涯使えますので、運用しながら取り崩す際に活用しやすい制度です。
退職金の有無、年収の高低、積立金額の設定、ライフイベントの有無によって戦略は変わってきますが、iDeCoとNISAは「併用」を前提とした戦略がベターです。
退職金がない場合は、iDeCoの出口での税負担は少ないので、積立金額はiDeCoが多めでも良いかもしれません。特に、年収が高い(所得税率20%以上)ならば、iDeCoの所得控除の効果が大きくなりますので、なおさらiDeCoを優先することを考えましょう。
退職金がある場合は、iDeCoの出口での税負担を考慮し、NISAを優先しても良いかもしれません。年収が高い(所得税率20%以上)ならば、iDeCoの所得控除による節税で浮いた金額をNISAの投資に回すのもよいでしょう。
iDeCoやNISAを含む制度はたびたび法改正されます。お話ししたように、iDeCoの掛金上限にしても本稿執筆時点ではまだ決定ではありませんし、NISAも高齢者向けの「プラチナNISA」が創設されるというニュースもあります。
退職所得控除の20年超「年70万円」も「年40万円」に縮小される可能性がありますし、金融所得課税のあり方も見直されるかもしれません。
iDeCoもNISAも長い間付き合う前提の制度ですが、今後の改正で制度が変わってくることもあるでしょう。それを考えると、iDeCoもNISAも両方とも活用しておくのがベターといえるでしょう。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。日テレ「カズレーザーと学ぶ。」、TBS「情報7daysニュースキャスター」などテレビ・ラジオ出演多数。ニュースメディア「Mocha」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。「はじめての新NISA&iDeCo」(成美堂出版)、「定年後ずっと困らないお金の話」(大和書房)など書籍100冊、累計180万部超。日本年金学会会員。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki

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