25/03/06
「年収の壁160万円」引き上げでいくら減税になる?【年収200万, 400万, 600万, 800万, 1000万円で試算】

2025年3月4日、2025年度予算案と税制改正関連法案が衆議院の本会議で可決されました。かねてより引き上げが話題になっていた「年収の壁」は、最終的には最大160万円に引き上げられることになりました。ただ、すべての人の年収の壁が160万円に引き上げられるわけではありません。
今回は、年収の壁の変更のポイントと、年収200万円・400万円・600万円・800万円・1000万円の人の減税額がいくらになるかを紹介します。
基礎控除の特例で「年収の壁160万円」に
今回の年収の壁の引き上げは、所得税がかかるかどうかのボーダーラインを示す「103万円の壁」にかかわるものです。
所得税は、年収からさまざまな控除を差し引いて残った金額(課税所得)に所定の税率をかけて計算します。
2024年まで、年収からは、
・給与所得控除55万円
・基礎控除48万円
を差し引くことができるしくみになっていました。
年収が103万円以下なら課税所得がゼロになるため、所得税はかかりません。年収が103万円を超えると課税所得がゼロではなくなるため、所得税がかかります。
2025年から、政府案として給与所得控除の最低額と基礎控除がそれぞれ10万円ずつ引き上げられました。つまり、年収から
・給与所得控除65万円
・基礎控除58万円
を差し引くことができるようになったため、103万円の壁は「123万円の壁」になりました。
さらに今回可決された税制改正関連法案には、与党案として「基礎控除の特例」の創設が盛り込まれています。
基礎控除の特例では、給与収入が一定以下の人を対象に基礎控除の上乗せを行います。具体的には、給与収入によって
①給与収入200万円相当以下:基礎控除+37万円(恒久的な上乗せ)
②給与収入200万円相当~475万円相当以下:基礎控除+30万円(2年間限定の上乗せ)
③給与収入475万円相当~665万円相当以下:基礎控除+10万円(2年間限定の上乗せ)
④給与収入665万円相当~850万円相当以下:基礎控除+5万円(2年間限定の上乗せ)
の4段階に分かれています。
<基礎控除の特例のイメージ>

自由民主党・公明党「基礎控除の特例の創設について」より
つまり、給与収入が200万円以下であれば、給与所得控除65万円+基礎控除58万円+基礎控除の上乗せ37万円=160万円の控除が受けられるというわけです。これが「160万円の壁」の内訳です。
一方、給与収入が200万円を超える場合は、基礎控除の上乗せが37万円ではなくなり、年収200万円〜850万円の給与所得者は、基礎控除の上乗せ(2年間限定)が段階的に減っていく仕組みになっています。
年収200万円・400万円・600万円・800万円・1000万円の人の減税額は?
年収の壁が最大160万円に引き上げられることで、実際いくら減税になるのでしょうか。年収200万円・400万円・600万円・800万円・1000万円の人の減税額を筆者が試算しました。
<年収別の減税額>

(株)Money&You作成
年収200万円の場合、基礎控除は95万円、減税額は年間で2.4万円となりました。
年収が400万円・600万円・800万円と増加するにしたがって、基礎控除の上乗せが減るために基礎控除の合計金額が減ります。これにより、減税額は年間2万円〜3.1万円となっています。
給与収入が850万円を超えると基礎控除の上乗せがなくなります。年収1000万円、基礎控除58万円で計算すると、減税額は2万円となります。
つまり、減税額はおおむね2万円〜3万円程度ということになります。
手取り増の効果は期待薄?
自由民主党・公明党の「基礎控除の特例の創設について」には、今回の基礎控除の特例は「低所得者層の税負担に対して配慮する観点や、物価上昇に賃金上昇が追いついていない状況を踏まえ、中所得者層を含めて税負担を軽減する観点」から行われると記載されています。また、上で示したグラフにも書かれているのですが、基礎控除の上乗せは納税者の8割強、4600万人が対象になると記載されています。
基礎控除の上乗せによって減税が行われ、確かに手取りは増えます。しかし、「160万円の壁」となる給与収入200万円以下の人はそのうちの300万人しかいません。また、給与収入200万円を超える人の基礎控除の上乗せは段階的に減るうえ、現状では基礎控除の上乗せは2025年・2026年の2年限定です。2027年には基礎控除の上乗せがなくなるため、実質的な増税になります。
何より、制度がわかりにくいのが難点です。日本の税の三原則は「公平・中立・簡素」ですが、残念ながらまったく簡素ではありませんし、公平・中立なのかも疑問が残ります。
税金や社会保険料が高く、物価上昇が続き、給与がなかなか上がらない今、生活が苦しい人は年収を問わずたくさんいます。年2〜3万円程度の減税が行われても、手取り増はほんの少しだけです。
政府には国民のほうを向いていただき、効果があってわかりやすい制度を検討していただきたいものです。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。日テレ「カズレーザーと学ぶ。」、TBS「情報7daysニュースキャスター」などテレビ・ラジオ出演多数。ニュースメディア「Mocha」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。「はじめての新NISA&iDeCo」(成美堂出版)、「定年後ずっと困らないお金の話」(大和書房)など書籍100冊、累計180万部超。日本年金学会会員。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki

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