24/11/07
値上がり期待大の「IPO」新NISAスタート後の勝率8割ってほんと?
久しぶりの大型上場ということで注目が集まっていた東京メトロ(東京地下鉄・9023/東証プライム)。上場初日の2024年10月23日には、公開価格1,200円に対して1,630円の初値がつきました。新規公開株式(IPO)では、この初値で売却して差益を得る投資方法がありますが、東京地下鉄のように、初値が公開価格を上回る割合(勝率)が8割前後というのは本当なのでしょうか。
新NISA(少額投資非課税制度)がスタートし、東京地下鉄以外にもタイミー(215A/東証グロース)など話題の会社が続々と新規上場を果たしている2024年。今回は10月23日時点での結果を紹介します。
初心者からはじめられるIPO投資
IPO投資には大きく、上場前に公開価格で購入する「プライマリー」、上場後に市場で購入する「セカンダリー」と呼ばれる投資手法があります。今回紹介するのは前者の「プライマリー」。ひとことでいえば、上場前に公開価格で株式を買い、上場後についた最初の株価(初値)で売却することで、利益を狙う投資です。
上場前に購入するとは一体どういうことなのか、気になりますよね。
●抽選申込から上場初日までわずか2週間
IPOでは、新しく上場する株式を投資家に買ってもらいます。株式を新規に公開する際の価格(公開価格)は、投資家の需要の積み上げによって決まります。
例えば、東京地下鉄のケースで見てみましょう。
主幹事証券会社(IPOを実施する証券会社の中で、メインとなって取り組む証券会社)などによって当初決められた東京地下鉄の上場承認時の「想定発行価格」は1,100円。その後、大口の機関投資家の意見に基づき、「仮条件」と呼ばれる価格帯が1,100~1,200円に決まったことが、10月7日に発表されました。
この仮条件をもとに行われる、個人投資家らによる需要申告(抽選申込)は、10月8日から10月11日までの4日間。公開価格1,200円が決定されたのは10月15日でした。そして、公開価格以上の価格で申し込んでいた人の中で抽選が行われ、当選者は10月16日から21日の間に東京地下鉄株の購入の申し込みを行いました。
<東京地下鉄の上場日までの主なスケジュール(いずれも2024年)>
筆者作成
そして10月23日に東京地下鉄株が新規上場。初値は公開価格の1,200円を上回る1,630円でした。IPOの抽選にあたり、1,200円で100株購入できていた人は、初値時点で売却(初値売り)するだけで4万3000円(売却手数料を除く)の利益を得られていた計算です。
なお、IPO投資では購入手数料がかかりません。これも大きなメリットの一つです。
2022~2024年は187勝55敗6分で勝率77.3%
東京地下鉄のように、初値が公開価格を上回ったケースは2022~2024年の3年間で77.3%(2024年は10月23日時点)となっています。
<IPO銘柄の初値の動向(2022~2024年)>
筆者作成
新NISAのスタートした2024年に絞ってみれば、10月23日時点の勝率は81.4%と、8割を超えています。
●初値倍率の上位は今話題のテーマがズラリ
この3年間における初値倍率の1位は、eスポーツ事業を手掛けるGLOEグループ(9565/東証グロース)が、2022年11月の上場時につけた5.3倍(公開価格:1,170円、初値:6,200円)でした。
また、2023年6月に上場を果たした、AIソリューション事業等を手掛けるジーデップ・アドバンス(5885/東証グロース)は公開価格4,510円に対して初値が13,680円に。初値売り益(100株)は617,000円となっています。
上場後の売買で同じような成果を出そうとすると非常に大変ですが、初値売りによるIPO投資では高い勝率の中で、そのような銘柄に遭遇する可能性は不思議ではありません。
<2022~2024年の初値倍率ランキング>
筆者作成
●IPOの公開価格は一般的に割安に設定されている
では、なぜ初値売りによるIPO投資の勝率はそんなに高いのでしょうか。上場する会社や証券会社は、より多くの投資家に株主になってもらいたいと考えています。しかしながら、財務状況や今後の業績見通し等、投資の判断材料となる情報がまだまだ乏しい中では、投資のリスクが高いと言わざるを得ません。そこで、そのようなリスクを考慮する形で、本来想定される市場価格よりも割安な公開価格が設定されることは、一定の合理性があると言えるでしょう。売りたい人よりも、買いたい人が多いこともまた、理由の一つです。
●「IPO投資は必ず儲かる」わけではない点に注意
残念ながら、すべてのIPO銘柄において、初値が公開価格を上回るわけでないことも、その勝率は示しています。しかし、初値が公開価格を下回った(公募割れ)銘柄だけに絞って分析をすると、それらの初値倍率は平均0.9倍で、初値売り損失の平均は▲12,485円。つまり、初値が公開価格を上回るときに比べると、振れ幅が抑えられていることが分かります。初値が公開価格を下回った場合には、初値で売らずにしばらく保有することも考えられますが、このようなデータも判断材料として覚えておきたいところです。
過去3年で最高の勝率、2024年のIPO投資を深掘り
ここで、2024年のIPO投資の環境を、もう少し掘り下げて見ていきましょう。
●「公募割れ」が目立ち始めた2024年後半戦のIPO市場
2024年10月23日時点における、2024年IPO投資の勝率は48勝11敗2分。その勝率は、過去3年の中で最も高い81.4%ですが、平均の初値倍率や初値売り損益で見劣りすることは、先ほどの表からも明らかです。また、その勝率と初値倍率は、月を追うごとに失速している点は見逃せません。
<2024年月別IPO実績と初値倍率>
筆者作成
●IPO投資の鍵を握る「東証グロース市場」の動向をチェック
2024年のIPO61銘柄のうち47銘柄は、高い成長可能性を有する新興企業向けの「東証グロース市場」に上場を果たしましたが、初値が上がりにくい背景には、東証グロース市場に対する投資家の厳しい見方が大きく関係しています。AI事業を手掛けるヘッドウォータース (9565/東証グロース)が2020年9月に当時の東証マザーズ市場に上場を果たしたときにたたき出した、初値倍率11.9倍(初値売り益は261.6万円)というような過熱感は、現在の市場環境では起こりにくい状況です。
<東証グロース市場250指数の推移>
JPX総研(日本取引所グループ)「東証グロース市場250指数- 週足チャート」より
●2024年は非テック銘柄も上位にランクイン
初値売りによるIPO投資で一攫千金を狙うことを夢見ていた人にとっては、2024年の数字に物足りなさを感じるかもしれません。しかしながら、売買のタイミングをあまり考えることなく、確実に利益を得られる可能性を優先するのであれば、初値売りによるIPO投資はやはり、有効な投資方法の一つと言えるでしょう。さらに、2024年における初値倍率の上位には、非テック銘柄も多くランクインしており、すそ野の広さがうかがえます。
<2022~2024年の初値倍率ランキング>
筆者作成
IPO投資もNISAを使って節税をしよう
株式や投資信託などの金融商品に投資をすると本来、売却して得た利益や受け取った配当等に対して20.315%の税金がかかります。319,000円となった光フードサービス(138A/東証グロース)の初値売り益にも、本来であれば64,804円の税金がかかりますが、NISA口座の「成長投資枠」で購入をしていれば、319,000円がそのまま手元に残るのでお得ですよね。
●新NISAの目玉「生涯投資枠」を圧迫しないIPO投資
現在の成長投資枠の前身である2023年までの一般NISAにおける年間の投資枠は120万円まででしたが、2024年からは2倍の240万円に拡充されました。また、年間の非課税投資枠とは別に設けられた、1,800万円の「非課税保有限度額(生涯投資枠)」にも注目です。このうち、成長投資枠に係る限度額は1,200万円ですが、売却をすると買付金額の分だけ生涯投資枠が翌年に復活します。つまり、上場直後の初値で売ることを基本的な前提としているIPO投資は、この生涯投資枠を圧迫しないため、NISAとの相性もばっちりです。
<NISAの概要(2024年1月1日から)>
筆者作成
●コツコツ積立投資をしながらIPO投資もできる新NISA
2024年からのNISAでは、家計の安定的な資産形成を目的に、長期の積立・分散投資を促す「つみたて投資枠」と、「成長投資枠」の併用が可能となりました。つみたて投資枠の120万円と成長投資枠の240万円を合わせて、その年間の非課税投資枠は最大360万円。例えば、つみたて投資枠で全世界の株式を投資対象とするインデックスファンドを積立購入している人が、成長投資枠を使ってIPO投資も行えるなど、その利用シーンは広がるばかりです。将来有望なIPO銘柄であることが見込まれるのであれば、成長投資枠を使ったIPOセカンダリー投資も一つの選択肢でしょう。
●NISAの注意点は損益通算ができないこと
NISA口座で発生する運用益(売却益・配当/分配金)に対して税金がかからないのは、利益がなかったとみなしてくれているからですが、損失も同様になかったものとみなされます。したがって、課税口座(一般口座や特定口座)との間で損益を通算することや、損失を翌年以降に繰り越すことができません。これらはNISAを活用する際の最も注意すべき点の一つですが、初値売りから利益を獲得できる可能性が非常に高いことはこれまで紹介してきたとおりです。したがって、初値売りによるIPO投資の場合には、NISA特有の注意点を理解しつつも、節税メリットに対する期待の方が大きいと言えるでしょう。
●複数の証券会社から申し込んで当選確率を高めよう
IPO銘柄は、すべての証券会社で申し込めるわけではありません。申し込める証券会社はIPO銘柄ごとに異なるほか、割当数は証券会社ごとです。割当数を上回る申し込みがあった場合には、各証券会社で抽選が行われますが、一般的に言われる当選確率は1%前後。東京地下鉄のケースでも、楽天証券における抽選倍率は88倍で、当選確率は約1.1%でした。
年間の新規上場数が90社前後であることを考えると、まさに狭き門です。当選確率を上げるためには、複数の証券会社から申し込みを行い、抽選の機会を増やすことが基本となりますが、すべての証券会社というわけにはいきませんよね。限られた資金力の中ではまず、「一人一票」の平等抽選の比率が高い証券会社や、資金ゼロでも抽選に参加できる証券会社がおすすめです。その他、割当数が多い主幹事証券会社や、IPO銘柄の取り扱い実績が多い証券会社から、どんどんアプローチを重ねてみましょう。
IPO投資・NISAの活用法は資産形成全体から考えよう
今回は、「公開価格」と上場直後の「初値」とのギャップに注目する、IPO投資を解説しました。過去数年の動向と比べてその「初値倍率」は低調気味ではあるものの、初値が公開価格を上回る勝率の高さは2024年も変わらないようです。そのような機会を捉えた投資手法は改めて、個人投資家にとっても効率の良さが魅力の一つと言ってよいでしょう。
しかしながら、すべての銘柄が上場直後に値上がりをするわけでもなければ、抽選の狭き門を突破しなければならないこの投資手法を一番に考えることは生産的ではありません。今回は、2024年に大幅に拡充されたNISAの「成長投資枠」がIPO投資を後押しすることも解説しましたが、長い目で家計の安定的な資産形成を目指す「つみたて投資枠」も含めて、みなさん一人ひとりの投資運用目的に合わせた形でNISA制度をフル活用しましょう。
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神中 智博 ファイナンシャルプランナー(CFP®)
1992年宮崎県生まれ。関西学院大学会計大学院を修了後、NTTビジネスアソシエ西日本で、NTT西日本グループの財務や内部統制等の業務に従事。2022年10月に兵庫県神戸市で独立系FP事務所ライフホーカーを開業し、現在に至る。家計相談に加えて、公的年金や確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)を活用した資産形成に関するテーマを中心に、執筆・講演活動も展開。「老後不安バスター」として、だれもが老後に向けて自信を持てる社会を目指して奮闘している。CFP®(日本FP協会認定)の他、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー、企業年金管理士(確定拠出年金)、一種外務員資格等を保有。
X(旧Twitter)→https://twitter.com/lifehawker
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