23/12/23
【2024年度税制改正大綱】定額減税・住宅ローン減税・扶養控除…主な改正点を解説
政府与党は2023年12月14日、翌年以降の税制改正の方向性をまとめた「税制改正大綱」を発表しました。
今回は、そのなかから家計に大きく影響を与える「定額減税」「住宅ローン減税」「扶養控除」の3点を中心に解説します。
定額減税:1人あたり所得税3万円、住民税1万円が減税に
2024年6月から、1人あたり所得税3万円、住民税1万円の4万円が減税されます。減税の対象になるのは、納税者本人と配偶者や扶養家族。たとえば、夫婦と子ども1人の世帯では合計12万円の減税が受けられます。納める税金が少なくなることで、手取りがその分増えます。
ただし、年収2000万円(厳密には「合計所得金額1805 万円超(給与収入のみの場合、給与収入2000万円超)」の富裕層は対象外です。
所得税と住民税では、減税の方法が異なります。
●所得税の減税方法
所得税の定額減税は、給与から源泉徴収されている所得税を直接減らします。2024年6月に1人あたり3万円分を差し引きますが、所得税がそもそも3万円に満たない場合には、翌月以降に繰り越して減税を行います。
たとえば、毎月の所得税額が9000円(年約11万円)のシングルの方の場合、所得税は次のように減税されます。
<所得税の定額減税のイメージ>
(株)Money&You作成
図のように、6月から8月までは9000円全額が控除されるため、所得税の支払いはゼロになります。一方9月は、残額3000円のみが控除されるため、所得税の支払いは6000円に。そして10月以降は減税前同様、所得税は9000円となります。減税しきれなかった所得税の控除は、2024年12月まで続きます。
●住民税の減税方法
住民税は、2024年6月分を徴収せず、7月分から2025年6月分までの11か月間にわたって減税分を均等に割り振って徴収します。
たとえば、住民税額が年18万円の3人家族(夫婦と子ども1人)で、夫が妻と子どもを扶養している場合、住民税の定額減税は次のように行われます。
<住民税の定額減税のイメージ>
(株)Money&You作成
2024年6月には住民税の徴収は行われません。翌7月から2025年5月までの11か月間は、18万円から定額減税分の3万円を引いた15万円を11か月で割った金額が毎月均等に徴収されます。ここでは、1万3636円となります。
●年金受給世帯はどうなる?
年金受給世帯についても上とおおむね同様です。所得税は2024年6月の年金支給時に減税され、減税できない分は8月以降に順次減税されます。住民税は2024年8月徴収分までの税額がすでに決まっているので、2024年10月分から減税され、減税できない分は12月分以降に順次差し引かれます。
●定額減税しきれない場合はどうなる?
所得税や住民税を納税しているものの、減税額が1人あたり4万円に満たない場合は、減税の恩恵が受けにくくなってしまいます。この場合は、減税額と納税額の差額を給付金で支給します。
給付金は、自治体の事務負担を考慮して1万円単位で支給されます。たとえば、納税額が2万5000円なら、減税額との差額は1万5000円ですが、給付金は2万円が支給されます。
●低所得者世帯・住民税非課税世帯はどうなる?
住民税の均等割は納めているものの、所得税は非課税という低所得者世帯には1世帯あたり10万円、住民税非課税世帯には1世帯あたり7万円が支給されます。住民税非課税世帯には、すでに2023年夏以降に3万円が給付されています。したがって、今回の定額減税によって、低所得者世帯・住民税非課税世帯とも合わせて10万円の支援が行われることになります。
さらに、これらの世帯で18歳以下の子を扶養している場合には、1人あたり5万円の給付金が追加で支給されます。
これらの給付は、早ければ2024年2月から3月にも実施される予定です。
なお、新たに住民税非課税世帯・住民税の均等割のみ課税される世帯になる場合も10万円の給付が行われます。
今回の税制改正の目玉とも言える定額減税。減税の回数については、現状は2024年の1回のみですが、税制改正大綱には「今後、賃金、物価等の状況を勘案し、必要があると認めるときは、所要の家計支援の措置を検討する」とも記載されています。今後の動向によっては、さらなる減税もあるかもしれません。
住宅ローン減税:子育て世帯に配慮した制度
住宅ローン減税は、住宅ローンを借りて住宅を購入・リフォームした人が節税できる制度。毎年の住宅ローン残高(原則最大3000万円)の0.7%にあたる金額を所得税から差し引くことができます。また、所得税から引ききれない場合は住民税からも差し引くことができます(前年度課税所得×5%、最高9万7,500円まで)。
2024年〜2025年の住宅ローン減税では、2022年〜2023年の住宅ローン減税よりも控除できる金額が引き下げられます。しかし、子育て世帯や夫婦どちらかが39歳以下の世帯は2024年については引き下げが見送られました。その分住宅ローン減税で恩恵を受けられます。
<住宅ローン減税の住宅の種類と最大控除額>
(株)Money&You作成
なお、税制改正大綱によると、この措置は2025年度(令和7年度)の税制改正で検討して結論を出す予定でしたが、急激な住宅価格の上昇などの状況を踏まえて先行的に対応するとのこと。つまり、2025年も引き続き、引き下げが見送られる可能性があります。
住宅リフォーム税制も拡充、子育て対応のリフォームも対象に
住宅の改修にかかった費用の10%を所得税から差し引く「住宅リフォーム税制」が2年間延長(2025年12月31日まで)されます。
控除対象となる金額の上限は、耐震リフォーム・三世代同居リフォーム・省エネリフォームの場合は250万円、バリアフリーリフォームの場合は200万円となっています。
また、新たに子育て世帯などが子育てに対応した住宅へのリフォームを行なった場合にも工事費用相当額の10%が所得税から控除されるようになります。
控除対象となる金額の上限は250万円。対象となる工事としては
①住宅内における子どもの事故を防止するための工事
②対面式キッチンへの交換工事
③開口部の防犯性を高める工事
④収納設備を増設する工事
⑤開口部・界壁・床の防音性を高める工事
⑥間取り変更工事(一定のものに限る)
が挙げられています。子育てに対応したリフォームを支援することで、子育て世帯の居住環境を改善する狙いがあります。
子育て対応のリフォームによる控除も住宅ローン減税と同じく、現時点では2024年中のみの措置ですが、2025年については2025年度(令和7年度)の税制改正で検討して結論を出すとのこと。2025年も同様の控除が受けられる可能性があります。
生命保険料控除も拡充される可能性あり
子育て世帯への控除の拡充という観点で、生命保険料控除も拡充されるかもしれません。23歳未満の扶養親族がいる場合、新生命保険料のうち「一般生命保険料控除」の適用額が4万円から6万円に引き上げられる可能性があります。
ただし、一般生命保険料控除・介護医療保険料控除・個人年金保険料控除の合計適用限度額は現行の12万円のままとなる見込み。こちらは、2025年度(令和7年度)の税制改正で検討され、結論が出る見込みです。
扶養控除:児童手当拡充で縮小される可能性あり
2024年10月から、政府は児童手当の所得制限を撤廃し、対象を高校生まで広げて1人あたり月1万円を支給することを決定しています。これに伴い、16歳〜18歳の子どもがいる親が対象の扶養控除の縮小が検討されています。
具体的には、所得税の控除額を年38万円から25万円に、住民税は33万円から12万円に引き下げることを検討しています。
扶養控除が縮小されると、所得の多い世帯ほど税額が増えてしまいます。児童手当をもらったほうが手取りは増加しますが、児童手当の恩恵が減ってしまうことには変わりありません。
かつて、児童手当(旧民主党政権時代の「子ども手当」)の制度が創設されたときには、15歳までの子を育てる人に適用されていた15歳までの扶養控除(年少扶養控除)が廃止された経緯があります。今回の扶養控除縮小も、その流れを汲むものでしょう。
高校生に対する扶養控除の縮小はひとまずまだ決定ではなく、2026年分(令和8年分)以降の所得税と2027年度分(令和9年分)の住民税に適用するかが検討されることになります。今後の動向を注視しておきましょう。
2024年の税制改正大綱のなかから、「定額減税」「住宅ローン減税」「扶養控除」の変更点・今後の動向を紹介してきました。変更点を知って活用するのと、知らずに何もしないのでは、支払うお金や手元に残るお金に差が出てくるでしょう。使える制度はなるべくフル活用して、厳しい時代を乗り越えていきましょう。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
畠山 憲一 Mocha編集長
1979年東京生まれ、埼玉育ち。大学卒業後、経済のことをまったく知らないままマネー本を扱う編集プロダクション・出版社に勤務。そこでゼロから学びつつ十余年にわたり書籍・ムック・雑誌記事などの作成に携わる。その経験を生かし、マネー初心者がわからないところ・つまずきやすいところをやさしく解説することを得意にしている。2018年より現職。ファイナンシャル・プランニング技能士2級。教員免許も保有。趣味はランニング。
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