23/08/09
「年金を繰り上げして運用に回すのが得」は本当なのか
年金の受け取り方として「65歳からもらうよりも、繰り上げ受給して、そのお金を運用した方が得だ」と考える人がいます。しかし、それは本当にお得な方法なのでしょうか?安易に繰り上げ受給を選ぶ前に、繰り上げ受給の正しい知識と運用のデメリットを確認しておきましょう。今回は繰り上げ受給の概要と、運用と年金受給の側面を確認したうえで、年金を繰り上げ受給して運用することが本当に得なのか解説します。
年金を繰り上げ受給するとどうなる?
通常、年金は65歳からもらうことになりますが、繰り上げ受給すれば60歳から64歳のタイミングでもらい始めることも可能です。ただ、繰り上げ受給には注意したい点がいくつかあります。
まず繰り上げ受給をすると、1ヵ月につき0.4%、年4.8%、最大5年で24%年金が減額になります。繰り上げ受給を選択したら変更はできないため、生涯もらえる年金が減額されることになります。
また、繰り上げ受給をすると、国民年金の任意加入ができなくなります。そのため国民年金の加入期間が40年に満たないとき、任意加入で老齢基礎年金を満額に近づけることはできません。
さらに、繰り上げ受給では国民年金と厚生年金の両方が繰り上げになります。国民年金と厚生年金のどちらか一方だけ繰り上げることはできないため、すべての年金が減額になってしまうのです。
年金が減額になるなど繰り上げ受給はデメリットも大きいので、よく考えてから利用しましょう。
運用と年金受給はここが違う!
繰り上げ受給をして、もらった年金を運用するのが得だと考える人もいますが、ここで運用(投資)と年金受給の違いを見ておきましょう。
●運用(投資)の側面
運用(投資)では通常の預貯金よりも年利が高くなるため、大きなリターンが期待できます。ただ運用では常にリスクが伴い、元本割れする可能性もあります。
それに、急に現金が必要になったとき、期待するリターンが得られる状態で現金化できるとは限りません。また現金化して使ってしまえば、手元にお金はなくなってしまいます。使ったお金を取り戻すには収入源が必要ですし、時間もかかります。
年金を繰り上げ受給して運用に回したとしても、期待するリターンが得られるわけではないことは頭に入れておきたいです。
●年金受給の側面
年金は、受給水準が社会情勢などで変わる可能性はありますが、受給の請求手続きをすれば2ヵ月ごとに指定した口座へ確実に振り込まれます。
また繰り下げ受給を選択すれば、1ヵ月につき0.7%、年利で8.4%も年金を増やせます。さらに5年で42%、上限の75歳まで繰り下げれば最大84%も増額できるのです。増額した年金は一生涯もらい続けることができます。繰り下げ受給は運用のように元本割れすることはなく増額率も変動しないため、安定してお金を増やせる方法といえます。
場合によっては、運用の方が繰り下げ受給よりも年利が良くなるケースもあるでしょう。とはいえ、価格は常に変動するため、常に繰り下げ受給の年利を上回るとは限りません。それどころか、反対に元本割れするリスクまであるのです。
このように、運用と年金受給の側面には大きな違いがあることを押さえておきましょう。
繰り上げ受給して運用するのは得なの?
運用と年金受給の側面には大きな違いがあることを踏まえると、繰り上げ受給してもらった年金を運用するのは得とは言い切れないのではないでしょうか。
そもそも繰り上げ受給は年金が減額になります。そのため得するほどリターンを得たいなら、繰り上げ受給の減額率である年利4.8%をはるかに超える年利が必要です。もしそんな有利な商品があったとしても、常に良い運用成果が見込まれるとは限りません。時に目減りすることがあるかもしれないし、経済状況によっては価格が大きく下落する可能性もないとはいえません。
けれども年金を繰り下げ受給にすれば、1ヵ月繰り下げて0.7%増額、1年で8.4%増額できます。それに年金は増額率が一生涯変わらず、元本割れもないのが特長です。年金が増額する分、税金や社会保険料が増えるので手取りが8.4%増額するわけではありませんが、年金は2ヵ月に一度のペースで必ず手元にお金が入ってきます。そう考えると、繰り下げ受給で増額させた方が運用よりも安定してお金を得られます。
年金を増やすことが目的であれば、運用よりも繰り下げ受給を選択した方が確実にお金を増やすことができます。さらに、年金を生活費として使わなければいけない状況ならば、繰り上げ受給をして運用するのはやめた方がよいでしょう。
まとめ
繰り上げ受給で減額した年金を運用で増やすのは、目減りするリスクを考えるとおすすめできません。それよりも、年金を繰り下げ受給した方が安定的に年金を増やすことができます。その場合、繰り下げ期間中の生活費を工面する必要がありますが、貯蓄や老齢基礎年金と老齢厚生年金のどちらか一方だけを繰り下げることで対処できます。ぜひ自分のライフスタイルに合う受給方法を検討してみましょう。
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前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。
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