23/02/03
「103万円の壁」を超えない方がいい人、超えた方がいい人
扶養に入って働く人が気にする壁の1つ「103万円の壁」。この壁を超えないように気を使いながら働く人も数なくありません。でも、103万円の壁を気にして働くのは、本当の意味でいいことなのでしょうか?実は、超えないように働いた方がいい人もいれば、超えることを気にせず働いた方がいい人もいます。今回は、103万円の壁を超えないように働いた方がいい5つのケースと、むしろ超えた方がいいケースをご紹介します(なお、以下は便宜上、妻が夫の扶養に入って働くこととします)。
103万円の壁を超えない方がいいケース1:学生やフリーターで税金上の扶養に入りたい人
103万円の壁は、税金のボーダーラインです。
(基礎控除48万円+給与所得控除55万円=103万円)
年収103万円までは所得税がかかりませんが、103万円を超えると所得税が引かれるので、手取りが減ります。
それだけでなく103万円は、扶養控除のボーダーラインでもあります。扶養控除に該当する扶養親族は「年間の合計所得金額が48万円以下」と決められています。これは給与収入でいえば103万円以下となります。つまり、大学生やフリーターの子どもが年収103万円を超えると、親が扶養控除を受けられなくなるのです。
ちなみに年収が100万円を超えると住民税が課税されるようになるので、頭に入れておいてくださいね。
(住民税所得割課税基準45万円+給与所得控除55万円=100万円)
103万円の壁を超えない方がいいケース2:配偶者控除を受け、扶養から外れたくない人
夫が配偶者控除を受けるには、夫の合計所得金額が1千万円以下で、なおかつ配偶者の年収が103万円以下でなければなりません。また、夫の合計所得金額に応じて、配偶者控除の額は以下のように変わります。
●配偶者控除の控除額
国税庁「配偶者控除」より筆者作成
夫が配偶者控除を受けられなくても、妻の合計所得金額に応じて配偶者特別控除を受けられます。しかし配偶者特別控除を受ける場合、妻の働き方によっては社会保険の壁である106万円の壁や130万円の壁を超えて夫の扶養から外れる可能性があります。そのため、夫が配偶者控除を受け、なおかつ妻が扶養から外れたくないときは、妻の年収を103万円以下に抑える必要があります。
103万円の壁を超えない方がいいケース3:勤め先の扶養手当をもらいたい人
扶養手当(家族手当)とは、企業が福利厚生の1つとして実施しているもので、扶養する配偶者や家族がいる従業員がもらえる手当です。
人事院が公表している「令和3年度職種別民間給与実態調査の結果」によると、全体の74.1%の企業が家族手当制度を導入しているとのことでした。ただし、家族手当の対象となる配偶者の収入に制限を設けている企業も少なくありません。前述の調査では、45.4%の企業が配偶者の収入制限の額を103万円以下としています。
もし勤め先の扶養手当に設定されている配偶者の収入制限が103万円以下なら、扶養手当をもらうためには、妻は年収を103万円以下に抑えて働く必要があります。
103万円の壁を超えない方がいいケース4:子ども関連の公的制度で所得制限内におさめたい人
子ども関連の代表的な公的制度といえば、「児童手当制度」と「高等学校等就学支援金制度」です。どちらの制度にも所得制限があり、所得制限におさめるためには、妻の働き方を考慮する必要があります。
●児童手当制度の場合
児童手当制度では、扶養親族数に応じて所得制限限度額が設定されています。そして、扶養親族の人数が多くなれば、所得制限限度額が上がるようになっています。
このとき配偶者も人数に含めることができますが、その場合は配偶者の年収を103万円以下に抑えなければなりません。
●高等学校等就学支援金制度
高等学校等就学支援金制度を受けるには所得要件があり、それは以下のように住民税の課税標準額(課税所得額)で判定されます。
○高等学校等就学支援金制度の所得要件
保護者等の課税標準額(課税所得額)×6%-市町村民税の調整額=30万4200円未満
この場合、世帯年数の目安は約910万円未満で、該当すれば公立高校の授業料が実質無償化になり、課税標準額が一定額以下になれば私立高校の授業料も助成されます。
就学支援金をもらえるかどうかを左右するのは課税所得です。課税所得は、基礎控除や社会保険料控除、生命保険料控除、医療費控除などの所得控除が反映されます。その中の1つが配偶者控除です。妻の収入が103万円以下であれば配偶者控除を受けられるので、世帯の課税所得を下げることができます。もし、夫の年収が高く年収目安額に迫る場合は、配偶者控除を使えた方が就学支援金を受けられる可能性が出てくるでしょう。
103万円の壁を超えない方がいいケース5:配偶者の障害者控除を受けたい人
納税する本人、同一生計配偶者、扶養親族が障害を持つ場合、対象となる障害の範囲内に該当すれば、障害者控除を受けることができます。生計を共にする配偶者に障害があるときは、障害者控除によって税金の負担を軽くすることが可能です。
ただし、障害者控除が適用される「同一生計配偶者」とは、次の事項に該当する人をいいます。
・民法の規定による配偶者であること(内縁関係は適用外)
・納税者と生計を一にしていること
・年間の合計所得金額が48万円以下であること
上記の“年間の合計所得金額が48万円以下”とは、給与収入でいえば年収103万円以下に該当します。つまり、障害を持つ配偶者の障害者控除を受けたい場合は、配偶者が年収103万円以下でなければ控除を受けられないので注意が必要です。
こんな人は103万円の壁にこだわらず働いたほうがいい
103万円の壁を超えない方がいいケースを5つご紹介しました。しかし、ご紹介したケースに該当しないのであれば103万円の壁にこだわる必要はありません。
人生を長い目で見ると、以下のような人はむしろ103万円の壁を超えて働いた方がお得です。
●自分の収入や貯蓄を増やしたい
自分の力で収入を得ることができれば、自由に使えるお金を作ることができ、人生の選択肢が広がります。また、夫に先立たれたとき、自分名義の貯蓄があれば安心です。自分の収入や貯蓄を増やしたいと考えているなら、103万円の壁にはこだわらず働くことをおすすめします。
●自分の老齢年金を増やしたい
103万円の壁のほかに、妻が気にする壁の1つに130万円の壁があります。企業規模によっては106万円の壁になります。妻の年収が130万円(106万円)を超えると勤め先の社会保険に加入することになります。そうなると夫の扶養から外れることになるのでかえって損すると考える人も少なくありません。でも、長い目で見るとお得な面が多いんです。
勤め先で厚生年金に加入できると、将来もらえる老齢厚生年金を増やすことができます。そうなれば自分名義の年金が増えるので、年金生活になったとき暮らしに余裕が出るでしょう。
●働く人が受けられる手厚い保障がほしい
妻が勤め先の社会保険に加入することで得られるメリットは年金が増えることだけではありません。健康保険に加入できると、病気やケガで休業したときにもらえる傷病手当金や、出産したときにもらえる出産手当金など、充実した給付が得られます。
また、働く人の健康保険料と厚生年金保険料は会社と折半するので、負担が半分になりお得です。
まとめ
103万円の壁はあくまでも税金の壁で、所得税や住民税が課税されるだけです。それに、年収から所得控除を差し引けば引かれる税金はそれほど多くはならないので、103万円の壁は気にせず働いた方がお得です。ただし、扶養控除や扶養手当、障害者控除など、配偶者や扶養親族が年収を103万円以下に抑えなければ対象から外れるものもあります。今回ご紹介した103万円の壁を超えない方がいいケースに該当するときは働き方を考え、そうでない場合は、収入や貯蓄、将来もらえる年金を増やすため、社会保険の給付を受けるためにも、働き方を制限する必要はありません。自分の置かれた状況から働き方を考えてみてくださいね。
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前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。
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