23/01/21
年金「月20万円」もらえない人は意外と多い
コロナ禍が依然として続くなか、リモートワークが定着し、自分の時間が増えた人が多いのではないでしょうか。そして、時間ができたことで投資に目を向けたり、老後資金のことを考えたりする人が増えているようです。
かつて「老後2000万円問題」が話題になりました。老後資金は、子育てが終わってから準備しようとしても手遅れになりかねません。実際、厚生年金受取額の現状を知ると早く準備したほうがいいと感じるでしょう。今回は、厚生年金を受給している人の現状と今からできる年金を増やす方法をお伝えします。
女性の50%は厚生年金が10万円未満
下のデータは、2022年12月に厚生労働省年金局が公表した「令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」による年金月額階級別の老齢年金受給権者数(国民年金を含む)です。1万円ごとの受給者数データがありますが、イメージしやすいよう年金をいくらもらえているのか5万円ごとの金額別で示しています。
●老齢年金(国民年金+厚生年金)の受給者数・割合
【受給者数】
【男女別・金額別割合】
・男性
・女性
厚生労働省年金局「令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」より筆者作成
男性でもっとも多い受給額は15万円〜20万円未満で41.7%となっています。また、20万円未満に絞ってみると77.5%ですから、4人に3人は20万円未満だとわかります。 いっぽう、女性で一番多いのは5万円〜10万円未満の43.0%、次いで10万円〜15万円未満が42.8%になっています。グラフのとおり、女性の約半数が10万円未満で、20万円未満までとして考えると全体の90.7%が20万円もらえていないことがわかります。20万円以上はわずか1.2%ほど。女性は特に年金を20万円もらえていない人が多いのが現状です。
現在年金をもらっている世代は、結婚後も働き続ける女性は今ほど多くありませんでした。女性の受給者総数が男性の半数ほどとなっていることからもそれは明らかです。そのため、男性に比べて年金の受給額が少ない結果になっています。しかし、生涯賃金の平均が男性より少ない女性は、現在の男性給付額からみても「それで充分」といえる年金額がもらえないと考えられます。
年金は努力次第で増やせる
年金を20万円以上もらっているのは男性で22.5%、女性で1.2%しかいません。しかし、年金は自分で増やすことができます。年金を増やすためにできることを4つまとめて紹介します。
●年金を増やすためにできること①:未納がないか確認する
たとえば「学生納付特例」。20歳になると支払い義務がある国民年金ですが、学生は手続きをすると学生納付特例により支払いが猶予されます。就職後に支払えばよいのですが未納のまま放置していると年金額が減ってしまいます。
また、転職やフリーで仕事をするなど働き方に変化があった場合、年金納付にブランクが生じた場合などに未納が生じがちです。収入が少ない時に申請して免除してもらうケースもあります。これらは、未納分を納付すると年金額を増やすことができます。
ちなみに、さかのぼって納付する「追納」は申請をしている場合は10年前まで、申請していない場合は2年前までです。誕生日月に毎年送られてくるねんきん定期便を確認して猶予、未納、免除がないか確認しましょう。
●年金を増やすためにできること②:60歳以降も働く
年金の納付は60歳までですが、厚生年金の対象になる働き方(会社員・公務員など、給料を勤務先から受け取る場合。年金でいう第2号被保険者)をしていれば、70歳まで厚生年金を納付することができます。納付期間・納付額が多くなると、70歳以降受け取る年金額を増やすことができます。
2022年4月からは、65歳以上で働いている人の年金額は、在職中であっても毎年改定が行われるようになっています。これを「在職定時改定」といいます。
65歳以降も厚生年金に加入して働き続けた場合、以前は退職時または70歳到達時にまとめて老齢厚生年金の額を改定していました。たとえば、65歳から70歳まで働いていた場合は、65歳以降の働いた分の年金額への反映は、70歳になってから行われていたのです。
しかし、在職定時改定が導入されることで、働いたことで増える年金額は翌年10月分から反映される(年1回の改定)ので、働くモチベーションアップにもつながるでしょう。なにより、60歳以降も働くことで給料の収入があるのは安心です。老後のライフプランをふまえて、働き方も考えてみるとよいでしょう。
●年金を増やすためにできること③:もらう時期を先延ばしにする
年金は原則として65歳からもらうことができますが、受給開始を繰り下げると1ヵ月につき0.7%増やすことができます。たとえば70歳まで繰り下げれば5年間(60ヵ月)の繰り下げとなりますので、年金額は0.7%×60ヵ月=42%増やせます。最長で75歳まで繰り下げることで、0.7%×120ヵ月=84%増やせます。繰り下げ受給で増えた年金額は生涯続きます。現状、大手銀行の普通預金金利が年0.001%(2023年1月4日時点)であることをふまえるとかなり利回りのよい老後資産運用ともいえます。
しかし、上で紹介した「厚生年金保険・国民年金事業の概況」のデータによると2021年度にこの繰り下げ受給をしている人はわずか1.8%のみとなっています。4年前(2017年度)の1.5%から徐々に増えていますが、繰り下げ受給の制度自体をまだご存知ない方も多いようです。
繰り下げ受給を選択することで、年金額が増えるメリットがあるいっぽう、年金は生きている間しかもらえません。寿命のことは誰にもわかりませんが、早く寿命を全うした場合は繰り下げしない方がよかったということになってしまいます。
65歳からの年金額を上回るおおよその「損益分岐年齢」は、70歳まで繰り下げで81歳、75歳まで繰り下げで86歳以上となります。女性の平均寿命は約88歳(なので一般的な寿命が全うできるのであれば75歳まで繰り下げがよいということになりますが、それまでの生活費をまかなうだけの資力や健康な身体が必要といえます。
なお年金は、繰り上げ受給(60歳から64歳の間に年金を受け取ること)も可能です。繰り上げ受給では、1ヵ月早めるごとに0.4%ずつもらえる年金額が減ります。繰り上げ受給した場合の年金額も生涯続く点には注意が必要ですが、持病がある、収入が不足しているなどの理由で年金を早く受け取りたい場合は繰り上げ受給ができることも押さえておきましょう。
●年金を増やすためにできること④:自分で老後資金をつくる
もらう年金は制度の改定により給付額が変わるため、自助努力で老後資金を貯めていくことも重要です。
掛金が全額所得控除になり所得税・住民税が安くなるiDeCoは厚生年金対象者(企業年金なし)であれば1ヵ月2万3000円(公務員は1万2000円)、フリーランス・自営業なら6万8000円ずつ積み立てることができます。原則60歳まで払い出しができませんが、堅実に貯めるという点ではメリットとなります。
2022年5月からはiDeCoに加入できる年齢が65歳に拡大されます。対象は国民年金の被保険者なので、働いて厚生年金に加入しているか、国民年金の任意加入をしている人のみですが、5年間長く積立をすることによってその分お金を多く積み立てでき、老後資金を手厚く用意できます。
さらに、2022年10月からはこれまでiDeCoに加入しにくかった企業型確定拠出年金(企業型DC)の加入者もiDeCoに入りやすくなりました。企業型DCと併用することでも、老後資金を手厚くできます。
また、運用益・分配金など、投資で得られた利益が非課税になるつみたてNISAも有効。金融庁の定める基準を満たす、低コストで長期の資産形成に向いているとされる投資信託・ETF(上場投資信託)に積立投資することで、コツコツとお金を増やします。つみたてNISAはiDeCoと違って所得控除の対象にはなりませんが、掛金をいつでも引き出すことができます。
さらに、つみたてNISAの制度は2024年に大きく改正されます。
●2024年以降のNISA制度
金融庁のウェブサイトより
2024年からのNISAでは、「つみたて投資枠」で年間120万円、「成長投資枠」で年間240万円まで投資可能に。非課税保有期間も無制限になります。さらに、1,800万円の「非課税保有限度額」の範囲内であれば売却しても非課税枠の再利用が可能です。これによりますます投資しやすくなります。
2023年は現行のつみたてNISAを利用して投資すると、最大40万円の非課税投資枠は1,800万円と別枠で非課税にできますので、可能であれば早く始めるのがおすすめ。2024年以降も、投資をする際にはNISAを最大限に活用しましょう。
まとめ
実際にもらえる年金額の現状に驚かれた方も多いのではないでしょうか。今後、超高齢化社会になるとますます年金額は減り、給付年齢も上がる可能性も否定できません。年金の現状と仕組みを知り、時間をかけて自分でできる老後資金形成を始めていきましょう。
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稲村 優貴子 ファイナンシャルプランナー(CFP︎︎®︎)、心理カウンセラー、ジュニア野菜ソムリエ
大手損害保険会社に事務職で入社後、お客様に直接会って人生にかかわるお金のサポートをする仕事がしたいとの想いから2002年にFP資格を取得し、独立。現在FP For You代表として相談・講演・執筆活動を行っている。日経ウーマン、北海道新聞などへの記事提供、テレビへの取材協力など各メディアでも活躍中。著書『年収の2割が勝手に貯まる家計整え術』河出書房新社。趣味は、旅行・ホットヨガ・食べ歩き・お得情報収集。FP Cafe登録パートナー
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