22/03/23
「専業主婦(主夫)は保険料を支払わないのでずるい」は大きな誤解
国民年金保険料は、日本国民であれば誰もが負担するものです。その制度について、「第3被保険者(専業主婦(夫))は保険料を支払わないのでずるい」といった話がよく聞かれます。今後、年金改正で第3号被保険者が減るため、なおさらそう思われる方もいるかもしれません。しかし、実際の年金制度を考えると、原則世帯収入が同じであれば、支払う保険料も受け取る年金額も同じになります。どういうことか、2022年・2024年の社会保険の適用拡大の仕組みと合わせて解説します。
会社員や公務員に扶養される第3号被保険者
第3号被保険者とは、会社員や公務員など国民年金の第2号被保険者の夫または妻などに扶養される20歳以上60歳未満の配偶者のことです。第3号被保険者の国民年金保険料は、第2号被保険者となる夫や妻が属している保険者が負担することになります。そのため、扶養される配偶者が第3号被保険者である期間は、保険料を自身で負担することなく、保険料納付済の期間としてカウントされます。第3号被保険者には、収入が0円の専業主婦(夫)だけでなく、アルバイトやパートタイムなどの短時間労働者として働き、収入が130万円未満などの場合も該当します。
年金改正で第3号被保険者が減少へ
今後、日本の社会では、高齢化が進む一方で若い働き手が不足し、高齢者や女性がどんどん就業すると予想されます。そのような社会・経済の背景を年金制度に反映させることが検討されています。
2016年から行われている年金制度改正は、将来受け取る年金を増やすことが目的です。2022年、2024年についても改正が行われます。
その改正内容のひとつに、パートやアルバイトなどの短時間労働者が対象のものがあります。今までは、収入があったとしても、年収130万円未満であれば、第3号被保険者でした。しかし、改正により、年収が130万円未満であっても、以下の要件にすべて該当すれば第2号被保険者となり、厚生年金や健康保険を負担することになります。
●事業所の規模
現状は、従業員が500人超であることとなっていますが、2022年10月からは100人超の規模、2024年10月からは50人超の規模にまで、段階的に事業所の規模が引き下げられます。
●勤務期間と勤務時間
パート・アルバイトでの労働時間(所定労働時間)が週20時間以上という点は今後も同様です。勤務期間は現状「1年以上見込まれること」となっていましたが、2022年10月からはフルタイムで働く社員と同じく「2か月以上の見込み」があれば、第2号被保険者となります。
●月額の給与
残業代、通勤手当などを含まない月額の賃金が8万8000円(年収106万円)以上であれば、第2号被保険者となります。
年金改正により第3被保険者が第2号被保険者になると、給与から厚生年金・健康保険が天引きされ、手取額が減ってしまいます。これをデメリットと感じる方もいるでしょう。
しかし、第2号被保険者になることで、将来老齢基礎年金だけではなく、老齢厚生年金も受け取れます。そのため、老齢基礎年金のみの場合よりも経済基盤が安定します。また、所定の障害状態となった際は、障害厚生年金が支給されます。そのうえ、万一お亡くなりになった場合、ご遺族に対して遺族厚生年金が支給されます。
加えて、健康保険にも加入すれば、ケガや病気で仕事を休むことになったときには傷病手当金を受給できます。また、出産の際には、出産手当金を受給できます。どちらも賃金の3分の2程度の給付額となります。病気、出産の際、安定した保障が得られます。
「専業主婦(夫)はずるい」は誤解
第3号被保険者のうち、パート・アルバイトなどで収入を得ている方々のなかには、今後の年金改正により、第2号被保険者へと変わる方も多くいるでしょう。一方、専業主婦(夫)は収入がないため、第3号被保険者のままです。そうなると「専業主婦(夫)だけが、働かずとも年金がもらえるの?そんなのずるい」と感じる方もいるのではないでしょうか。しかし、結論からいうとそんなことはありません。なぜなら、世帯の収入が同じであれば、受け取る年金の総額は同じになるからです。
公的年金には、高い所得の人から、低い所得の人に対して、所得の分配をする「所得再分配機能」が備わっています。
●公的年金にある所得再分配機能
厚生労働省「第9回社会保障審議会(2019年8月27日)」の資料より抜粋
厚生年金の金額や保険料は、平たくいえば給与(賃金)に比例します。給与水準が2分の1になれば、厚生年金の保険料負担も2分の1になります。しかし、国民年金(老齢基礎年金)の金額は、給与の額とは関係ありません。仮に給与が2分の1になっても、支払われる金額は一緒です。そのため世帯ごとにみると、現役時代の給与が低いほど、その給与に対する年金支給額の比率が上がることになります。
●所得再分配機能の具体例
厚生労働省「第9回社会保障審議会(2019年8月27日)」の資料より抜粋
表は現役世代の手取りが35.7万円の世帯と、その半分の17.9万円の世帯の保険料・年金額を比較したものです。どちらの世帯も、夫婦の片方だけが働いており、扶養に入っている妻もしくは夫は第3号被保険者だとします。
手取りが半分になると、健康保険や厚生年金を合計した保険料も半分になります。しかし、その後受け取る年金は手取り35.7万円の世帯が22万円であるのに対し、17.9万円の世帯は17.5万円と、35.7万円の世帯の約8割となっているのです。
また、基礎部分である1階部分の老齢基礎年金は、年金制度にきちんと加入していれば、国民1人に対して、月額6万4816円(2022年4月より)≒約6万5000円が支払われ、夫婦2人の場合であれば6万5000円×2=13万円が支給されます。
年金支給額の比率を見てみると、手取り35.7万円の世帯は61.7%、17.9万円の世帯は97.8%となり、所得の低い世帯の方が、現役時代と同じくらいの年金を受け取れることになります。
世帯には、夫(妻)のみが働いている世帯、夫婦共働き世帯、単身世帯があります。上の例を踏まえて、世帯の形と将来受け取る年金の関係をみてみましょう。
① 夫(妻)のみが働き、毎月手取り35.7万円を受け取る世帯
・夫(妻)の老齢年金は老齢基礎年金+厚生年金
・専業主婦(夫)の老齢年金は老齢基礎年金のみ
② 夫婦ともに、毎月手取り17.9万円(①の半分)ずつの給与を受け取る世帯
・夫(妻)どちらも老齢年金は老齢基礎年金+厚生年金(①の半分)
③ 単身で、毎月手取り17.9万円(①の半分)の給与を受け取る世帯
・老齢年金は老齢基礎年金+厚生年金(①の半分)
老齢基礎年金は、どんな立場でも、年金制度に加入していれば、一人あたりの受け取る金額は決まっています。そして、その上乗せになる厚生年金のみが報酬比例で支払われることになります。①と②は給与の総額が同じですから、保険料の総額も同じになり、支給される年金額も同じになります。つまり、専業主婦(夫)だからずるいということはないのです。また③のように単身の方の場合も、②の夫または妻と給与の総額が同じですから、保険料や年金額も同じになります。
まとめ
公的年金制度には、所得再分配機能があります。そのため、現役時代にたくさんの給与をもらうからといって、給与が少ない人よりも年金額が格段に多くなるわけではありません。また、夫婦の一方だけが働く世帯、共働き世帯、単身世帯などと形が違っても、世帯内の一人あたり分の給与が同じであるなら、年金の給付額は、ほぼ同じになります。「ずるい」わけではありませんので、制度について正しく理解しておきましょう。
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舟本美子 ファイナンシャルプランナー
「大事なお金の価値観を見つけるサポーター」
会計事務所で10年、保険代理店や外資系の保険会社で営業職として14年働いたのち、FPとして独立。あなたに合ったお金との付き合い方を伝え、心豊かに暮らすための情報を発信します。3匹の保護猫と暮らしています。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。FP Cafe登録パートナー
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