21/12/05
年金を月30万円もらえる年収はいくら?
会社員・公務員の方が受け取れる公的年金(老齢基礎年金+老齢厚生年金)の合計は平均14万4268円。男性の平均は16万4770円、女性の平均は10万3159円となっています(厚生労働省「令和元年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」)。そんな中、もし年金が30万円もらえたら、相当な「高年金取り」ですよね。
そもそも年金を月30万円もらうことは可能なのでしょうか。年金額の決まる仕組みと、年金額を増やす方法を解説します。
「年収1222万円」あれば年金を月30万円もらえる?
「年金を月30万円もらうための年収はいくら?」
あるウェブサイトで、このような質問が投げかけられていました。それに対し、「年収の目安は1222万円です」という回答がついていました。
その根拠は、次のように述べられています。
①厚生年金額は「平均標準報酬額×5.769/1000×加入月数」で計算される
(加入期間は480ヶ月とする)
②老齢基礎年金は月額6万5075円(2021年度満額)なので、月30万円の年金を受け取るために必要な老齢厚生年金は月23万5000円となる
③月23万5000円の老齢厚生年金を受け取るために必要な平均標準報酬額を逆算すると、
282万円/(5.769/1000×480)≒101万8400円となる
④平均標準報酬月額を年収に換算すると、
101万8400円×12カ月=1222万円となる
つまり、年収1222万円、月収約101.8万円であれば老齢厚生年金が23万5000円もらえるので、老齢基礎年金と合わせて「年金月30万円」が実現する、というのです。
なんとなく、もっともらしい説明に聞こえますが、この計算には重大なミスがあります。実は③の「平均標準報酬額」には、上限があるのです。
●厚生年金保険料の計算方法
筆者作成
標準報酬月額は、厚生年金保険料などの社会保険料を算出するときに用いる金額です。毎年4月〜6月の給与の平均額(報酬月額)をもとに決定します。標準報酬月額は、全部で32段階の等級に分かれています。等級が高いほど、納める保険料が増え、将来もらえる年金が増えるしくみになっています。
一番上の32等級になる報酬月額を見てみると、「63.5万円〜」となっていますね。つまり、給与が63.5万円(年収762万円)でも、約101.8万円(年収1222万円)であっても、納める保険料は同じ。いいかえれば、年収762万円が上限なのです。これ以上稼いでも、年金は増えません。
正しい年金額を計算するための4つのポイント
正しい年金額を計算するために、押さえておくべきポイントを4つ紹介します。
●①老齢基礎年金と老齢厚生年金では計算方法が違う
日本の公的年金には、20歳から60歳までのすべての人が加入する国民年金と、会社員や公務員が勤務先を通じて加入する厚生年金の2つがあります。毎月の給料から引かれる厚生年金保険料には、国民年金保険料が含まれているので、老後には国民年金・厚生年金の両方から老齢年金が受け取れます。ちなみに、国民年金の老齢年金を「老齢基礎年金」、厚生年金の老齢年金を「老齢厚生年金」といいます。
老齢基礎年金は、原則として20歳〜60歳までの40年間(480ヶ月)国民年金保険料を支払うことで満額受け取れます。
一方、老齢厚生年金の金額はおおよそ「平均年収÷12×5.481/1000×加入月数」という式で計算します。
老齢基礎年金の金額は保険料の支払い期間が同じならば同じですが、老齢厚生年金の金額は平均年収や加入月数によって人それぞれ異なります。
●②平均年収が762万円以上に増えても老齢厚生年金は増えない
平均年収が上がると支払う保険料が増え、老齢厚生年金の金額も増えるのですが、上でお話ししたとおり標準報酬月額には上限があるため、老齢厚生年金の金額は増えません。
●③厚生年金の加入期間が増えると、老齢厚生年金の金額は増える
平均年収が762万円以上になっても老齢厚生年金は増えないのですが、厚生年金に長く加入して厚生年金保険料を納めれば、その分老齢厚生年金の金額は増えます。厚生年金には70歳まで加入できるため、60歳以降も働けば老齢厚生年金を増やすことができます。
●④年金は繰下げ受給で増やせる
年金の受け取りは原則65歳からですが、66歳以降に遅らせることができます。これを年金の繰下げ受給といいます。1か月受け取りを遅らせると年金額は0.7%増額。70歳まで繰り下げると最大で42%年金額が増えます(なお、2022年4月以降は75歳まで繰下げ受給できるように。最大で84%年金額が増えます)
繰下げ受給をしている間は年金が受け取れないので、働いたり貯蓄を取り崩したりして生活費を用意する必要がありますが、老後の年金を大きく増やせます。
年金を月30万円もらうにはどうすれば良いのか
ここまでの話を踏まえて、年金を月30万円もらうことができるのかを早見表で確認してみましょう。
●年金早見表(23歳から厚生年金に加入した場合)
筆者作成
表の上側の緑色の行は厚生年金の加入期間と年齢、左側の青色の列は平均年収を表しています。また、表内の金額は老齢基礎年金の満額(78万900円)と老齢厚生年金の金額を合計した目安の金額(年額)です。なお、64歳までの金額は、繰上げ受給はせずに65歳時点で年金を受け取った場合の金額としています。
年金が月30万円ということは、年金の年額が「360万円以上」になればいいということなのですが…残念ながら年収762万円以上の方が65歳まで厚生年金に加入しても年金額は261.9万円。月額21.8万円ほどだとわかります。これでも平均よりは多いほうではありますが、月30万円にはまだまだ届きません。
どうしても年金月30万円に届かないのでしょうか。年金を増やす方法を取り入れてみましょう。
●年金早見表(65歳以降も厚生年金に加入して働く場合)
筆者作成
厚生年金は70歳まで加入し、年金額を増やすことができます。しかし、仮に70歳まで加入し、平均年収が762万円以上だった場合でも、年金額は283.3万円、月額で23.6万円ほど。月額で1.8万円ほど増えていますが、それでもまだ30万円には届きません。
では、ここに繰下げ受給を反映させます。65歳以降も厚生年金に加入し、75歳まで年金を繰り下げた場合の年金額は、次のようになります。
●年金早見表(65歳以降も厚生年金に加入&年金の繰り下げ)
筆者作成
繰下げ受給の効果は大きく、平均年収が少なくても、年を追うごとに年金額が増えていることがわかります。
表内の赤くしたところが「年金360万円」、つまり年金が月30万円以上もらえるケースです。これをみると、平均年収500万円の人が70歳まで厚生年金に加入して働き、74歳まで年金の繰下げ受給を行うことで初めて年金が月30万円に達することがわかります。
平均年収がそれ以上のケースでも同様に、厚生年金に加入して働き、年金を繰り下げることではじめて年金月30万円が見えてくるのです。
まとめ
年金を月30万円もらうことは可能か、確認してきました。たとえ平均年収の面で「月30万円は厳しい」という方でも、長く働き年金を繰り下げることで、年金額を増やすことはできます。老後に受け取れる年金額の目安がわかっていれば、老後を迎えたあとにどうするのか、人生設計も立てやすくなるでしょう。自分の年金の目安を知るためにも、ぜひ参考にしてみてください。
今回は紹介しませんでしたが、自助努力で増やす自分年金として、iDeCoやつみたてNISAを活用する方法もあります。ぜひ将来に備えていただければと思います。
記事の内容は動画でも紹介しています。よろしければご視聴ください。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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