21/07/02
年金の繰り下げ中でも一括受給可能! 2023年からはさらに有利に
老齢年金が一括受給できることを知っていますか?請求手続きをしないまま受給を繰り下げている場合、5年前までならさかのぼって一括で受給することができます。
実はこの制度が2023年4月からは今よりも有利な制度に変わるのです。そこで今回は、老齢年金の受給方法を見ていきながら、一括受給の新制度について解説します。
あなたは老齢年金をどう受け取る?
老後の暮らしを支える老齢年金。受給するには日本年金機構から送られてくる年金請求書に必要事項を記入し、添付書類とともに年金事務所へ提出します。また、受給には何通りかのパターンがあります。ではここで、老齢年金の受け取り方のパターンを見ていきしょう。
●65歳から受け取る
国民年金の加入者は65歳になると老齢基礎年金を受け取ることができます。また、厚生年金に加入していた人は、老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金も受け取ることができます。通常、65歳になる3ヶ月前に事前送付用の年金請求書が届きます。65歳から老齢年金を受け取る人は、送られてきた年金請求書に必要事項を記入し、添付書類を添えて最寄りの年金事務所に提出します。その後、年金振込通知書が届けば、年金の受給が始まります。
●65歳よりも前に受け取り始める「繰上げ受給」
家庭の経済状況によっては、65歳よりも前に老齢年金を受け取りたい人もいるでしょう。そのような人は、老齢年金の繰上げ受給ができます。
繰上げ受給では、1ヶ月につき0.5%(2022年4月以降は0.4%に緩和の予定)減額されます。60歳0ヶ月まで繰り上げると30%(2022年4月以降は24%になる予定)も減額となってしまいます。繰上げ受給を選択すると、老齢基礎年金と老齢厚生年金は同時に繰上げとなりますので、ご注意ください。
●66歳より後から受け取る「繰下げ受給」
家計に比較的余裕がある、あるいは、戦略的に年金を多く受け取りたい人は、受給額が増額される繰下げ受給を選ぶのもよいでしょう。66歳から70歳までの間に受給開始を遅らせると、1ヶ月につき0.7%増額できます。70歳0ヶ月まで繰り下げれば増額率は42%にも。また、2022年4月からは最大75歳まで繰り下げられるようになる予定で、75歳0ヶ月では最大84%の増額率となる見込みです。
繰下げ受給はアレンジが効き、老齢基礎年金のみを繰下げ、老齢厚生年金のみを繰下げ、両方とも合わせて繰下げというように3パターンから選択することができます。家庭の状況に合わせた方法を選択しましょう。
●一括受給する
65歳を過ぎても年金請求書を提出せず、受給開始を繰り下げている場合、5年前までさかのぼって一括受給できます。5年間しかさかのぼれない理由は、年金には時効があるからです。未請求のまま5年が過ぎてしまうと、5年より前の分は受け取れなくなってしまいます。
たとえば、2022年4月以降に受給開始を繰り下げていたが、72歳0ヶ月で一括受給したくなった場合、67歳0ヶ月から72歳の誕生月前までの年金を一括で受給することができます。けれども、この場合は繰下げ受給の扱いにはならないので、年金額の増額はなく、毎年その年度の65歳の人が受け取る額と同額の年金を受給していくことになります。また、65歳、66歳の分は時効になっているので消滅してしまいます。
●現行の一括受給の例(72歳0ヶ月で受給請求した場合)
筆者作成
増額なしの一括受給が有利に変わる新制度
66歳以後、繰下げ請求をすれば受給できる年金額は増額となります。しかし、一括受給を選択すると一時的にまとまった額を受け取れるだけで、年金額は増額にはなりません。これではあまり有利な年金の受け取り方とはいえないですよね。
しかし、2023年4月から一括受給の制度が新しくなります。その内容は、70歳の誕生日から80歳の誕生日の前々日までに一括受給を請求した場合、5年前に繰下げ受給の請求があったものとみなされ、増額された年金を一括受給できるようになるというものです。それだけでなく、一括受給した以後の年金も、5年前の繰下げ受給の増額率で受給可能となるのです。
●2023年4月以降の一括受給の例(72歳0ヶ月で受給請求した場合)
筆者作成
一括受給でも繰下げ受給として扱ってもらえるのは、かなり有利になるのではないでしょうか。70歳を過ぎてから、リフォーム費用や介護費用、病気の治療費などまとまった資金が必要になった場合に活用できそうです。
ただ、家計に余裕があり、繰下げ受給の増額率をアップさせたいのであれば、通常の繰下げ受給を選択したほうか、増額率は大きくなります。
●通常の繰下げ受給の例(72歳0ヶ月で受給請求した場合)
※2022年4月以降の場合
筆者作成
2022年4月以降は、繰下げ受給が75歳まで拡大されます。このとき、72歳で繰下げ受給を始めると、増額率が58.8%にアップします。2023年4月からの新制度による一括受給の場合、増額率は16.8%ですから、42%も差が出てくるのです。この差をどう考えるかです。貯蓄が十分にあるのであれば、普通に繰下げ受給を選択したほうがよいかもしれません。
まとめ
ここで忘れてはならないのは、受給する年金は課税され、社会保険料の額にも関わってくることです。受け取る年金額が増えれば、その分所得税や住民税、介護保険料、国民健康保険料または後期高齢者医療保険料が増えることになります。また、どんなに有利な年金受給の制度でも、老後の家計に余裕がないと利用するのは厳しいかもしれません。できれば早いうちからライフプランを立てて、老齢年金を補てんする方法を検討して実行することが重要になってくるのではないでしょうか。
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前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。
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