26/07/27
「高い給与・賞与無し」vs「低い給与・賞与あり」、同じ年収ならどっちが有利?

ソニーグループが冬のボーナス廃止を発表したのを皮切りに、大和ハウス工業やバンダイなど、大手企業を中心に「賞与を月給に組み込む」動きが広がっています。「賞与はないが給与は高い」ケースと「賞与はあるが給与は低い」ケース、同じ年収ならどちらが手取りで得になるのでしょうか。
年収500万円と1000万円のケースで手取り額を比較すると、意外な結果が見えてきます。あわせて、なぜ今、大企業がこぞって「賞与の給与化」を進めているのか、その背景も詳しく見ていきましょう。
大企業はなぜ「賞与の給与化」を進めるのか
ソニーグループは、本社や半導体・エレクトロニクス事業の子会社に所属する正社員を対象に、冬のボーナスを段階的に廃止し、廃止分を月給と夏のボーナスに振り分ける方針を打ち出しました。対象となる正社員は約1万5000人にのぼります。ソニーグループでは、新入社員の初任給も大卒で31万円台、大学院卒で34万円台に引き上げることを公表しています。
大和ハウス工業でもボーナスを夏に一本化して、冬のボーナスを月給に上乗せすることを発表。月給は平均10%程度上昇するそうです。また、バンダイは初任給を約30%引き上げることを表明しています。賞与の給与化は、業種を問わず大手企業に広がりつつある報酬改革といえます。
大企業が賞与の給与化に踏み切る理由は、主に次の4つに整理できます。
●(1)人手不足への対応と採用競争力の強化
求職者は求人票に記載された「月給」には注目しても、業績によって変動する「賞与」への意識は薄くなりがちです。賞与を分割して月給に繰り入れれば、年収総額を変えずに月給の見た目を引き上げることができ、「初任給30万円超」といったインパクトのある表現で求職者の目を引きやすくなります。労働力人口の減少が続くなかで、採用力を高める手段として「賞与の給与化」に踏み切る企業が増えているのです。
●(2)高年収層を中心とした社会保険料の抑制
健康保険・厚生年金保険の保険料には、標準報酬月額・標準賞与額に上限が設けられています。月給がすでに上限に近い高年収の従業員であれば、賞与部分を月給に組み込むことで、賞与にかかっていた保険料がまるごと不要になるケースが出てきます。
たとえば月給100万円・賞与180万円(年2回)の会社員の場合、賞与を給与化しない場合の年間社会保険料(健康保険・介護保険・厚生年金・雇用保険の概算合計)は約196万円ですが、賞与分を月給130万円に組み込むと、年間の社会保険料は約172万円まで下がる計算です※。差額は労使折半のため、会社側にとっても保険料負担の軽減につながります。
※月給100万円・賞与180万円(年2回=360万円)の会社員(東京都、45歳)を例に、東京支部の令和7年度保険料率を使って概算したものです。
ただし、この効果が大きいのはあくまで「もともと月給が社会保険料の上限に近い高収入層」であり、平均的な年収の従業員では、社会保険料が下がる人もいれば上がる人もいて、その差はごくわずかとされています。
●(3)人件費の見通しを立てやすくしてコストを平準化
賞与は業績連動のため、年度末にどれだけの資金が必要になるか読みにくい面があります。月給に組み込めば毎月の固定費として計上でき、資金繰りの計画が立てやすくなります。特に海外拠点を持つ企業では為替変動の影響も重なり、賞与額のブレが経営課題になりやすいため、コストを平準化できるメリットは小さくありません。
●(4)報酬体系のシンプル化と評価への納得感
成果主義の広がりとともに評価制度が複雑化し、賞与が本来のインセンティブとして機能しにくくなっている企業も増えています。変動要素の大きい賞与で説明責任を果たすよりも、基本給を厚くして報酬の透明性を高めるほうが、従業員の納得感を得やすいという考え方も、制度変更を後押ししています。
なお、賞与を給与に組み込むということは、業績が悪化しても給与を払い続ける体力が必要になるということでもあります。一度上げた給与を従業員の同意なく引き下げることは難しいため、業績が安定的に推移する見込みのある企業でなければ踏み切りにくく、すべての企業に一斉に広がるとは考えにくい制度変更でもあります。
手取り額で比較してみた:2つのケーススタディ
では、実際に同じ年収であれば、賞与がある場合とない場合でどちらが「手取りベース」で得なのでしょうか。「ケース(1):年収500万円」「ケース(2):年収1000万円」の2つのケースで比較してみます。
※賞与ありの場合は、年収の2割を賞与と仮定して試算しています。
※手取り額はあくまで目安であり、実際の金額は個人の状況(扶養家族の有無、居住地の保険料率など)により変わります。
●ケース(1):年収500万円の場合

筆者作成
年収500万円のケースでは、「賞与なし」の方が年間手取りが約4万円多くなります。月給ベースで税・社会保険料が計算されるため、賞与にかかる源泉徴収税率のメリットよりも、月給が上がることによる税負担の増加が相対的に大きく効いてくるためです。
●ケース(2):年収1000万円の場合

筆者作成
一方、年収1000万円のケースでは、「賞与あり」の方が年間手取りが約24万円多くなります。年収が上がるほど、賞与にかかる税制・社会保険料の仕組みが有利に働くようになるためです。
なぜ高年収ほど「賞与あり」が有利になるのか
年収が高くなるほど「賞与あり」が有利になる理由は、税金と社会保険料の計算方法の違いにあります。
●(1)所得税の計算方法の違い
給与の所得税は毎月の給与額をもとに源泉徴収されるため、高額になるほど税率が上がっていきます。一方、賞与の源泉徴収税額は「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使い、前月の給与額をもとに税率が決まります。年収が高くても月給を抑えておけば、比較的低い税率で計算される仕組みです。
●(2)社会保険料の上限
健康保険・厚生年金保険では、標準報酬月額・標準賞与額に上限が設定されています。健康保険料・介護保険料は月々の給与が135万5000円以上の場合、標準報酬月額139万円で頭打ちになり、厚生年金保険料はさらに上限が低く、月々の給与が63万5000円以上であれば標準報酬月額65万円で計算されます。
一方、賞与の標準賞与額の上限は、健康保険料・介護保険料が年間累計573万円、厚生年金保険料が1回あたり150万円と、給与よりも上限が高く設定されています。高年収の場合、月給が上がるほど社会保険料も上限近くまで増えますが、賞与があることで月給を抑えられ、結果的に保険料負担を軽減できます。
●(3)将来の年金への影響
厚生年金の受給額は標準報酬月額と標準賞与額の両方に基づいて計算されます。上限内であれば賞与部分も年金計算に反映されるため、月給のみで年収を構成する場合に比べ、将来の年金受給額が増える可能性があります。ただし、この効果は年収や賞与額、勤続年数によって変わるため、個別の試算が必要です。
手取りだけでは判断できない!考慮すべきポイント
高年収ならば、手取りの面では賞与ありのほうが有利になることが多いでしょう。ただ、手取り額の比較だけでは見えてこない要素もあります。
●(1)収入の安定性
賞与は業績に応じて変動しやすく、経済状況によって減額されるリスクがあります。月給は比較的安定しているため、収入の安定性を重視するなら月給重視の方が有利です。
●(2)住宅ローン審査への影響
住宅ローンの審査では安定した収入が重視され、賞与は変動要因として扱われるため、月給が高い方が審査で有利になる場合があります。
●(3)退職時の影響
賞与支給日前に退職すると、賞与を受け取れないことが大半です。一方、給与に組み込まれていれば、在籍している間は確実に受け取ることができます。
●(4)支出増加のリスク
毎月の手取りが増えると、生活水準が上がり、支出も増えやすくなる点には注意が必要です。これまで賞与をローン返済や貯蓄・運用に充てていた人ほど、月々の家計管理をより意識する必要があります。
どちらが自分にとって有利かを判断しよう
「年収が同じなら手取りも同じ」とは限りません。年収500万円なら「賞与なし」が有利な場合がある一方、年収1000万円では「賞与あり」の方が手取り・将来の年金ともに有利になるケースが多いことがわかりました。
企業側の狙いは「収入の安定化」や「採用競争力の強化」ですが、受け取る側にとっては手取り額や将来の年金額に「損得」が生じる可能性があります。手取り額だけでなく、将来の年金額や収入の安定性、住宅ローン審査への影響、ライフプランへの影響もあわせて考え、自分の年収水準や働き方に合わせてどちらが有利かを判断しましょう。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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