25/12/27
【知らないと損】「週19時間」のパートでも扶養を外れる時給に注意

年収の壁が変わり、従業員数が51人以上の会社で働くパート・アルバイトは今後、週20時間以上働くと社会保険に加入しなくてはならなくなります。
この負担を回避するために、働く時間を19時間に抑えるとしている人は、今後時給がアップすることで、「週19時間」のパートでも扶養を外れるケースが生じ、かえって負担が大きくなってしまう可能性があります。
社会保険上の壁を超えると社会保険料の負担が増える
年収の壁とは、年収が一定額を超えると税金や社会保険料の負担が増え、手取りが減るボーダーラインのことです。
年収の壁には、税金にかかわる「税法上の壁」と、社会保険料にかかわる「社会保険上の壁」の2種類があります。今回注目するのは社会保険上の壁。扶養されている人の年収が社会保険上の壁を超えた場合、扶養されている人自身で社会保険に加入し、社会保険料を支払わなければなりません。
2025年時点の社会保険上の壁は、大きく分けて次の2つです。
●週20時間の壁(実質106万円)
扶養されている人が次の5つの条件を満たすと、扶養されている人自身で社会保険に加入し、社会保険料を支払わなければなりません。
(1)週の所定労働時間が20時間以上
(2)賃金月額8.8万円以上
(3)従業員が51人以上いる
(4)雇用期間が2か月を超える見込み
(5)学生でない
今後、(2)の賃金要件は2026年10月に撤廃される予定。(3)の企業規模要件も2027年10月から段階的に減り、2035年10月には撤廃される予定です。しかし、(1)の労働時間要件は変更ありません。よって、「106万円の壁」は「週20時間の壁」となり、実質残ります。
●130万円の壁
「週20時間の壁」に該当しない人も、年収が130万円以上になると扶養している人の扶養から外れるため、社会保険料が必ず発生します。
多くの場合、会社で健康保険・厚生年金保険に加入し、健康保険料・厚生年金保険料を支払います。会社で健康保険・厚生年金保険に加入できない場合は、自分で国民健康保険・国民年金に加入し、国民健康保険料・国民年金保険料を支払います。
なお、19歳以上23歳未満の大学生年代の方は年収150万円まで扶養に入れるようになったため「150万円の壁」になります。
「週20時間の壁」「130万円の壁」に加えて今話題になっているのが、「時給1320円の壁」です。時給1320円は、週20時間の壁・130万円の壁に関わります。パート・アルバイトで働く人が時給1320円となると、扶養を外れるだけでなく、高い社会保険料を支払うはめになるかもしれません。
「時給1320円×週19時間」だと会社の社会保険に入れない
賃金要件は2026年10月に撤廃されるものの、2025年度の最低賃金は、最も少ないところでも1023円と、1016円以上になっていますので、日本全国どの地域で働いたとしても週20時間以上働いたら、「賃金月額8.8万円以上」に該当することになります。
つまり、本稿執筆時点において、会社の従業員数が51人以上の勤務先で週20時間以上働くことが契約で決まっていれば、会社の社会保険に加入することになり、社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)が発生するというわけです。
この人が仮に時給1016円で週19時間しか働かなかった場合は、社会保険に加入する必要はありません。配偶者などに扶養されていれば、社会保険料も発生しません。
しかし、この人の時給が1320円に上昇したら、1320円×19時間×52週間=130万4160円となり、週19時間のパートでも年収が130万円を超えてしまいます。
年収が130万円を超えると、扶養している人の扶養から外れ、自分で社会保険料を支払わなければならなくなります。
このとき初めて、会社の社会保険に加入すればいいと思われるかもしれませんが、この人は週の所定労働時間が20時間以上ないため、会社の社会保険に加入できません。自分で国民健康保険料と国民年金保険料を自分で納める必要があります。
年収130万円の人が会社の社会保険に加入する場合と自分で社会保険に加入する場合で、社会保険料や手取りにどの程度の差があるかを計算したのが次の表です。
<年収130万円の人の社会保険料の違い>

(株)Money&You作成
社会保険に会社で加入した場合の社会保険料は約19.3万円・20.4万円なのに対し、自分で加入した場合の社会保険料は約26.3万円・27.7万円となっています。その結果、40歳未満の場合は手取りに約6.8万円、40歳~64歳の場合は手取りに約7.1万円もの差が生じることがわかります。40歳~64歳は介護保険料(または国民健康保険料の「介護分」)を支払うため、40歳未満よりも高くなっています。
年収が130万円を超えて働く場合は、会社の社会保険に加入するのがベストです。
会社の社会保険料は、会社と本人で折半(労使折半)するため、国民健康保険料・国民年金保険料よりもずっと少なくて済みます。そのうえ、厚生年金に加入して働くことで、老後にもらえる厚生年金も多少なりとも増やせます。週20時間働くことで、雇用保険にも加入できます。
気になる社会保険料の支払いタイミングは、加入する制度により異なります。
会社の社会保険に加入する場合は、会社で加入の手続きを行うことで翌月から給与天引きで健康保険料や厚生年金保険料を支払います。
国民年金保険料は、加入(切り替え)の手続きをしてから約1か月半後に日本年金機構から払込書が届きますので、それを利用して支払います。納付期限は納付対象月の翌月末日と定められています。最長で2年分前もって一括で支払うことで割引が受けられる前納制度もあります。
国民健康保険料の場合、自治体によって多少異なるようですが、国民健康保険への加入手続きをした翌月(タイミングによっては翌々月)に納入通知書が届くので、それを利用して支払いを行います。毎年6月に届く一括納付書を利用すると、1年分まとめて支払えます。
時給1320円はそう遠くない
「時給1320円なんてまだまだ先」と思われる方もいるかもしれませんが、2025年度の最低賃金は、すでに東京都で1226円、神奈川県で1225円と1200円を超えています。昨今のインフレなどの状況を踏まえると、1320円突破は時間の問題かもしれません。
最低賃金が上昇することは、本来は働く人にとってポジティブなニュースのはずです。年収の壁を気にして働いていると、賃金上昇は単に働ける時間が減るだけで、年収アップにつながらなくなってしまいます。個々の働き方の事情もあるとは思いますが、可能であれば年収の壁を超えて働くのがベター。ぜひ検討してみてください。
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頼藤 太希 経済評論家・マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。早稲田大学オープンカレッジ講師。ファイナンシャルプランナー三田会代表。慶應義塾大学経済学部卒業後、アフラックにて資産運用リスク管理業務に6年間従事。2015年に現会社を創業し現職へ。日本テレビ「カズレーザーと学ぶ。」、フジテレビ「サン!シャイン」、BSテレ東「NIKKEI NEWS NEXT」などテレビ・ラジオ出演多数。ニュースメディア「Mocha」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。「はじめての新NISA&iDeCo」(成美堂出版)、「定年後ずっと困らないお金の話」(大和書房)など書籍110冊超、累計200万部。日本年金学会会員。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。宅地建物取引士。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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