25/01/24
【知らないと損】遺族年金がもらえない人にある5つの理由

「一家の大黒柱を失った…」考えたくない話ではありますが、誰の身にも起こりうることです。家計を経済的に支えていた人が亡くなった際、その方に生計を支えられていた遺族に対して支給されるのが、遺族年金です。遺族年金は、もしものときに遺族の生活を支えてくれるありがたい保障といえます。
しかし、遺族年金を受給するには、亡くなった方の年金納付状況や、遺族の年齢、優先順位など、いくつかの条件を満たさなければなりません。また、今後遺族厚生年金の改正が予定されており、制度の内容に大きな変化が生じます。
今回は、現行制度における「遺族年金をもらえないケース」と、今後の改正点を踏まえた対策を紹介します。早めに情報を整理し、必要な準備を始めましょう。
遺族年金とはそもそもどんな年金?
遺族年金とは、国民年金や厚生年金に加入している人(または加入していた人)が亡くなったとき、遺族に対して生活を保障する目的で支給される公的年金です。
亡くなった方が「自営業者」であれば、遺族には国民年金をもとにした遺族基礎年金が支給されます。一方で、亡くなった方が「会社員や公務員」だった場合は、厚生年金を財源として遺族基礎年金と遺族厚生年金が支払われます。このため、遺族年金は国民年金に加入していた自営業者よりも、厚生年金に加入していた会社員や公務員の方が手厚くもらえる制度といえます。
ただ、遺族年金には「受給要件」があります。次に挙げる人は遺族年金の受給要件を満たさないため、遺族年金をもらうことができません。
遺族年金をもらえない人1:国民年金保険料が未納
亡くなった方が会社員や公務員であれば、厚生年金保険料が毎月の給料から控除されるので、保険料が未納になることはないでしょう。しかし、自営業者などの方であれば、国民年金保険料を未納にすることがあるかもしれません。そうなると、遺族年金をもらうための「保険料の納付要件」が満たせず、遺族基礎年金(国民年金)がもらえないということが起こります。保険料の納付要件は、次のとおりです。
・国民年金の被保険者である間、または国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方がお亡くなりになった前日において、保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上あること
・亡くなった日が2026(令和8)年3月末日までのときは、死亡した方が65歳未満であれば、死亡日の前日において、その月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がないこと
原則は上の「3分の2以上納付」なのですが、直近1年間に未納がない場合には特例として保険料の納付要件を満たすものとして扱われます。国民年金保険料が未納のままだと、場合によっては遺族基礎年金(国民年金)がもらえないことがあるので注意しましょう。
遺族年金をもらえない人2:年収が850万円(所得が655万5000円)以上
遺族年金の受給対象者には「死亡した方に生計を維持されていた」ことが必要です。「生計を維持されていた」というのは、亡くなった方と同居していること。または別居をしていても生活費を仕送りしていたり、健康保険の扶養に入っていたりすることをいいます。
さらに、遺族が生計維持されていると認められるには、遺族の前年の収入が「850万円未満(所得が655万5000円未満)」という収入要件も満たす必要があります。そのため、もし遺族の年収が850万円以上であれば、生計維持の対象から外れてしまい、遺族年金はもらえなくなります。
遺族年金をもらえない人3:子どもがいない
亡くなった方が自営業であれば国民年金に加入していたことになります。その場合、遺族は遺族基礎年金(国民年金)がもらえます。また、亡くなった人が会社員や公務員であれば厚生年金に加入していたことになるため、遺族は遺族基礎年金と遺族厚生年金がもらえます。
しかし、遺族基礎年金の受給対象になるのは「亡くなった方に生計を維持されていた子のある配偶者または子」です。
遺族基礎年金は、一定の条件を持つ子どもを育てることを目的にしている年金です。そのため、対象となる子どもがいない場合は支給されません。遺族基礎年金の受給対象の「子」に該当する子どもは、18歳になった年度の3月31日まで、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態であるなどの条件があります。
もし、亡くなった方が自営業者で、その遺族に受給対象の子どもがいない場合、遺族基礎年金はもらえません。また、亡くなった方が会社員や公務員で、その遺族に受給対象の子どもがいない場合、遺族厚生年金だけ受け取ることになります。
遺族年金をもらえない人4:55歳未満の子のない配偶者(夫)
もし、亡くなった方が会社員や公務員で、厚生年金に加入していた場合、子のない配偶者(夫)が遺族厚生年金をもらう場合は注意が必要です。
というのも、遺族厚生年金の受給対象者は、
・第1位:子のある配偶者
・第2位:子※
・第3位:子のない配偶者
・第4位:父母
・第5位:孫※
・第6位:祖父母
という順番になっているからです。
※子や孫は、18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方が該当します。
<遺族厚生年金の受給対象者>

日本年金機構のウェブサイトより
子のない配偶者(夫)は「第3位」の受給対象者です。しかし、子のない配偶者(夫)が遺族厚生年金をもらえるのは、厚生年金に加入していた妻が亡くなった時点で「55歳以上」である場合に限られています。しかも、遺族厚生年金の受給開始は60歳から。55歳以上という条件を満たしても、55~60歳の間はもらえませんので、注意が必要です。
なお、夫に子どもがあり遺族基礎年金も受給できるときは、「55歳以上」であれば60歳を待たずに遺族厚生年金を受給できます。
また、もし子のない配偶者が「妻」であれば、30歳未満の場合のみ5年間だけ遺族厚生年金を受け取ることができます。
遺族年金をもらえない人5:65歳以上
遺族厚生年金の受給権者が65歳以上で自身の老齢厚生年金をもらっている方が、遺族厚生年金の受給権利も持つ場合、どちらも合わせて受給できます。ただし、遺族厚生年金が全額もらえるわけではありません。遺族厚生年金から自身の老齢厚生年金に相当する額を差し引いた金額だけ支給されます。
2025年に予定されている遺族厚生年金の改正
2025年に遺族厚生年金の改正が予定されています。この改正は、男女差をなくし、公平で現代の社会状況に合った制度にすることを目的にしています。
これまでは一家の大黒柱は夫であり、先立たれると、専業主婦である妻の生活が困窮する可能性が高いと考えられていました。一方で、夫は就労しているため、妻を失っても生活に困らないとされてきました。
しかし、現在では女性の就業率が向上し、共働き世帯が増加しています。社会構造が大きく変化したことにより、男女差のある仕組みを見直し、より公平な制度を目指す必要に迫られています。
今後予定される改正点としては、20代~50代で子がいない配偶者が対象となる遺族厚生年金が、男女ともに「5年間の有期給付」となり、性別による差が解消されます。また、遺族の前年の収入が「850万円未満(所得が655万5000円未満)」という収入要件も撤廃されます。
現行では、夫と死別した女性は30歳未満が5年間の有期給付、30歳以上であれば子どもがいなくても遺族厚生年金が終身にわたり給付されます。改正後は、5年間の有期給付の対象年齢が30歳から段階的に引き上げることが検討されます。
一方、男性の場合、現行は上でも触れたとおり、子のない夫が55歳未満であれば遺族厚生年金の支給は対象外です。しかし改正後は、20代~50代に妻と死別して子のいない人も5年間の有期給付を受けられるようになります。
改正により、男性でもらえる人は増えそうですが、女性は、人によっては終身もらえた遺族厚生年金が、段階的に有期給付に切り替わっていくことになりそうです。
遺族年金制度の改正への対策は?
遺族厚生年金の改正の時期は未定ですが、今後少しずつ制度が変わっていくと見られています。老後資金の準備や対策について考える必要がありそうです。具体的には、以下の3つのポイントを参考に、自分や家族の将来に備えましょう。
●夫婦それぞれの収入源を確保
夫婦が互いに収入源を確保し、働き続けるためのスキルを磨いておくことで、経済的な自立を目指すことができます。また、自分や配偶者の年金額を把握しておくことも大切。「ねんきん定期便」「ねんきんネット」などをチェックしておきましょう。
●私的年金や生命保険の活用
公的年金だけではカバーしきれない場合に備え、私的年金や生命保険を活用して保障を強化しましょう。これにより、万が一の場合でも生活の安定を図ることができます。
●制度改正の情報収集
遺族厚生年金制度の改正について、最新の情報がないか必ず確認しましょう。今回の遺族年金制度の改正は本稿執筆時点(2025年1月21日)でまだ決まったものではありませんし、改正が決まってもすぐに全面的に変わってしまうわけでもありません。制度を正しく知ることが大切です。
これらの準備を進めることで、予期しない事態に対しても安心して対応できる基盤を作ることができるでしょう。
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舟本美子 ファイナンシャルプランナー
「大事なお金の価値観を見つけるサポーター」
会計事務所で10年、保険代理店や外資系の保険会社で営業職として14年働いたのち、FPとして独立。あなたに合ったお金との付き合い方を伝え、心豊かに暮らすための情報を発信します。3匹の保護猫と暮らしています。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。FP Cafe登録パートナー

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