24/12/13
退職後の健康保険「特例退職被保険者制度」は「任意継続」よりお得って本当なのか
日本は国民皆保険制度なので、会社を退職後もいずれかの健康保険に加入する必要があります。その際、選択肢となるのが任意継続被保険者制度と国民健康保険、そして特例退職被保険者制度です。
特例退職被保険者制度は主に大企業が導入している制度なので、すべての人が加入できるわけではありません。けれども勤め先が特例退職被保険者制度を導入しているのなら、選択肢の1つとして検討してみてもよいでしょう。
今回は、特例退職被保険者制度について概要やメリット、注意点を解説し、任意継続被保険者制度や国民健康保険と比較するポイントをご紹介します。
特例退職被保険者制度とは?
会社を退職した後の健康保険は、国民健康保険に加入するか、在職中の健康保険に任意継続被保険者として加入するかの2択になりますが、大企業に勤めている場合、もう1つの選択肢があるかもしれません。それが「特例退職被保険者制度」です。
特例退職被保険者制度とは、条件を満たせば在職中の健康保険に75歳になるまで加入できる制度です。主に大企業や規模の大きな健康保険組合が導入しています。
特例退職被保険者制度に加入するには以下の条件を満たす必要があります。
・健康保険組合に20年以上加入していること、もしくは40歳以降に10年以上加入していること
・老齢厚生年金を受給できる年齢に達していること
・日本国内に住民登録していること
・後期高齢者医療制度の加入年齢に達していないこと
現在、老齢年金は原則65歳から受給できるので、健康保険組合の加入期間を満たし、日本に住んでいれば65歳から75歳になる誕生日の前日まで特例退職被保険者制度に加入できることになります。
特例退職被保険者制度の保険料は、全被保険者の平均標準報酬月額と平均標準賞与額をもとに計算した標準報酬月額に保険料率を掛けた額で、在職中の年収に関わらず一律です。また、通常の健康保険料は会社と折半になりますが、特例退職被保険者制度の保険料は全額自己負担になります。
特例退職被保険者制度に加入するメリットは何?
特例退職被保険者制度には、次のようなメリットがあります。
・任意継続被保険者制度よりも長く加入できる
・扶養家族も健康保険に加入できる
・退職前と同様に付加給付制度や保健事業のサービスを受けられる
・保険料が安くなる可能性がある
任意継続被保険者制度は2年間しか加入できませんが、特例退職被保険者制度は75歳になるまで加入できます。また、在職中と同様に扶養家族も加入できます。
任意継続被保険者制度でも扶養家族の加入はできますが、国民健康保険の場合、扶養の概念がないため家族全員分の保険料を負担する必要があります。その点を踏まえると、特例退職被保険者制度は保険料の負担を軽減できるでしょう。
さらに、健康保険組合によっては高額療養費制度とは別に、医療費の自己負担額が一定額を超えたとき、超えた額を健康保険組合が支給してくれる付加給付制度を導入しているところがあります。特例退職被保険者制度の加入者はこの付加給付制度も受けることが可能です。その他、保養所の利用や定期健診などの保健事業のサービスも受けられます。
特例退職被保険者制度では保険料の安さにも注目です。
国民健康保険は前年の所得をもとに保険料が決まります。そのため、退職後の1年間は保険料が高くなり、なおかつ扶養家族の保険料も負担することになります。
任意継続被保険者制度の保険料は、退職時の標準報酬月額、もしくは全被保険者の平均標準報酬月額のどちらか低い方の額に保険料率を掛けて求められます。
その点、特例退職被保険者制度の保険料は、「全被保険者の平均標準報酬月額+(平均標準賞与額×1/12)×1/2」で求めた標準報酬月額に保険料率を掛けて計算します。そのため、任意継続被保険者制度の保険料よりも安くなる可能性があります。
特例退職被保険者制度の注意点
特例退職被保険者制度では健康保険組合の保険給付や保健事業サービスを受けられますが、傷病手当金と出産手当金は支給されません。これは任意継続被保険者制度でも同様です。
また、最近では特例退職被保険者制度を廃止する企業が出てきています。自分の勤める会社が特例退職被保険者制度を導入していても、制度を続けるかどうかは確認しておきましょう。
また、国民健康保険料は前年の所得をもとに計算されるので、退職後2年目以降は収入が減り、保険料が安くなる可能性があります。扶養家族の分もあわせて保険料をチェックしてみましょう。
退職後の健康保険を選択するポイントは保険料の比較
退職後の健康保険をどうするか、その選択肢の鍵となるのが保険料です。また、扶養家族の有無も健康保険を決めるポイントになります。国民健康保険は扶養家族の分も保険料を負担する必要がありますが、特例退職被保険者制度と任意継続被保険者制度では扶養家族の保険料はかかりません。また、国民健康保険料は前年の所得をもとに計算するので、退職後に収入が大きく減る場合は、2年目以降の国民健康保険料が特例退職被保険者制度や任意継続被保険者制度の保険料よりも安くなる可能性があります。
扶養家族の保険料も考慮したうえで保険料を比較し、受けられる保健サービスをチェックして、最も負担が軽くなる制度を利用するのがよいでしょう。
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前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。
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