24/09/16
個人年金保険の繰り下げって意味ある?
退職間近の方や現役世代の方にとって、老後の生活資金をどのように確保するかは大きな関心事ですね。公的年金の繰り下げ受給が注目される中、民間の個人年金保険にも「繰り下げ」が可能な商品があることをご存知でしょうか?今回は、民間の個人年金保険の繰り下げについて、そのメリットや注意点を詳しく解説します。
民間の個人年金保険にも「繰り下げ」がある
老後の生活のベースになる公的年金は、原則として65歳から受給が開始されますが、それよりも受給開始を遅らせる「繰り下げ」があります。現時点では、最長75歳まで繰り下げることができ、1カ月ごとに0.7%ずつ年金が増えます。例えば、70歳まで5年間繰り下げを行うと42%、75歳まで10年間繰り下げすれば84%も年金が増える計算です。
民間の個人年金保険でも、公的年金と同様に受給開始年齢を遅らせる「繰り下げ」が可能な場合があります。繰り下げを行うことで、保険料の運用期間が長くなり、その分年金額が増える仕組みです。個人年金保険の場合、運用には加入時の予定利率が適用されるのが一般的ですので、予定利率が高いほど年金額も増えることになります。
個人年金保険では、受け取り開始時期を60歳に設定するケースが多いですが、例えば60歳で定年を迎えるものの、まだ働く予定があり収入面で心配がない場合もあります。このように、収入が安定しているか、十分な貯蓄がある場合は、受け取り開始を繰り下げることに対する心理的なハードルが低くなりますね。
特に1996年以前のバブル期前後に高い予定利率(3~5%程度)で契約した個人年金保険(いわゆる「お宝保険」)では、より繰り下げの効果が大きくなります。当時から約30年が経過し、若いころにこのような高い予定利率で契約した個人年金保険がそろそろ受け取り開始時期に近づいているという方も少なくないです。そのような方は個人年金保険の「繰り下げ」を積極的に考えるとよいでしょう。
個人年金保険の「繰り下げ」する意味はある?
一方で、以下のような方には受け取り開始時期の繰り下げがあまり適さないかもしれません。
●①予定利率が低い方
2000年代以降に契約した個人年金は、予定利率が低いものが多く、保険料の運用期間を延ばしても、増加分はそれほど期待できず、繰り下げするメリットが少ないといえます。
●②生活資金に余裕がない方
繰り下げ期間中の生活費を確保するのが難しい場合、繰り下げは適さないかもしれません。繰り下げで確かに年金額は増えますが、それよりも日々の生活費の不足が心配です。
●③健康状態に不安がある方
繰り下げ期間中に健康状態が悪化するリスクを考慮する必要があります。体調面で健康リスクが高いと、万が一の場合、本人が年金を受け取れなくなってしまうために注意が必要です。
個人年金保険で繰り下げ受給をするときの注意点
個人年金保険の繰り下げ受給を検討する際には、以下の3つの注意点をしっかりと理解しておくことが重要です。
●注意点①:受給開始後の繰り下げは不可
繰り下げ受給を検討する際の最も重要な注意点は、受給が一度開始されると繰り下げの手続きができなくなることです。受給開始前に手続きを完了させる必要があります。通常、保険会社から受給開始の数か月前に通知が届きますので、その際に繰り下げ手続きを忘れないようにしましょう。
通知には「年金開始日の変更」という項目が含まれていることが多いですが、繰り下げの具体的な方法については明確に記載されていない場合があります。また、保険会社から繰り下げの案内が必ずしもあるわけではないため、契約時の約款(契約条項)を確認し、必要に応じて保険会社に問い合わせることが大切です。約款は多くの場合、保険会社のホームページで確認できますが、内容が分かりにくい場合は直接コールセンターへ問い合わせると良いでしょう。
●注意点②: 繰り下げ受給が不可の場合もある
すべての個人年金保険が繰り下げ受給に対応しているわけではありませんので、保険会社との契約内容を必ず確認しておきましょう。契約内容によっては繰り下げができない場合もあります。保険会社に確認する際には、営業担当者だけでなく、コールセンターに問い合わせることをお勧めします。
営業担当者は販売に特化しているため、細かい事務手続きについては詳しくないことがあります。そのため、コールセンターに問い合わせる方が確実です。コールセンターのスタッフは、保険会社の顔として、知識を網羅し、マニュアルに基づいて対応しています。営業担当者が「できません」と誤った情報を提供するリスクを避けるためにも、コールセンターに確認することが重要です。
●注意点③:「据え置き」と「繰り下げ」を混同しない
個人年金保険には「据え置き」という仕組みがあります。据え置きも受け取るまでの期間を延ばす制度ですので、「繰り下げ」と似ています。しかし、据え置きと繰り下げでは特に、予定利率の適用時点が異なることに注意が必要です。据え置きは手続きを行った時点の利回りが適用されるのに対し、繰り下げは契約時点の利回りが適用されます。なお、予定利率とは、契約者が保険会社に支払った保険料を運用する際の利回りを指します。
例えば、1996年以前のバブル期前後には、多くの保険会社の予定利率が3~5%でしたが、2024年時点の利率は1%以下となっています。このため、契約時点の利率が適用される「繰り下げ」の方が有利な場合が多いです。利率の違いが大きな影響を及ぼすため、間違えないように注意しましょう。分からない場合は、「契約時点の利率が適用される方で」と保険会社に伝えると良いでしょう。
メリットがあるかを判断して手続きしよう
老後の生活資金を増やすことを検討している方にとって、個人年金保険の繰り下げ受給は有力な選択肢です。特にバブル期に高い利率で契約した個人年金保険では、繰下げによる年金額の増加が大きなメリットとなります。その点では、個人年金保険の繰り下げは意味があるといえるでしょう。
ただし、繰り下げ受給を行う際には、健康状態や生活資金の確保などを総合的に考慮し、慎重に判断することが求められます。自分にとって最適な選択をするために、まずは保険会社に問い合わせ、具体的な手続きや条件について確認しておくことが大切です。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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