17/05/30
和食のレパートリーが増えそう!~「みをつくし料理帖」〜
5月からNHKで放映が始まった連続ドラマ「みをつくし料理帖」。
髙田郁(かおる)さんの原作は全10巻ですでに完結しており、コミック版も出ています。
前にも別局でドラマ化されたことがあるこの小説のファンは多く、すでに読まれたという方もいるでしょう。今回はこの本をご紹介します。
ドラマ放映中のお江戸人情もの
主人公は両親を失い、身寄りがないまま上方から江戸にやってきた少女、澪(みお)。つらい身の上の彼女が周りの人々に支えながら、料理屋の見習いとしてひたむきに頑張っていく姿が描かれています。
時代ものですが堅苦しさはなく、歴史小説が苦手な人でも読みやすい内容になっています。
火事や飢饉、病気で家族を失うことが多かった時代。それぞれにつらい過去を持つ人々同士が寄り添い、支え合って、つましく暮らす江戸の町。
心に傷を持つ人々の不器用な温かさが垣間見られます。
料理のこと以外に欲がない、人のいい性格をずるい大人に利用されて、時には世の中の厳しさを味わう彼女。泣きながらもへこたれずに前に進もうとする姿が作品にみずみずしさを与えており、いつの間にか読者は彼女のがんばりを応援しています。
でも、そんなに料理に打ち込んでいて、「ラブ」はあるんでしょうか?
大丈夫、ちゃんとありますよ~。色気はなくても、お年頃ですからね!
ちょっぴりミステリーの味つけも
さまざまな過去や事情を抱える人が集まるお江戸。
ネットや電話といった情報ツールのない当時は、人探しをする場合、実際に足を使って探し回らないといけませんでした。
大阪で生き別れになった無二の親友との再会を心の支えにしている澪。なんの手がかりもない中で、無事に見つけ出すことができるのでしょうか。
澪がたどり着いたお江戸は隣人が何者なのか、名乗る名が本名なのかさえわからない、流れ者が集まる町。
なじみの常連さんでも、わけあって素性を隠していることもあるのです。
まだまだ一巻目ではわからないところが多く、早く謎が明かされないかと楽しみながら読み進められます。
ちなみに第一巻に付けられた「八朔の雪」というタイトルは、八朔の日(8月1日)に遊女が着る白無垢のことを指すそうな。
風流ですが、料理とは関係がなさそう。どんな風に物語に関係してくる言葉なのでしょうか。
作中料理にトライしてみよう!
料理屋の見習いとして、日々奮闘を重ねる彼女ですが、江戸時代は、今以上に上方と江戸の味付けが違ったらしく、味のカルチャーギャップにとまどうばかりの澪。
お江戸は職人が多く、作業をして汗をかくため、上方よりも塩味が濃いものが好まれたそうです。それが今でも、だしの味の違いとして残っているんですね。
料理人である彼女の、食へのこだわりも存分に取り込まれています。
町人向け大衆食堂の献立として考えられる料理は、仰々しいものではなく、鰹でんぶ、ところてん、茶碗蒸し、酒粕汁といった普通の食事のサイドメニューのような、気軽なものばかり。
ひと手間かけることで格段の美味しさが引き出されるというアイデアを生かしたもので、登場する料理はどれもおいしそう。
澪のように作中の料理を作ってみたくなった読者のために、本編に登場した献立のレシピが巻末に載っているのも嬉しいところです。これを機に、楽しみながら和食のレパートリーを増やしてみるのもいいかもしれません。
私は「とろとろ茶碗蒸し」があまりにもおいしそうだったので、たまらずに作ってみたことがあります。やさしい食感を楽しめました。
巻末レシピのほかにも、澪が作った創作料理のレシピ本が出ており、なかなか本格的です。
さまざまな事件に巻き込まれて悲しんだり悔しがったりしながらも、少しずつ料理人としての成長を重ねていく澪。どんなに打ちひしがれても、がんばり続けるけなげな姿は、読んでいるこちらにも元気を与えてくれます。
ドラマのキャスティングもなかなか合っていて、出だしの評判も上々。毎週の放映も楽しみ。本と合わせて、ぜひドラマの方もご覧になってくださいね。
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小野寺 理香 おのでら りか
読書ブロガー。好きなジャンルは文学、歴史、アート。ふとしたきっかけで出会い、好きになったら長くつきあう……本との巡り合いは人と同じ。時に味わう〝がっかり〟も、読書のおもしろさのひとつです。ここでは、よりすぐりのすてきな本をお届けします。
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