17/03/27
科学が好きになるサイエンス・ラブコメディ~『決してマネしないでください。』
少しずつですが、寒さも和らぐ日がでてきましたね。
さて問題です。雪が解けたら、何になりますか?
「雪が解けたら、春になる」と答えた人は文系、「雪が解けたら、水になる」と答えた人は理系、といわれているそうです。
世の中には、文系と理系の人がいて、お互いなかなか相容れない部分がありますね。
そこにクローズアップしたのが、今回ご紹介するコミック『決してマネしないでください。』(蛇蔵)。
専門的な科学の話がコメディタッチで描かれ、やさしい言葉で説明されており、読みやすいマンガとなっています。
科学に強いが恋にオクテの理系男子
主人公は理系大学の物理研究室に在籍するオクテの学生。学食の調理師に恋をしていますが、うまく気持ちが伝えられずに四苦八苦します。
主人公は、片思いの相手を「食堂のおばさん」と言いますが、そもそもこの表現はアウトですね。相手は主人公よりも数歳だけ年上の20代女性。これでは彼の恋は前途多難だと読者にも分かります。 恋のアピールに失敗しては「僕という材料の脆弱性は決定された」といって落ち込む主人公。うーん、わかりにくい(笑)。
繰り広げられるクレイジーな科学実験
とはいえ、ラブストーリーがメインではなく、理系学生が実験を重ねながら、科学の歴史を学んでいく流れの教養マンガです。 主人公が所属するサークルでは「理論的に可能だから」という理由から科学実験を行いますが、それは時にびっくりするほど危険で無謀な挑戦になります。 行われるのは「スタントマンが燃えても平気な理由を検証する」「切れた蛍光灯をともす」「フライドチキンで骨格標本を作る」「2月が28日しかない理由を調べる」といった実験の数々。
端から見ればおバカでクレイジーに思える試みに大真面目に取り組む彼ら。高い研究者魂を持つゆえんか、理系オタク極まれりなのか、マッド・サイエンティストの境界線はかなりあやふやです。
会話にも理系雑学がいっぱい。新聞紙を42回折れば、その厚みが月まで届くそうですよ。うまく想像できませんが。
愛すべき科学者たち
また、科学者のエピソードも紹介されます。細菌の存在を世に訴えながらも精神病院に入れられた、院内感染予防の父ゼンメルヴァイスや、麻酔にコカインを使用する実験を行って、自ら〝ヤク中〟になってしまったハルステッド医師など、気になる理系偉人が登場しますが、中でも一番読者の心をとらえるのは、解剖医ジョン・ハンターでしょう。死体泥棒となって検体を集めた彼は、解剖で才能を発揮して国王陛下つきの医師となり、近代外科の祖と呼ばれるようになりました。『ドリトル先生』や『ジキル博士とハイド氏』のモデルだともいわれています。
そんな成功をおさめたジョン・ハンターですが、読み書きが得意ではなかったのだとか。アインシュタインは計算が苦手で、ウォルト・ディズニーは想像力欠如を理由に新聞社をクビになったそう。 歴史に燦然とその名を残す偉人たちも、決して完璧だったわけではないとわかると、親しみを感じられます。
科学は難しいだけじゃない
私たちが今こうして快適な暮らしをしていられるのは、科学者たちが無謀な実験と失敗を積み重ねて、さまざまな発見をしてきたからだと思うと、あらためて過去の偉人たちのチャレンジ精神に感謝したくなります。今では常識になっていることでも、過去の因習や迷信を振り払うために、科学者はどれだけの苦労と犠牲を払ってきたのだろうと気づかされます。
巻末におまけとして載っている、天国の科学者が集まるバー・エウレカでのハッピーアワータイムの話も楽しく、文系頭の私でも、理系への苦手意識が薄らぎました。
全3巻。これまで「文系はロマンチック・理系はクレバー」と考えていましたが、この本を読んでからは「理系はロマンチックでクレバー、そしてクレイジー」だと思うようになりました。雑学を楽しみながら、科学の話に興味を持つきっかけになる一冊です。 世紀の大発見に至るまで地道に繰り返される、身体を張った科学者のチャレンジを、私たちも応援していきましょう。
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小野寺 理香 おのでら りか
読書ブロガー。好きなジャンルは文学、歴史、アート。ふとしたきっかけで出会い、好きになったら長くつきあう……本との巡り合いは人と同じ。時に味わう〝がっかり〟も、読書のおもしろさのひとつです。ここでは、よりすぐりのすてきな本をお届けします。
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