17/02/23
寒い冬にはラブロマンスであたたまろう!『夜は短し歩けよ乙女』
2月のバレンタインデーは、みなさん楽しく過ごされたでしょうか。
今月は、恋愛小説をご紹介します。
どんな物語がいいだろうとあれこれ考えました。
甘くて後味のいい、ドロドロに煮詰まりすぎていないものがいいですね。
片思いのドキドキがたっぷり詰まった小説。
ということで、選んだのは森見登美彦著『夜は短し歩けよ乙女』です。
今春4月には、アニメーション映画が公開される予定です。
乙女よ今宵はどこへ行く
黒髪の乙女に恋をした内気な主人公。告白する勇気のないまま、偶然の出会いを装って、ひたすら彼女を追いかけます。
そう書くと、若干ストーカーめいて聞こえますが、乙女は主人公の気持ちにまったく気付かず、関係は平行線のまま。そんなふたりにさまざまな出来事が降りかかります。
片思いがベースの話ですが、純愛もののキュンキュンさはありません。
恋愛要素だけではドタバタのファンタジーになっているため、恋愛小説が苦手な人も楽しめます。
恋心をこじらせすぎて、乙女の姿を追うことしかできない先輩と、そんなことは露ほども知らない天真爛漫な彼女とのすれ違い。
実は恋愛って、真剣に切なく悩むのは当人だけで、周りから見ると、意外とおもしろかったり滑稽だったりするものですよね。主人公の不運に同情しながらも、災難続きの展開がおもしろくて、どんどん読み進められます。
クラシカルな言葉が時折登場する独特な文体。「長編はちょっと苦手」という人は、第1章だけでも十分物語の不思議ワールドを楽しめます。まだ、ふたりの恋の行方は分からないままですけれどね。
奇天烈な登場人物たち
ふたりを取り巻く登場人物たちはみんな個性豊か。怪しげなキャラクターと共に、物語は混沌とした不思議ワールドへと入り込んでいきます。
彼らの存在感の強さには、主役のふたりがかすんでしまいそうなほど。
先輩なのに恋に弱気な主人公と、無邪気なのに底なしの酒量を誇るヒロインに始まり、非情な高利貸しなのにお酒に目がない老人、酔うと人の顔を舐める美女、あらゆる本を知っていて神を名乗る10歳の少年など、皆さん振り幅が大きくて魅力的。というより、一度に遭ったら息切れしてしまうほど、濃い性格だらけです。
老人の趣味が、〝酔っ払い男のズボンを脱がすこと〟というのが謎すぎます。
狙われたら怖いですね! まんまと被害に遭った主人公は、闇の中で下着までむしり取られて、先斗町(ぽんとちょう)の物陰で屈辱と不安と寒さに震えることに。
破廉恥(はれんち)罪で捕まりかねない、絶体絶命のシチュエーションですね。
ええと、これって恋愛小説でしたっけ?
京都の町を縦横無尽に
舞台は京都。季節ごとに語られる京都大学でのキャンパスライフを中心として、実在する地名が続々に登場します。
まだハタチそこそこの学生なのに、妙に老成した感のある主人公の物言いも、古都フィルターの効果か、いい感じに思えます。
京大のほかに先斗町や木屋町や吉田神社、糺の森など、京都のあちこちで繰り広げられる珍事件。
場所がわかる人なら、さらに楽しめること請け合いです。私は、実際に入ったことがあるカフェ「進々堂」が登場して、うれしくなりました。
気になる恋の行方はいかに?
果たして、〝黒髪の乙女となんとかお近づきになりたい!〟という主人公の願いは成就するのでしょうか。
外を歩きながら、素敵な出会いを重ねる乙女と、面倒な災難に遭遇してばかりの主人公。恋愛への道のりは険しそうですけれど。
寒い日が続いて、家の中に引きこもりたくなる季節ですが、京都の町を生き生きと動きまわる登場人物たちのように、外に出て町を散策したい気にさせてくれる物語です。
歩けよ、乙女!
【読書ブロガー小野寺理香のブックレビュー】記事
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小野寺 理香 おのでら りか
読書ブロガー。好きなジャンルは文学、歴史、アート。ふとしたきっかけで出会い、好きになったら長くつきあう……本との巡り合いは人と同じ。時に味わう〝がっかり〟も、読書のおもしろさのひとつです。ここでは、よりすぐりのすてきな本をお届けします。
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