17/01/27
不思議あふれる子どもの世界。『ぐるぐる猿と歌う鳥』
新しい年になり、申年から酉年になりましたね。お正月は過ぎてしまいましたが、今回は干支に合ったタイトルの本をご紹介します。
童話のような題名ですが、登場人物は動物ではありません。
わんぱくすぎて友達がいない
主人公は小5の少年。
あちこちで騒動を引き起こす問題児で、親も先生もほとほと手を焼いています。
こういう子は周りから距離を置かれがちで、彼には友達がいません。
いくらわんぱくでも、話し相手がいないのはさびしいもの。
周りに理解されないもどかしさをもてあます、不器用な子どもです。
そんな少年が親の転勤で、東京から北九州に引っ越しします。
転校生になってさらに深まる、孤独感と寂しさ。
土地の方言がさっぱり理解できず、ローカルルールもわからないと、置いてきぼり感にとまどいますよね。
転勤族だった私も、彼の目の前にそびえるハードルの高さがよーくわかります。
これを超えるには、なるべく早く「方言」をマスターして、仲間に混ぜてもらうのが一番ですが、少年はその道は選びません。
周りから一人浮いても、あくまで東京弁を貫き通します。
メンタルが強いですね。だから、なかなか友だちが作れないんでしょうけれど…。
相変わらず周囲と衝突しながらも、少しずつ環境に馴染んでいく少年。
わんぱく癖は治りませんが、実は探偵志望の彼は、推理を重ねていくつもの謎をクリアにしていきます。もともと頭がいいんでしょう。
あれ……?、最初はトラブルメーカーだと思っていたのに、頭の回転が速く、決断力も行動力も度胸もあるなんていったら、リーダーの素質アリじゃないですか。
風のような少年の秘密、消えた少女の謎
彼が出会う子どもたちの中に、一人不思議な少年がいます。
パックと呼ばれるその少年は、神出鬼没で風のように自由。
ハックルベリー・フィンのような自然児の彼には、なにかわけがあるようですが、新参者の少年にはその正体がわかりません。
また、主人公の少年が小さい頃に出会った少女の話も謎めいています。
見知らぬ男に誘拐されそうになった彼を助けた直後に、忽然(こつぜん)と消息を消した少女。住んでいた家はもぬけのからとなり、大人は口々に「そんな子はいなかった」と言います。
そんなはずはないのに、なぜ?
どちらの謎が解けた時にも、はっと考えさせられます。
サルからトリに引き継がれるもの
さて、タイトルになっているサルとトリですが、思いもよらない登場をします。
ちゃんと存在しているのに、子どもにしか見えません。
大人は見えないわけではなく、見ようとしないだけ。
さらに、勇気と知恵を持った子どもだけが気づくようになっているため、主人公の少年がサルを見つけたことで、物語が大きく動き出します。
子どもの世界は秘密と冒険に満ちてキラキラしていますが、大人になるとそうしたワクワクする世界から離れて、いつしか現実社会に身を置くようになります。
少しずつ大人に近づいていく過程において、大切なものを失わずにいようとする気持ちが子どもたちを動かし、さらなるドラマを生みだしていくことに。
守られる側から守る側へと移っていく、成長の上での必要な通過点とは。
一見、楽しい子ども向けの童話のようですが、読んでみるとお金や仕事、夫婦間の問題などを含んだ、大人にも読みごたえある内容。
ミステリー要素も含まれた、せつなくも爽やかな物語です。
著者はまったく意図していないと思われますが、作中のサルとトリが、ちょうどこの年始めにふさわしい効果を出しています。すがすがしい気持ちで酉年を過ごせそうな一冊です。
【読書ブロガー小野寺理香のブックレビュー】記事
全バックナンバーはこちら
・日本の神様を知ろう!『知っておきたい日本の神様』
・不思議あふれる子どもの世界。『ぐるぐる猿と歌う鳥』
・寒い冬にはラブロマンスであたたまろう!『夜は短し歩けよ乙女』
・科学が好きになるサイエンス・ラブコメディ~『決してマネしないでください。』
・お金にウトイ私でも簡単!~『やってみたらこんなにおトク! 税制優遇のおいしいいただき方』
【関連記事もチェック】
・怒るパワーがたのもしい!「九十歳。何がめでたい」
・御朱印ガール増加中! 30代〜40代女性に大人気の「神社仏閣めぐり」
・運勢にも響いてくる?ネガティブニュースから受ける大きな影響を避け、幸運体質になろう!
・大人女子を応援!食べる漢方で「元気貯金」
・幸せを呼ぶ「波動の法則」 掃除やお片付けについて教えます!
小野寺 理香 おのでら りか
読書ブロガー。好きなジャンルは文学、歴史、アート。ふとしたきっかけで出会い、好きになったら長くつきあう……本との巡り合いは人と同じ。時に味わう〝がっかり〟も、読書のおもしろさのひとつです。ここでは、よりすぐりのすてきな本をお届けします。
ブクログ「本のツバサ」
この記事が気に入ったら
いいね!しよう