24/08/12
遺族年金見直しで炎上!「男女差」解消されるから"良い"ではない?
現行制度では男女で差のある遺族年金について、見直しが検討されていることがニュースになりました。見直しによって男女差は解消するものの、給付が減ることにもなるため、SNSなどでは批判の声も多いようです。今回は、遺族年金見直し案のポイントについて解説します。何がどう変わるのかを押さえておきましょう。
遺族年金制度とは?
遺族年金とは、国民年金や厚生年金に加入している人が亡くなったとき、遺族の生活を保障するために支給される年金です。国民年金からは遺族基礎年金が、厚生年金からは遺族厚生年金が支給されます。
亡くなった人の配偶者は、要件をみたしていれば遺族年金を受給できます。なお、遺族基礎年金は子供(18歳未満)がいる配偶者に限り受け取れますが、遺族厚生年金は子供がいない配偶者であっても受給できます。
現行の制度では、子供がいる配偶者への遺族年金については、男女差はありません。一方、子供がいない配偶者への遺族年金、すなわち遺族厚生年金については、男女で受け取れる条件に大きな差があります。この男女差が時代にそぐわないと指摘され、議論が行われています。
遺族厚生年金における男女差とは?
女性は、夫の死亡時に何歳であっても遺族厚生年金を受け取れます。30歳未満なら5年の有期給付となりますが、30歳以上なら無期給付となり一生涯年金をもらえます。また、子供がいない40歳以上の妻については、65歳になるまで「中高齢寡婦加算」と呼ばれる上乗せ支給も受けられます。
一方、男性は、妻の死亡時に55歳以上でなければ遺族厚生年金の対象とならず、支給開始年齢は60歳からとなっています。なお、男性で遺族厚生年金の対象となる場合には、無期給付となります。
遺族厚生年金にこのような男女差があるのは、以前は夫が働き専業主婦の妻を養っている家庭が多かったためです。妻と死別した夫は自身で生計を立てられるけれど、夫と死別した妻が働いて生計を立てるのは困難という考え方から、女性に手厚い給付が行われる制度となっているのです。
しかし、現代では女性の就業率は高くなり、結婚しても共働きという家庭が増えています。男女差を設ける理由も薄れてきているということで、厚生労働省は遺族厚生年金制度の見直し案を社会保障審議会年金部会に提示しました。
遺族年金の見直し案とは?
遺族年金の見直し案は、配偶者の死亡時点で60歳未満の子供がいない人は、男女とも遺族厚生年金を5年間の有期給付で受けられるようにすることを目指しています。ただし、既に遺族厚生年金を受給中の人は対象外となり、数十年かけて段階的に移行していく方針です。中高齢寡婦加算についても、段階的に廃止される見込みです。
<遺族年金見直しのイメージ>
厚生労働省「遺族年金制度等の見直しについて」より
なお、遺族厚生年金の有期給付の拡大に伴う配慮措置として、次のような内容も検討されています。
・死亡時分割制度を導入
離婚時の年金分割を参考に、死亡時に婚姻期間中の厚生年金を分割する制度が導入される見込みです。
・収入要件を撤廃
現行制度では遺族厚生年金を受給するには年収850万円未満という要件がありますが、収入要件は撤廃される見込みです。
・有期給付加算の創設
現行制度では遺族厚生年金の受給額は亡くなった人の老齢厚生年金の4分の3に相当する額ですが、有期給付加算が設けられ、金額が増える見込みです。
遺族厚生年金が今後どう変わるかに注目しておこう
遺族厚生年金見直しで、給付における男女差はなくなります。男性は新たにもらえるようになる人が増えるため、良かったと思う人も多いでしょう。
一方の女性は、これまで終身年金の対象だった人も、有期年金へと変わります。男女の賃金格差はいまだ解消していない状況です。移行期間や配慮措置が設けられているとはいえ、改悪ととらえる人も多いかもしれません。
遺族厚生年金見直しについては、2025年の通常国会に提出する年金制度の改正法案に盛り込まれる予定です。今後の動向に注目しておきましょう。
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森本 由紀 ファイナンシャルプランナー(AFP)・行政書士・離婚カウンセラー
Yurako Office(行政書士ゆらこ事務所)代表。法律事務所でパラリーガルとして経験を積んだ後、2012年に独立。メイン業務の離婚カウンセリングでは、自らの離婚・シングルマザー経験を活かし、離婚してもお金に困らないマインド作りや生活設計のアドバイスに力を入れている。
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