24/08/03
【年収の壁】を超えて働きたい人は一体どのくらいいるのか
配偶者の扶養の範囲で働く人にとって、「年収の壁」は意識せざるを得ない、重要な数字です。年収の壁は、100万円、103万円、106万円、130万円とあり、超えると税金や社会保険料がかかるので、超えないように働く人が多いのです。
しかし、できれば壁を超えて働きたい、と思う人も少なくありません。
今回は、壁を超えて働きたい人を支援する制度や、壁を超えて働くことのメリットをお伝えします。
年収の壁とは?
年収が一定額を超えると、税金や社会保険料がかかるので、額面金額が増えてもかえって損、と思われている金額が、いわゆる「年収の壁」です。順番に見ていきましょう。
なお、以下では夫が正社員で働き、妻がパートで働くことを想定していますが、妻が正社員・夫がパートでもまったく同じです。
●100万円の壁
100万円の壁を超えると、住民税がかかります。
ただし、税金がかかるのは100万円を超えた金額に対してなので、年収100万円未満の場合より、手取りは増えます。
●103万円の壁
103万円の壁を超えると、住民税に加えて、所得税がかかります。もっとも、住民税同様、税金は103万円を超えた金額に対してかかるので、年収103万円未満の場合より手取りは増えます。
夫が「配偶者控除」を受けられなくなる壁でもあり、夫の年収によっては所得税が増える可能性もありますが、世帯の手取り合計は増えると考えてよいでしょう。
ただし、夫の勤務先の配偶者手当などが、103万円を超えると受け取れなくなる場合は、その限りではありません。
●106万円・130万円の壁
106万円・130万円の壁を超えると、住民税・所得税の他、社会保険料がかかります。
どちらの金額になるかは、勤務先の従業員数などによって決まります。
以下の条件に当てはまると、社会保険料の壁は106万円になります。
・従業員数が101人以上(2024年10月からは「51人以上」)
・月額賃金が8.8万円以上
・週20時間以上の労働時間
・雇用期間が2カ月以上
・学生ではない
106万円・130万円の壁を超えると社会保険料がかかるので、年収を125万円・160万円程度まで増やさないと、手取りが減ってしまいます。
また、夫の勤務先の配偶者手当などが受けられなくなる場合があります。
そのため、年収を106万円もしくは130万円を超えないように、労働時間を調整する人がいるのです。
年収の壁を超えたい人は7割
しかし、年収の壁を気にせずに働きたいと思う人は7割にものぼります。
エン・ジャパン株式会社のアンケート調査「「年収の壁」ならびに「年収の壁・支援強化パッケージ」に関する意識調査レポート」によれば、扶養内で働いている人で、「手取りが減らないとしたら、年収の壁を超えて働きたい」と思っているのは67%でした。
<年収の壁を超えて働きたい?>
エン・ジャパン「「年収の壁」ならびに「年収の壁・支援強化パッケージ」
に関する意識調査レポート」より
内訳は、年収の壁が106万円の人は62%、130万円の人は74%です。
働くことで収入を増やせば、さらにゆとりのある暮らしができるでしょう。
また、スキルを維持・向上させれば、将来の働き方の選択肢が広がります。
できるだけ働きたいと思っている人が多いのもうなずけます。
「年収の壁・支援パッケージ」の活用も
そこで活用してほしいのが、厚生労働省の「年収の壁・支援強化パッケージ」です。
これは、パートの人が「年収の壁」を意識せず働くことができる環境づくりを支援する、助成金の制度です。具体的には、次のような助成金が得られます。
なお、助成金を受け取るのは企業です。もしも勤務先で利用していないなら、利用できるように働きかけてみてもいいですね。
●企業への支援【キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」】
(1) 手当等支給メニュー
従業員が年収の壁を超えて新たに社会保険に加入した場合、「社会保険適用促進手当」として1年目、2年目はひとりあたり20万円、3年目は10万円が企業に助成されます(大企業は3分の2の金額)。
条件は、1年目・2年目は、従業員に賃金の15%以上の手当を支給すること、3年目は賃金額を18%以上増やすことです。
(2) 労働時間延長メニュー
従業員が、労働時間を延長することで年収の壁を超え、新たに社会保険に加入した場合に、ひとりあたり30万円の助成金が企業に対して支払われます。
ただし延長した時間が週4時間未満の場合には、労働時間の延長に加えて、賃金を5~15%以上増やすことが条件です。
(1) と(2)は組み合わせることができます。
たとえば、1年目は(1)の助成(20万円)を受けた後、2年目は(2)の助成(30万円)を受ける、ということができます。
●社会保険適用促進手当
社会保険料がかかっても、従業員の手取り収入を減らさないように手当を支給した場合には、本人負担の社会保険料の計算のもとになる収入は、手当を含まない金額にできます。
●事業主の証明による被扶養者認定の円滑化
年収が130万円を超えた場合、その理由が繁忙期に労働時間を増やしたことだった場合、事業主が「一時的に収入が上がった」ことを証明すれば、引き続き被扶養者のままでいられるという制度です。
妻のパート先で作った証明書を、夫の勤務先を通じて健康保険組合に提出すれば、妻が無理に勤務時間を調整しなくてすむようになります。
ただし、あくまで「一時的に」です。基本給が上がった場合は対象外ですので気を付けてください。
年収の壁を超える3つのメリット
106万円・130万円の壁を超えるメリットは、言い換えると、社会保険に加入するメリットです。主なメリットを3つ挙げます。
●年金額のアップ
扶養の範囲内で働いているだけでは、将来の老齢年金は国民年金のみです。
厚生年金に加入すれば、国民年金に加えて厚生年金も受け取ることができ、老後資金のアップにつながります。
●世帯収入の手取り額アップ
106万円・130万円の壁は、少々超えただけでは手取り額が減ってしまいますが、年収を125万円・160万円程度まで増やせば、世帯収入の手取り額はアップします。
せっかくならしっかり稼いで、目先の収入も、将来の収入も、どちらもアップさせましょう。
●傷病手当金で手厚い備え
社会保険に加入すると、病気やケガで仕事を休んだ時に、傷病手当金が受け取れます。
療養のために3日以上連続して休んだ場合、4日目から、月給の約3分の2が、最長1年半受け取れます。
これらのメリットはいずれも、扶養家族では得られません。パート収入が家計に欠かせないものであるなら、ぜひ受け取れるようにしておきたいものです。
年収の壁超えは、メリットの多い選択肢です。
「年収の壁・支援パッケージ」も活用し、収入と保障の充実を目指してはいかがでしょうか。
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タケイ 啓子 ファイナンシャルプランナー(AFP)
36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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