24/06/24
定年退職後に訪れるお金の危機5選
人生の多くの時間を仕事に捧げている私たちにとって、定年退職は人生の一大イベント。「ホッ」とひと息したい気持ちと同時に、人生100年時代においては、定年退職後のくらしにかかるお金についても、真剣に考えておかなければなりません。そこで今回は、定年退職後に特に注意すべきシーンを5つ紹介しながら、どのような対策が必要かを一緒に考えていきましょう。
定年退職後のお金の危機(1):定期的な収入の減少
定年退職後は、年金を主たる収入源に生活をしていく人がほとんどのはずです。まずは、年金等収入が、これまでの毎月の就労収入からどれくらい変化するかを把握しておく必要があります。そして、その収入で家計をまかなうことができるのか、貯蓄を取り崩す必要性やそのスピードにも目を向けなければなりません。
総務省統計局の「家計調査年報(家計収支編)2022年」によると、世帯主が65歳以上の無職世帯(2人以上)では、平均月216,253円の可処分所得に対して消費支出が238,919円で、▲10.5%の赤字となっています。とりわけ、65~69歳では▲18.1%の赤字です。
今回は、完全にリタイアした後の暮らしを想定していますが、貯蓄を取り崩すスピードを抑えて、家計にゆとりをもたらすための鍵が「就労」であることは、60歳以上の勤労者世帯の家計収支が毎月平均25.3%の黒字であることからも指摘できます。
これまでと同じ働き方をずっと続ける必要はありません。無職世帯における家計の赤字は、70~74歳は▲11.1%、75歳以上になると▲7.4%と、年齢を重ねるごとに縮小するのも事実です。もし老後のお金に不安を感じているならば、自分のペースで働くことを継続し、完全なリタイアを少し先延ばしするという選択肢も、マネープランに組み込んでみるとよいでしょう。
定年退職後のお金の危機(2):残っている教育費や住宅ローンとの両立
「教育資金」「住宅資金」「老後資金」、人生の三大資金とも呼ばれるこれらへの不安を、定年退職をする時点で抱えていない状態が望ましいことは言うまでもありません。特に、2つ以上が定年退職後に重なるのは避けたいものです。
教育や住宅購入にかかる支出や返済が、定年退職後も残るリスクについては、結婚や出産、住宅を購入したタイミングからすでに想定し、その備えをされていることでしょう。一方で、老後資金については満足のいく準備ができていないというご家庭も少なくないはずです。
上の「定年退職後のお金の危機(1)」で紹介した家計収支に関する統計の「消費支出」には、住宅ローンの返済金は含まれません。また、老後のマネープランを解説する情報には、すでに子育てや(持ち家で)住宅ローンの返済は終わっていることを前提にしているものも多くあります。そのため、教育や住宅購入にかかる支出や返済がしばらく残る場合は特に、平均等の数字がみなさんの実態に合わないかもしれません。定年退職前のなるべく早い段階から、長期的なキャッシュフローの見える化とともに、必要な対策を講じていくことが重要です。
定年退職後のお金の危機(3):配偶者との死別による収入の減少
配偶者に先立たれた後、公的年金からの収入がどうなるのかも見ておかなければなりません。18歳の年度末を迎えていない子どもや、障害年金の障害等級1級または2級の状態にある20歳未満の子どもがいる場合には、配偶者が亡くなると遺族基礎年金が支給されますが、ここでは遺族厚生年金のみもらえるケースで考えてみます。
遺族厚生年金の額は、原則として、亡くなった人に支給されていた老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3。遺族配偶者に老齢厚生年金の受給権がある場合には、「①死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額」と「②死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の額の2分の1の額と自身の老齢厚生(退職共済)年金の額の2分の1の額を合算した額」を比較し、高い方の額が遺族厚生年金の額となります。なお、老齢厚生年金の額に相当する部分については支給停止となるため、遺族厚生年金(非課税)としてはその差額部分しか支給されません。
例えば、満額の基礎年金を含めて月16万円の年金をもらっていた夫が亡くなった場合、月10万円の年金をもらっている妻の年金収入は、遺族厚生年金が加わり月137,000円となります。「家計調査年報」によると、65歳以上の単身無職世帯の月平均支出額は155,495円。このケースでは、毎月18,495円の不足を埋めるため、もしくはゆとりある暮らしを送るために、貯蓄を取り崩していくことも計画に含めておかなければなりません。
<遺族厚生年金の支給例(遺族配偶者に老齢厚生年金の受給権あり)>
筆者作成
定年退職後のお金の危機(4):長生きに伴う貯蓄の取り崩し
私たちは自分自身がいつ寿命を迎えるかはわかりません。長生き自体は喜ばしいことですが、それに伴って一生涯にかかる生活費が増大するリスクと隣合わせと言えます。終身もらえる公的年金はまさに、そのリスクに対応する保険なだけに、繰り下げ受給など年金収入を増やす選択肢を持っておくことは大切です。
さらに、自宅のリフォーム、老人ホームへの入居に際して必要になる一時金など、まとまった資金を捻出する必要が出てくるかもしれません。これらの金額は、みなさんやご家族がどのような希望を持っているかによっても大きく変わってくるだけに、早いうちから希望や計画を話し合っておくとよいでしょう。
「資産寿命を延ばす」ことはとても大切です。もちろん、「亡くなるまでお金を使うな」という意味ではありません。退職金などを受け取るとついつい気が大きくなってしまいがちですが、これから始まるセカンドライフにおいて、必要なときに必要なお金を捻出できるよう、計画的に貯蓄を取り崩していくことが求められます。
定年退職後のお金の危機(5):増加の一途をたどる社会保険料
「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」などを活用して、将来年金がどれくらいもらえるかを試算している人も多いはずです。実際には、税金や社会保険料が天引きされた後の金額をもって支給されることになりますが、家計収支の統計によると、世帯主が65歳以上の無職世帯(2人以上)におけるこれらの非消費支出は月32,606円で実収入の約13%。決して無視できる金額ではないだけに、老後のマネープランを立てる上でもしっかり考慮しておく必要があります。
税金や社会保険料の額は、収入(所得)や年齢、家族構成、居住地によって異なりますが、とりわけ上がり続ける後期高齢者医療保険料(75歳以上)や介護保険料(65歳以上の第1号被保険者)の動きには要注目です。
<後期高齢者医療制度における被保険者一人当たり平均保険料額の推移>
厚生労働省「後期高齢者医療制度の令和6・7年度の保険料率について」より筆者作成
<介護保険における第1号保険料の推移(全国加重平均)>
厚生労働省「第9期計画期間における介護保険の第1号保険料について」より筆者作成
医療や介護保険からの各種給付がなければ、私たちは医療や介護のサービスを受けるためにかかる費用をすべて自分でまかなわなければなりません。高齢者を含めた全世代で社会を支える動きが加速するなか、今後も保険料率や自己負担割合の引き上げが続くことは大いに想定されますが、所得が低い人はその負担が低めに抑えられているほか、見直しにあたって急激に負担を増加させないといった措置が講じられていることも事実です。
定年退職後「こんなはずでは」と後悔しないために
今回は定年退職後のマネープランを考える上で、特に注意すべき5つのシーンを紹介しました。それぞれのシーンから得られる最大の教訓は、定年退職後のお金の管理が、働き盛りの頃とは異なるということです。
ライフプランやマネープランは十人十色。多くの希望に満ちあふれた定年退職後のセカンドライフにおいて、「こんなはずでは」と後悔しないよう、まずはファイナンシャルプランナーなども活用しながら、定年退職後のマネープランを「見える化」することから始めてみましょう。
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神中 智博 ファイナンシャルプランナー(CFP®)
1992年宮崎県生まれ。関西学院大学会計大学院を修了後、NTTビジネスアソシエ西日本で、NTT西日本グループの財務や内部統制等の業務に従事。2022年10月に兵庫県神戸市で独立系FP事務所ライフホーカーを開業し、現在に至る。家計相談に加えて、公的年金や確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)を活用した資産形成に関するテーマを中心に、執筆・講演活動も展開。「老後不安バスター」として、だれもが老後に向けて自信を持てる社会を目指して奮闘している。CFP®(日本FP協会認定)の他、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー、企業年金管理士(確定拠出年金)、一種外務員資格等を保有。
X(旧Twitter)→https://twitter.com/lifehawker
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