22/12/04
生活保護を受けている時に年金受給権が発生!年金をもらわない選択はできるのか
生活が困窮してどうにもならなくなったとき、思い浮かぶのが生活保護です。でも、そのとき年金の受給資格があったら、ダブル受給はできるのでしょうか? そこで今回は、生活保護制度と年金制度の基本的な内容を見ていきながら、ダブル受給が可能かどうか解説します。
生活保護制度の基礎知識
生活保護制度とは、生活に困窮するほど収入や資産がわずかで、経済的な援助をしてくれる親族もいない人に対して、最低限度の生活を保障し、自立を助けるための制度です。また、生活保護は世帯単位で行われ、世帯収入が最低生活費に満たないときに、困窮の度合いに応じて下記の扶助を受けることができます。
・生活扶助(生活に必要な費用の援助)
・住宅扶助(アパートなど住まいの援助)
・医療扶助(医療サービス費用の援助)
・介護扶助(介護サービス費用の援助)
・教育扶助(義務教育に必要な学用品費など)
・出産扶助(出産費用)
・生業扶助(就業での技能取得にかかる費用)
・葬祭扶助(葬祭費用)
生活保護の相談や申請を行う窓口は、住んでいる地域を管轄する福祉事務所です。申請後、世帯収入や資産状況などの調査が行われ、支給要件に合う場合に生活保護費の支給が始まります。
毎月、生活保護費としてどれくらい受給できるのか、2022年4月1日現在における生活扶助基準額の支給例を見てみましょう。
●生活扶助基準額の例 (2022年4月1日現在)
厚生労働省「「生活保護制度」に関するQ&A」より
なお、高校生までの子どものいる家庭には児童養育加算(月1万190円)、ひとり親世帯には母子加算(月1万8800円:児童1人の場合)が追加で支給されます(いずれも東京都区部等の場合)。
年金制度の基礎知識
日本では、老齢年金、障害年金、遺族年金といった年金制度があり、国民年金や厚生年金に加入している人が要件に応じてもらえます。
ではここで、老齢年金と障害年金について見ていきましょう。
●老齢年金
○老齢基礎年金
国民年金や厚生年金の保険料を納めた期間と保険料免除期間を合算して10年以上ある人がもらえる年金です。原則、65歳から受給することができます。また、20歳から60歳までの全期間(40年)保険料を納めた人は、満額の老齢基礎年金をもらえます。2022年4月から満額でもらえる老齢基礎年金は、年額77万7800円です。
○老齢厚生年金
1年以上厚生年金に加入しており、老齢基礎年金に必要な受給資格期間(10年)がある人が65歳になったらもらえる年金です。老齢基礎年金に上乗せして支給されます。ちなみに、平均的な収入を得ていた夫婦世帯の2022年4月からの老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせた受給額は、月額21万9593円となっています。
●障害年金
○障害基礎年金
病気やケガが原因で障害を負ったとき、一定の要件を満たす場合に支給される年金です。
2022年4月からの障害等級別の年金額(年額)は以下の通りです。
・1級:97万2250円+子の加算
・2級:77万7800円+子の加算
※子の加算;第1子・第2子22万3800円、第3子以降:7万4600円
○障害厚生年金
厚生年金の加入者が病気やケガで障害を負った場合、一定の要件を満たせばもらえます。
2022年4月からの障害等級別の年金額(年額)は以下の通りです。
・1級:報酬比例の年金額× 1.25 + 配偶者の加給年金額(22万3800円)※
・2級:報酬比例の年金額+配偶者の加給年金額(22万3800円)※
・3級:報酬比例の年金額(最低保障額:58万3400円)
※配偶者の加算年金は、65歳未満の配偶者がいる場合に加算されます。
生活保護と年金は同時にもらえる?
生活保護をもらわなければいけないほど生活が困窮している人でも、各種年金の受給資格を持っている場合があります。そんなとき、生活保護と年金は同時にもらえるのでしょうか?
結論から言うと、生活保護と年金は同時にもらえます。しかし、どちらも満額をもらえるわけではありません。
生活保護の受給を希望すると、受給要件として資産の活用と能力の活用を求められます。
資産の活用として、所有する不動産や貴金属など資産の売却、預貯金やその他の公的制度による給付金を生活資金に充てることが大前提となります。なおかつ、能力の活用として仕事を探して働くことを要求されます。また、受給要件ではありませんが、親族からの扶養を受けられる状況であれば、扶養が優先されます。
つまり、資産の活用や能力の活用を優先して、可能な限り生活資金を調達する必要があるのです。このとき、老齢年金をもらえる年齢であれば受給します。その他、所有する資産なども活用し、それでもなお収入が厚生労働大臣の定める基準で計算された最低生活費に満たない場合に、その不足分を生活保護としてもらうことができるのです。
支給される生活保護費は、
【生活保護費=最低生活費-年金・その他の収入等】
となります。
生活保護の受給で年金をもらわない選択はできる?
生活保護を受給するとき、年金収入があると生活保護費が減額されます。それを避けて生活保護費を全額もらうために年金をもらいたくないという人もいるかもしれません。
しかし、残念ながらそれはできません。なぜなら、生活保護を受給するには、資産や能力などあらゆるものを活用するという要件があるからです。
●生活保護の要件
生活保護を受ける前に、まずは以下の3つのものを活用する必要があります。
(1)資産の活用
預貯金、利用していない不動産などの売却、生命保険の払戻金、有価証券、自動車、バイクなどの資産を売却して生活費に充てます。
(2)能力の活用
働くことが可能であれば、仕事を見つけて働き収入を得ます。
(3)その他、あらゆるものの活用
年金、各種手当、社会保険など社会保障制度で受けられる給付を受給します。
必須事項ではありませんが、生活保護制度では親・子・兄弟姉妹など親族に扶養してもらうことが優先事項になっています。また、福祉事務所が親族に扶養照会を実施することもあります。ただし、DVや虐待など事情があるときは、扶養照会は控えるとのことなので、ケースワーカーに相談するとよいでしょう。
以上のように、生活保護を受ける前に、まずは活用できるもので収入を得て生活費に充てる必要があります。年金も活用すべきものの1つです。もし年金の受給権があるのであれば、年金をもらうことを求められます。そんな事情から、生活保護を受けるために年金を受け取らないという選択は不可能なのです。
ケースワーカーから繰り上げ受給を求められるって本当?
通常、65歳になると老齢年金の受給権が発生します。また、早く年金をもらいたい人は60歳~64歳の間に繰り上げ受給をすることも可能です。
この制度があることで、生活保護を受けたい人に対し、ケースワーカーが年金の繰り上げ受給を求めてくることがあるようです。
しかし、生活保護を受けるために年金を繰り上げ受給する必要はありません。このことは、東京都福祉保健局生活福祉部保護課が作成した「生活保護運用事例集2017(令和3年6月改訂版)」にも、以下のように記載されています。
『繰り上げ支給される年金は、満65歳になってから支給されるはずの年金額が減額されて支給されるものであり、被(要)保護者の今後の自立を展望すれば好ましいものではない。また、年金受給者の中で、繰り上げ支給を受けることが一般的な例になっているとは言えず、福祉事務所の指導をもって繰り上げ支給の請求を行わせることには問題が多い。
したがって、本人の純然たる希望により請求する場合の他は、繰り上げ支給の請求の必要はないものである。』
(出典:生活保護運用事例集2017(令和3年6月改訂版)第5 他法他施策の活用(問5-1)年金の繰り上げ受給より)
そもそも繰り上げ受給をすることで、本来もらえる年金額は減ります。60歳から受給すれば最大24%も減額されるのです。最低生活費を確保できない事情のある人こそ、受給権のある年金額は全額確保できるようにすることが、本来の「あらゆるものの活用」につながるのではないでしょうか?そのような見解から、生活保護を受けるための要件として繰り上げ受給を求められても応じる必要はないと考えます。
まとめ
生活保護を受けているときに、年金の受給権が発生するケースがあります。そんなとき、年金をもらうと生活保護費が減額されることから、年金をもらわない選択をしたい人がいるかもしれません。でも、それはできません。生活保護を受けるときは、前提として資産や能力などあらゆるものを活用して収入を得る必要があるからです。
あらゆるものの活用の中に年金の受給が含まれます。そのため、年金を受け取らずに生活保護費を全額受給することはできませんので、注意しましょう。
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前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。
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