22/06/22
年収800万円のサラリーマンと自営業、手取り額はいくら違うのか
年収が800万円のサラリーマンと自営業の手取りはいくら違うのでしょうか? 今回は、サラリーマンと自営業の手取りを左右する税金や社会保険料などを確認。サラリーマンと自営業の手取り額がいくら違うのか見ていきます。
サラリーマンの手取り額はいくら?
まずは基礎知識として、「年収」と「手取り」の違いについて見ておきましょう。
年収とは、税金、社会保険料などが差し引かれる前の年間の総支給額のことです。そして、年収から必要経費や税金、社会保険料などを差し引いた額が手取りになります。サラリーマンは源泉徴収票を見れば年収と手取りを確認することができます。
手取り額を計算する際、差し引くものの中に必要経費がありますね。自営業者は事業を行うのにいくらかの経費がかかるものですが、サラリーマンでも経費に相当するものがあります。それは「給与所得控除」です。年収800万円の人の場合、給与所得控除は190万円。年収から給与所得控除を引いた給与所得は610万円となり、ここから社会保険料や所得控除などを差し引いて課税所得を求めます。これに税率を掛けることで、所得税と住民税が決まるのです。
では、サラリーマンの手取りを試算してみましょう。
<設定内容>
年収800万円のサラリーマン(年齢38歳・配偶者なし・扶養家族なし)
月収:50万円×12ヶ月=600万円
賞与:2ヶ月分を6月と12月の2回 100万円×2回=200万円
収入合計800万円
※給与所得控除、基礎控除、社会保険料控除のみ考慮して試算
※所得税の復興特別所得税は考慮しない
※住民税は所得割+均等割5000円
※社会保険料は本人の自己負担分のみ
・給与所得控除:190万円
・基礎控除:48万円(住民税の場合は43万円)
・健康保険料:47万7300円
・厚生年金保険料:64万7100円
・雇用保険料:3万2000円
・所得税:46万5100円
・住民税:45万6300円
注)上記は「全国健康保険協会」に加入している人として試算しています。
健康保険料は勤務先の企業が加入する健康保険組合により異なります。
※出典:全国健康保険協会 令和4年度保険料額表(令和4年3月分から)東京都の場合
サラリーマンの手取りは、年収から社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、40歳以上の人は介護保険料も)と所得税、住民税を差し引いて求めます。
●年収800万円のサラリーマンの手取り額
800万円-(47万7300円+64万7100円+3万2000円+46万5100円+45万6300円)=592万2200円
年収800万円のサラリーマンの手取りは【592万2200円】と試算できました。
自営業の手取り額は経費で変わる
では、年収800万円の自営業の場合、手取りはいくらになるのでしょうか?
自営業の場合、年収800万円から経費を差し引き、社会保険料(国民年金保険料、国民健康保険保険料)や基礎控除、青色申告特別控除(青色申告を申請している人の場合)などの所得控除を差し引いて課税所得を算出。これに税率を掛けて所得税と住民税を求めます。自営業に認められている経費は上限額が設定されているわけではないため、経費の額によって国民健康保険料や所得税、住民税の額が変わってきます。
ではここで、自営業の経費の違いによっていくら手取りが変わるのかを見てみましょう。
●自営業の手取り額(経費が0円の場合)
仮に、自営業で経費が0円だったとしたら、手取りは次のようになります。
<設定内容>
年収(年間の売上)が800万円の自営業者(年齢38歳・配偶者なし・扶養家族なし)
1年間にかかった経費を0円と想定。
※青色申告特別控除、基礎控除、社会保険料控除のみ考慮して試算
※所得税の復興特別所得税は考慮しない
※住民税は所得割+均等割5000円
・青色申告特別控除:55万円
・基礎控除:48万円(住民税の場合は43万円)
・国民健康保険料:71万7900円
・国民年金保険料:19万9080円(令和4年度の国民年金保険料は1ヶ月あたり1万6590円)
・所得税:89万3100円
・住民税:67万300円
注)国民健康保険料は東京都世田谷区の計算方法を参照。
自営業の手取り額は、経費を差し引いた税込年収から社会保険料(国民健康保険料、国民年金保険料、40歳以上の人は介護保険料も)と所得税、住民税を差し引いて求めます。
【年収800万円の自営業の手取り額(経費0円と仮定)】
800万円-(71万7900円+19万9080円+89万3100円+67万300円)=551万9620円
年収800万円(経費は0円)の自営業の手取りは【551万9620円】と試算できました。
●自営業の手取り額(経費が100万円の場合)
もっとも、事業を行うのに経費が0円ということはまずありえないでしょう。仮に、経費が100万円かかった場合、手取りは次のように変わります。
<設定内容>
年収(年間の売上)が800万円の自営業者(年齢38歳・配偶者なし・扶養家族なし)
1年間にかかった経費を100万円と想定。
※青色申告特別控除、基礎控除、社会保険料控除のみ考慮して試算
※所得税の復興特別所得税は考慮しない
※住民税は所得割+均等割5000円
・青色申告特別控除:55万円
・基礎控除:48万円(住民税の場合は43万円)
・国民健康保険料:62万3500円
・国民年金保険料:19万9080円
・所得税(復興特別所得税):71万1900円
・住民税:57万9700円
注)国民健康保険料は東京都世田谷区の計算方法を参照。
【年収800万円の自営業の手取り額(経費100万円)】
800万円-100万円-(62万3500円+19万9080円+71万1900円+57万9700円)=488万5820円
年収800万円(経費は100万円)の自営業の手取りは【488万5820円】と試算できました。経費をかけているので、サラリーマンや経費0円の自営業者よりも手取りが少なくなりました。
自営業者はサラリーマンよりも手取りが減ってしまうのはなぜ?
年収は同じ800万円でも、サラリーマンと自営業者では手取りが異なることがわかりました。手取り額と保険料、税金の一覧表をご覧ください。
●手取り額と保険料・税額の比較まとめ
※給与所得控除、社会保険料控除、基礎控除、青色申告特別控除を考慮したあとの金額
筆者作成
今回、試算した結果、自営業者よりサラリーマンの方が手取り額は多くなりました。
なぜ、働き方が違うと手取り額に差が生じるのでしょうか?その理由は、経費と給与所得控除にあります。
自営業者は、事業を行う際にさまざまな経費を自己負担しています。そのため、自営業者は経費をかけた分、手取り額が減るのです。
サラリーマンにも経費に相当する給与所得控除がありますが、これは税金などの計算をする際に反映されるものです。実際にはお金を自己負担しているわけではないため、手取り額には反映されません。そのため、経費の負担がある自営業者の方が手取りは少なくなるのです。
また、サラリーマンの給与所得控除は課税所得を減らしてくれます。課税所得は収入から必要経費を差し引き、所得控除を引いて計算します。年収800万円のサラリーマンは給与所得控除が190万円になるため、800万円から190万円を引いた610万円をもとに、所得控除を差し引いて課税所得を求めます。つまり、給与所得控除によって課税所得が減った分、税金が少なくなるのです。そのうえ、給与所得控除は手取り額の計算には反映されないので、自営業者よりも手取り額が多くなります。
自営業者も年収800万円から経費分を差し引き、さらに青色申告をする人に認められている青色申告特別控除55万円を差し引くことができます。その際、サラリーマンの給与所得控除に匹敵するくらい経費を増やして課税所得を減らせば、税金を少なくすることはできるでしょう。けれども、自営業者は経費が増えれば、その分手取り額は減ってしまいます。
つまり、自営業者の経費は手取り額を減らしますが、サラリーマンの給与所得控除は手取り額を減らしません。この点が、サラリーマンと自営業者の手取り額の差になっているのです。
自営業者でも手取りを増やす方法
サラリーマンよりも手取りが少ない自営業者でも、手取りを増やせる方法があります。それは、「所得控除」を活用することです。
所得控除は、所得(年収から経費分を引いた額)の合計金額から差し引くことができるもののこと。使える控除が多いほど、所得税を減らすことができます。所得控除は、基礎控除・社会保険料控除・配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除・医療費控除・寄附金控除・生命保険料控除・地震保険料控除・障碍者控除・勤労学生控除・寡婦控除・ひとり親控除・小規模企業共済等掛金控除・雑損控除の15種類です。
所得控除で課税所得を減らすことができれば、所得税、住民税を抑えることができるので、結果として手取りを増やせるようになるのです。このなかで、ぜひ使っていただきたい所得控除は、以下のとおりです。
●医療費控除
年間の医療費が一定額(原則10万円)を超えた場合、その超えた分が所得控除となる。
●セルフメディケーション税制
市販のスイッチOTC医薬品を年間1万2000円以上購入した場合、その超えた分が所得控除となる。
●生命保険料控除
生命保険料や介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合、その金額に応じて一定金額が所得控除となる。
●寄附金控除
ふるさと納税をすると、寄附額から2000円を差し引いた分が所得控除となる。
●小規模企業共済等控除
1)老後資金づくりができるiDeCoに加入すると、掛金全額が所得控除となる。
2)小規模事業者や個人事業主の退職金制度である小規模企業共済に加入すると、掛金全額が所得控除となる
●社会保険料控除
自営業者は老齢年金を補てんするために国民年金基金に加入すると、その掛金全額が所得控除となる。
まとめ
年収800万円でも、サラリーマンと自営業者では手取り額が異なることがわかりました。自営業者は事業を行う上でどうしても経費がかかってくるため、その分手取りが少なくなってしまいます。けれども、所得控除を活用すれば、手取りを増やすことも可能です。また、サラリーマンでも利用可能な所得控除を活用すれば、さらに手取り額を増やすこともできます。利用できそうな所得控除をチェックして、ぜひ活用してみましょう。
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前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。
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