22/03/06
65歳の誕生日の前日ではなく、前々日に退職するのが最も得なのは本当か
60歳を過ぎてから、勤務先を退職して再就職を考える場合、退職するタイミングには注意が必要です。再就職がスムーズに決まればよいのですが、そうではないこともあります。そんな時のために失業保険がありますが、その給付が、退職日が64歳か65歳でガラリと変わるからです。
いつ退職するのがトクなのか、考えてみましょう。
64歳までに退職すると失業保険がもらえる
64歳までに退職していた人が失業状態にある場合には、雇用保険の基本手当、いわゆる失業保険が受け取れます。
失業保険の金額を計算するときは、まず退職前6カ月の平均賃金を180で割った「賃金日額」を出します。
たとえば、60~64歳の人で、退職前6カ月の平均賃金が30万円だったとすると、賃金日額は1万円です。
賃金日額=退職前6カ月の平均賃金(30万円)÷180日=1万円
次に、賃金日額から、基本手当日額を計算します。
60~64歳で、賃金日額が1万円の場合は、基本手当日額は4900円です。
基本手当日額=0.05×賃金日額(1万円)+(11000×0.4)=4900円
※または、0.8×賃金日額(1万円)-0.35{(賃金日額(1万円)-4970)/(11000-4970)}×賃金日額(1万円)=5080円とのいずれか低い方
退職の理由が、定年退職や自己都合退職の「一般の離職者」の場合、それまで何年勤務していたかで所定給付日数が決まります。
1年以上10年未満…90日
10年以上20年未満…120日
20年以上…150日
ここでは、勤続20年以上の会社を64歳までに退職したとしましょう。基本手当日額が4900円だとすると、失業保険は総額で73万5000円受け取れる計算です。
4900円×150日=73万5000円
4週間ごとに認定日があり、そのタイミングで4週間分=28日分の金額が振り込まれます。
65歳からは高年齢求職者給付金がもらえる
一方、65歳以上で失業状態になった場合は、失業保険ではなく、高年齢求職者給付金という一時金がもらえます。65歳以上になると老齢年金が受け取れるので、64歳までとは失業給付の役割が異なると考えられるからです。なお、高年齢求職者給付金は、公的年金を受け取っていても受け取れます。
高年齢求職者給付金でも、失業保険と同じ基本手当日額が受け取れます。しかし、所定給付日数は、勤続年数によって次のようになります。
1年未満…30日分
1年以上…50日分
さきほどの例と同様に基本手当日額4900円の場合、1年以上勤務していても受け取れる金額は24万5000円。失業保険の3分の1になってしまいます。なお、高年齢求職者給付金は一時金でまとめて受け取れます。
いつから65歳?
退職した日が64歳なのか、それとも65歳なのかで、こんなに金額が違ってくるとは驚きですね。これでは64歳のうちに退職したほうがよさそうです。
では、いつまで64歳、いつから65歳なのでしょうか。
学年で、もっとも早生まれで若いのは4月1日生まれ、と聞いたことはありませんか。法律の上では、誕生日の前日に歳を取ることになっています。4月1日生まれの子は、法律上3月31日に歳を取るため、4月2日生まれの子よりひとつ上の学年になるのです。ちなみに、1学年は4月2日生まれから翌年の4月1日生まれの子で構成されています。
このことからわかるように、65歳の誕生日の前日に退職しても法的にはすでに65歳になってしまいます。誕生日の前々日なら64歳です。64歳で退職するなら、誕生日の前々日がタイムリミットとなります。ですから、失業保険を受け取るなら65歳の誕生日の前々日までと覚えておきましょう。
退職日はいつにする?
ただし、これはあくまで、失業保険を受け取ることになった場合の基本手当の受取総額が、65歳退職より64歳退職のほうが多くなる、ということです。必ずしも、64歳で退職するのが有利とは限りません。
特に、65歳未満で特別支給の老齢厚生年金を受け取る場合や、年金の繰り上げ受給などをしている場合は要注意。65歳からの高年齢求職者給付金は、年金を受け取っていても大丈夫ですが、64歳までの失業保険は、年金と同時には受け取れません。失業保険を受け取ると年金はストップしますので気を付けてください。
また、会社の規則などで、64歳退職にすることで退職金が下がってしまったら、失業給付がたくさんもらえてもトータルではマイナスになりかねません。
そのうえ、給与が下がったらその間の収入減だけではなく、失業保険の計算のもとになる賃金日額が下がり、失業保険の金額も少なくなってしまいます。
さらに、定年退職ではなく自己都合退職、ということになると、失業保険には2カ月間の給付制限があり受取りまでに時間がかかります。
退職時期は、失業保険のことだけではなく総合的に考える必要があります。
自分らしく働き続けられるよう、制度のこともふまえて選んでいきましょう。
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タケイ 啓子 ファイナンシャルプランナー(AFP)
36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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