25/05/18
会社員・公務員が国民年金の未納期間を簡単に埋める方法

国民年金は60歳で加入がおしまい。60歳を迎えたら、「国民年金は増やせない」と思っていませんか?実は、60歳以降も働くことで「国民年金相当」を増やすことができるしくみがあります。それが「経過的加算」です。
今回は、年金の未納期間を埋める経過的加算のしくみを紹介します。
経過的加算とは?
経過的加算は、年金制度の見直しによって導入された特例的な加算です。経過的加算は、年金制度の変更にともない、年金額が減る方に配慮して経過措置として導入されました。
もし、60歳時点で国民年金に未納期間があっても、60歳以降も厚生年金に加入して働くことで、この経過的加算の分、厚生年金にプラスして年金をふやせる可能性があります。
●経過的加算の計算式(2025年度の場合)
経過的加算額は以下のように計算されます。
①-②
① 1,734円 × 厚生年金加入月数
② 831,700円 ×(20歳以上60歳未満の厚生年金加入期間 ÷ 480)
注目すべきは②の部分です。②の部分は、60歳以降は増えないため、60歳以降に働いて厚生年金に加入した分だけ、①が上乗せされていくのです。
なぜ経過的加算があるの?できた背景
経過的加算は、1985年「基礎年金(国民年金)」が創設されたことによって、65歳以降の年金受給額が下がる方がいたことから、その差額を補う目的で設けられた制度です。
その後、65歳以降の受給額の差額はなくなり、当初の目的はほぼ完遂されましたが、一方で、基礎年金の計算対象は「20歳~60歳の期間」に限られていました。
20歳未満または60歳以降に厚生年金に加入する場合、その期間の記録は基礎年金に反映されません。そのため現在では、主にこうした対象外期間の救済措置として、経過的加算が実施されています。
経過的加算を受け取れる?確認する方法
経過的加算をご自身が受け取れるかどうかは、50歳以降に受け取るねんきん定期便(年金定期便)で確認できます。
以下は50歳以上の方向けのねんきん定期便(年金定期便)の裏面のサンプルです。
<50歳以上の方のねんきん定期便(年金定期便)の裏面>

筆者作成
赤枠の「経過的加算部分」内に金額の記載があれば、経過的加算を受け取ることができます。
経過的加算を受けられる可能性のある人は意外と多い
経過的加算の本来の目的をふまえると、主な対象者は定年を控えた56歳以上の方となりますが、前述のとおり、現在は対象外期間の救済措置としても機能しています。
つまり、国民年金に未納期間があり、20歳から60歳未満の期間を超えて厚生年金保険に加入して働いていた方なら、将来経過的加算を受け取ることができます。
令和5年度「厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、国民年金(基礎年金)の平均受給額(令和5年度)は以下のとおりです。
・男性:5万9,965円
・女性:5万5,777円
令和5年度の満額は66,250円でしたから、60歳以降厚生年金に加入することで、経過的加算を受け取れる可能性のある方は多いことがわかります。
経過的加算を増やすにはどうすればいい?
経過的加算を増やす方法はシンプルです。
・年金の受給資格を持ち
・60歳以降も厚生年金に加入して働く
経過的加算は本来の年金額の上乗せですから、そもそも年金受給資格を満たしていなければ受給できません。しかし、年金の受給資格をもち、60歳以降も厚生年金に加入して働けば、経過的加算は増えていきます。
その他に特別の負担はありません。
経過的加算で具体的にいくら増える?
経過的加算の計算式をつかって、経過的加算額を試算してみましょう。
例)
60歳時点で基礎年金の未納期間が15か月あるAさんが61歳までの1年間(12か月間)厚生年金に加入して働いた場合に増加する経過的加算額(金額は2025年度)
基礎年金の未納期間:15か月
・60歳時点(厚生年金加入月数:465か月)の経過的加算額:
→ 1,734 × 465 -(831,700 × 465/480)= 600円/年
・61歳時点(厚生年金加入月数:477か月)の加算:
→ 1,734 × 477 -(831,700 × 465/480)= 21,408円/年
60歳時点での経過的加算額はわずか600円でしたが、1年働いた場合の経過的加算額は約2万円となりました。経過的加算を活かせば、年金額を数万円増やせる可能性があることがわかります。
なお、経過的加算の上限は60歳時点の国民年金の未納期間によって決まるため、必ずしも60歳以降の厚生年金加入期間と等しくなるわけではありません。Aさんの場合、上限は15月となります。したがって、以後働いても61歳の半ばに経過的加算は終了し、以降は厚生年金部分のみ増えることとなります。
経過的加算は「知らないと損」かも
年金に未納期間があれば、将来は年金が少ないのだろう、と思ってしまいがちですが、経過的加算のしくみを活用すれば、追加の保険料の負担なく、厚生年金と一緒に現在の基礎年金に相当する金額を増やすこともできます。
あくまで「経過措置」のため、最終的には廃止される可能性がある点には注意が必要ですが、まずはご自身のねんきん定期便をチェックしてみましょう。もし経過的加算があれば、60歳以降も思ったより多く年金額を増やせるかもしれません。
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内田英子 CFP,消費生活アドバイザー,住宅ローンアドバイザー
証券・保険業界出身の独立系ファイナンシャルプランナー。
住宅購入や定年退職をきっかけに保険や資産形成を見直す“家計の分岐点”に注目し、将来にわたって安心できる資金計画を中立・公正な立場からサポート。
制度や統計に基づいた分析と、自身の実体験をもとに、現実に寄り添うアドバイスを大切にしています。

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