25/05/08
「60歳貯金ゼロ」の人がやることはたった1つだけ

年金は老後の大切な収入の柱ですが、老後は年金だけではお金が足りないと思う人はたくさんいるでしょう。もしも60歳時点で貯蓄ゼロだとしたら、「これからどうすればいいのか」と、老後の生活に不安を覚えるかもしれません。しかし、たとえ60歳貯蓄ゼロであっても、できることはあります。
今回は、60歳貯蓄ゼロで老後資金に不安を感じている人が、その不安を解決するための現実的かつ前向きな方法を解説します。
60歳で貯蓄ゼロの人はどのくらいいるの?
金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯調査)令和6年(2024年)」によると、60代で全く貯蓄がないと答えている世帯は20.5%。60代の夫婦世帯の5組に1組が、全く貯蓄がないという現実です。2023年は21%でしたから、ほぼ変わっていません。。さらに、金融資産を持っていると答えた人のうち、500万円未満の人は21.7%もいることがわかります。
<60歳代夫婦の貯蓄の分布>

金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯調査)
令和6年(2024年)より筆者作成
老後の収入が年金だけの人にとって、貯蓄がない、もしくはあったとしてもわずかでは今後の生活に対して不安があるのではないでしょうか。毎日の生活費だけでなく、病気になったとき、さらに介護状態になったときのお金まで年金から捻出するのは難しいかもしれません。将来そうならないためには、やはり現役時代の準備が大切ですが、60歳を迎えてもまだできることはあります。
「60歳貯金ゼロ」の人がやるべきたった1つのことは「働き続ける」こと
貯蓄がなく定年後の生活に不安があるならば、やるべきことはたった1つです。それは定年後も働き続けることです。
<年齢別の労働力人口比率の推移>

内閣府「令和6年版高齢社会白書」より
内閣府「令和6年版高齢社会白書」によると、64歳まで働いている人の割合は81.1%。65歳から69歳でも53.5%と、2人に1人が働いています。さらに70歳以上でも約3人に1人が働いていて就業率は増加傾向です。定年退職の年齢が上がっていることも原因の1つではあると思いますが、やはり年金だけでの生活に不安を感じる人もいるもではないでしょうか。
ここで押さえておきたいのが、「高年齢者雇用安定法」による雇用確保措置です。企業は希望者に対して65歳までの雇用確保を義務づけられています。つまり、本人が希望すれば65歳までは働ける環境があるということです。
さらに、65歳から70歳までは就業確保措置が努力義務とされています。企業によっては70歳までの継続雇用制度を導入しているところも増えています。就業意欲があれば、70歳までは仕事を継続する可能性も十分にあるのです。
働く期間を延ばすメリットには、次のものがあります。
●収入が増える
働くことによって毎月の収入が増えます。収入があればもちろん、その分生活が安定します。令和6年版高齢社会白書によると、70歳を超えても働きたい、働けるうちはいつまでも働きたいと答えた人を合計すると63.6%もいることがわかります。高齢期でも高い就業意欲を持っています。また、年金や貯金に依存せず、生活費を自分で賄えるため、経済的な安定が得られます。
●厚生年金の加入期間が延び、将来もらえる年金額が増える
厚生年金の加入期間が延びることによって、もらえる年金の金額を増やすことができます。国民年金と違って、厚生年金は70歳まで加入することができるため、将来受け取る年金額を増やすことができるのです。
65歳以上で老齢厚生年金を受け取りながら、厚生年金に加入して働いている人はうれしい仕組みがあります。それは「在職定時改定(ざいしょくていじかいてい)」という制度です。この制度は、65歳以上で老齢厚生年金を受け取りながら働いている人を対象に、毎年1回、年金額が自動的に見直されて増えるという仕組みです。
以前は、年金をもらいながら働いても、退職しない限り年金額が増えることはありませんでした。ですが、2022年4月から制度が変わり、働きながらでも納めた保険料が年金に反映されるようになりました。つまり、働けば働くほど、将来受け取れる年金が少しずつ上乗せされていくのです。高齢になっても無理のない範囲で働きたいと考えている方にとって、励みになる制度といえるでしょう。
●年金の「繰り下げ受給」でさらに年金額が増える
働いて収入があれば、年金の受給を遅らせる繰り下げ受給も選びやすくなります。繰り下げ受給では、年金受給を65歳以降1か月遅らせるごとに0.7%、最大で75歳まで繰り下げることで84%も年金額を増やすことができます。
たとえば、65歳での夫婦での受取年金額が250万円だとすると、70歳まで繰り下げすると42%増の355万円となります。一生涯働いて収入を得ることができればいいですが、やはり年齢とともに難しくなってくることは間違いありません。ですから、健康で働けるうちはできるだけ働き、将来の年金を増やすことを考えるといいでしょう。
●社会とのつながりが維持できる
仕事を続けることで、職場の人間関係など交流を通じて、社会とのつながりを維持することができます。これは、孤独感や誰からも必要とされていないというマイナスの感情を防ぎ、精神的な安定につながります。
定年後に社会とのつながりが減ることで、認知症のリスクが高まるという国立長寿医療研究センターの研究結果もあります。ですから、社会とのつながりを維持することは重要です。
●生きがいを感じることができる
仕事は収入を得るだけの手段ではなく、社会貢献や自己実現の場としても重要な役割を果たします。定年退職後も、自身の経験やスキルを活かして社会に貢献することができます。特に、定年退職後にしかできないような、専門性の高い仕事や、人との関わりを重視した仕事は、大きな生きがいを感じられるでしょう。また、定年後はこれまでできなかったことに挑戦するチャンスです。趣味やボランティア活動など、自分が本当にやりたいことに時間を費やすことで、自己実現を達成でき充実した老後生活を送ることができます。
●精神的に充実し、健康維持に役立つ
定年以降にも働き続けることで、精神的な充実感と健康維持の両方を得ることができます。仕事を持つことで、目標や役割が明確になり、自己肯定感が高まります。また、仕事に取り組むことで、日々の生活にリズムが生まれ、身体を動かす機会が増え、健康にも良い影響を与えます。
規則正しい生活と適度な運動が心身の健康を保ち、充実した毎日を送るための重要な要素となります。働き続けることは、心身ともに活発で豊かな生活を支える鍵となるでしょう。
働き続けるための3つのポイント
60歳以降も働き続けるために、次の3つのポイントに気をつけましょう。
① 体力と健康に気を配る
長く働くためには、体力と健康を維持することが重要です。常日頃から適度な運動やバランスの良い食事を心がけ、健康管理をしましょう。また、定期的な健康診断を受け、気になる症状があれば早めに医療機関を受診することも大切です。
② 新しいスキルを身につける
社会の変化に対応し、新たな仕事に挑戦するためには、新しいスキルを身につけることが重要です。ITスキルや語学など、自分の興味や目標に合ったスキルを学びましょう。
③ 積極的に情報収集をする
定年後の働き方には、再雇用制度やパート・アルバイト、起業など、様々な方法があります。自分に合った仕事を見つけるために、積極的に情報収集を行いましょう。書籍やインターネット、セミナーなどで収集することができます。また、ハローワークや転職エージェントなどを活用することで、自分に合った仕事を見つけやすくなります。まずは、自分が興味のある分野や、自身の体力や能力に合った仕事を探しましょう。
収入だけでなく支出も見直す
お金を使いすぎていると感じる場合は、無駄な出費を減らすことも考えましょう。家計簿をつけることで、どこにお金を使っているのかを確認することができます。定期的に支払っているものがある場合には、見直しをすることもおすすめです。とくにサブスクのような定期的に支払っているものは、利用しなくなっても解約を忘れてしまうことも多いようです。また、携帯電話の料金も高いと感じているのであればプラン変更や他社への乗り換えを検討しましょう。さらに、買い物前にはリストを作ることもおすすめします。 具体的に、何を買うかを決めておくことで、無駄な買い物をしてしまうことを防ぐことができます。
加えて、医療費でなどは高額な出費になることも考えられますので、定期的な健康診断や予防を受け、生活習慣病にならないために、適度な運動やバランスのよい食事も大切です。日常生活でのお金の使い方に注意することで、無理なく節約することができます
また、不要なものは売却することもおすすめです。 家にある不用品や、使わなくなったものをフリマアプリやリサイクルショップで売ることで、お金を手に入れることができます。必要無くなったから捨ててしまうではなく、誰かの役に立つことができ、さらにわずかでもお金になるのであれば売った人も買った人も幸せになれるはずです。
資産運用を検討する
60歳になったからといって、資産運用を始めるには決して遅すぎることはありません。定年退職後も、できる限り働いて収入を増やすことで、生活費に余裕が生まれ、その一部を将来のための資産運用に回すことが可能です。
たとえば、60歳から70歳まで働く場合、10年間の積立期間を確保できます。毎月1万円ずつ新NISAで運用し、年利3%で増やすことができた場合、10年間で積み立てた元本の120万円は、約140万円にまで増える可能性があります。何もせずに預金口座に置いておけば、いつの間にか使ってしまっていたかもしれないお金を、計画的に資産運用に回すことで、より豊かな老後生活を送るための準備となります。
さらに、預金ではなく投資信託を活用することで、預金よりも高い利回りを期待できます。投資信託は、株式や債券などに分散投資することで、リスクを抑えながらリターンを狙う金融商品です。ただし、投資信託には元本割れのリスクもあるため、商品の内容をよく理解し、自身の投資目標やリスク許容度に合った商品を選ぶことが重要です。
これまで投資経験がない人が、いきなり資産運用を始めることに不安や恐怖を感じるのは当然のことです。そのような場合は、専門家であるファイナンシャル・プランナー(FP)に相談することをおすすめします。FPは、あなたの収入や支出、資産状況、ライフプランなどを総合的に分析し、最適な資産運用プランを提案してくれます。また、投資に関する疑問や不安にも丁寧に答えてくれるでしょう。
定年後もできるだけ長く働き続けよう
60歳以上で貯蓄ゼロの人や、老後の収入が年金だけの場合、病気や介護状態に陥ったときのお金が不安になることもあります。そこで、定年後もできるだけ長く働き続けることを検討しましょう。特に現在は、65歳までの雇用確保措置が義務化され、70歳までも働ける環境が整いつつあります。働くことで、厚生年金の加入期間が延び、年金を増やすことができます。加えて、支出の見直しや資産運用も併せて行うことで、老後資金の不安を大きく軽減できます。今からでも遅くありません。「働く」という選択が、明るい老後を切り拓くカギとなるでしょう。

黒須 かおり ファイナンシャルプランナー(CFP)
女性を中心に、一生涯を見守るFPとしてmoney&キャリアのコンサルティングを行う。幸せになるためのお金の知識など幅広い資金計画とライフプランのアドバイスを手がけている。金融機関にて資産形成のアドバイザーとしても活動中。FP Cafe登録パートナー

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