24/08/19
【財政検証】夫婦がもらえる年金額の見通しは?今後の経済動向でもらえる金額はどう変わるのか
公的年金は、老後の暮らしを支えるベースになるもの。将来にわたってもらえるのか、いくらもらえるのか、具体的に知りたいですよね。しかし具体的な年金額は将来の経済動向の影響を受けます。それを試算した「財政検証」の結果が2024年7月に公表されました。年金額は、今後の経済動向でどう変わるのでしょうか。
今回は、2024年の財政検証で行われたモデル年金の試算について、お伝えします。
財政検証で試算される「モデル年金」とは?
財政検証は、5年ごとに行われる言わば年金の健康診断。年金の財政状況を検証し、この先も国民年金や厚生年金の制度が維持できるかをしっかりチェックするものです。
財政検証では、「モデル年金」の年金額が示されます。
モデル年金とは、夫が標準的な給与収入のある会社員、妻は厚生年金にまったく加入したことがない専業主婦という夫婦が、65歳から年金をもらいはじめた場合に、世帯として得られる年金の金額の合計です。
そんな夫婦世帯は、ちょっと現実ばなれしているのでは?という意見もあります。
ただ、今のところ、そのようにモデル年金の試算がされています。
財政検証では、このモデル年金がそのときの現役世代男性の平均手取り収入の何%にあたるかを確認します。この割合のことを「所得代替率」といいます。政府は、所得代替率が50%を下回らないようにすることを目標にしています。
加えて、財政検証では「マクロ経済スライド」によって所得代替率がどうなるかを試算します。マクロ経済スライドとは、人口や経済の動向に合わせて年金の給付水準を自動的に調整する仕組みのこと。年金の給付水準は、マクロ経済スライドによって物価や賃金の上昇率よりも低く抑えられます。そこで、マクロ経済スライドによるこうした調整がいつまで続くか、調整終了後の所得代替率がどうなるかを確認しているのです。
経済成長で年金額もアップするか
今回の財政検証では、今後の経済動向による長期の成長率が、プラス1.6%~マイナス0.7%までの4つのケース別に所得代替率がどうなるかの試算が行われました。
4つのケースのうち2番目の「成長型経済移行・継続ケース」(経済成長がやや進んだケース)と、3番目の「過去30年投影ケース」(ほぼ現状維持のケース)の結果を見ていきましょう。
<成長型経済移行・継続ケース>
厚生労働省「令和6(2024)年財政検証結果の概要」より
上の図の成長型経済移行・継続ケースは、
・経済成長率:年1.1%
・賃金上昇率:年1.5%
・運用利回り:年1.7%
という前提で試算されています。
5年後の2029年度の所得代替率は60.3%ですので、年金の給付率や保険料の調整は必要ないことがわかります。また、マクロ経済スライドの調整のうち、厚生年金分の調整は2025年度以降不要に。基礎年金(国民年金)分の調整も2037年度に終了する予定で、2037年度の所得代替率は57.6%です。
経済成長率は1.1%でも、運用利回りがよいと年金原資が増えて所得代替率が上がります。
働き方改革などが進み、働く女性やシニアが増えると経済成長が進みます。
モデル年金額も年を追うごとに増加。2040年度には25.1万円、2060年度には33.8万円になると試算されています。
<過去30年投影ケース>
厚生労働省「令和6(2024)年財政検証結果の概要」より
上の図の過去30年投影ケースは、
・経済成長率:年-0.1%
・賃金上昇率:年0.5%
・運用利回り:年1.7%
という前提で試算されています。
こちらも、5年後の2029年度の所得代替率は60.1%ですので、年金の給付率や保険料の調整は必要ありません。しかしマクロ経済スライドの調整は長引き、厚生年金分の終了が2026年度、基礎年金分は2057年度の予定に。しかも、2057年度の所得代替率は50.4%ですので、ギリギリです。年金収入の金額が現役世代の半分では、暮らしは厳しくなりそうです。
実際、モデル年金額も増えておらず、2040年度で21.6万円、2060年度では21.4万円とむしろ減少しています。
男女別・世代別の平均年金額はどうなる?
モデル年金が実態を反映していない問題を踏まえて、2024年度の財政検証では世代ごとの男女別平均年金額(65歳から受給した場合の月額)も示されました。
<男女別・世代別の平均年金額(65歳から受給した場合の月額)>
厚生労働省の資料より作成
全体的に年齢が若い人のほうが今後の年金の加入月数が多いので、年金額が大きくなっています。また、女性の社会進出がさらに進むことを想定しているため、女性のほうが年金額の増額率が多くなっています。働いて社会保険に加入する月数が増えれば年金額が増えますし、社会保険に加入する事業者が拡大すれば、やはり年金額は増えます。
ただ、きちんと経済成長しないと年金額はあまり増えません。「成長型経済移行・継続ケース」と「過去30年投影ケース」では年金額の増え方が全然違いますね。財政検証は未来を予想するものではありますが、今後の経済・社会情勢によって変わるものでもあります。資産の通りに経済成長するか、年金制度がどうなっていくのか、注目していきましょう。
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タケイ 啓子 ファイナンシャルプランナー(AFP)
36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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