17/05/14
給与明細書の正しい読み方~お金の守りと攻め〜
4月25日(火)、グレース・パートナーズ株式会社主催で、賢いワーキングライフを送るための働く女性のための情報共有サロン「サロン・ド・グレース」が都内某所で開かれました。
サロン・ド・グレース は、働く女性を応援する情報共有サロンです。働くうえで大切な法律や制度のことなど、学校や会社では教えてくれない生きた知識を学び、女性同士で分かち合える場所として設立。
第1部はグレース・パートナーズ株式会社代表取締役の佐佐木由美子さんの講演、第2部は株式会社Money&You取締役の高山一恵さんの講演、第3部は美味しいスイーツを食べながら参加者と講師の交流会を行いました。
今回は、第1部と第2部の内容を抜粋してレポートします。
給与明細書は、3つの要素『勤怠』『支給』『控除』から構成
© Money&You Inc.
佐佐木「労働契約や社会保障がどんなものであるか知らない方が多く、いざ必要となった時に不利益を被るケースもあります。特に女性はある程度、知識武装をしないと不利益な労働条件で働くことになりかねないので、ここ『サロン・ド・グレース』では学校では教えてくれなかった生きた情報を共有して、これからの長寿化社会を生きていけたらと思っています」
「給与明細書は、3つの要素『勤怠』『支給』『控除』から構成されています。順々に説明していきますが、皆さん、社会保険料がいくら引かれているか覚えていますか? なかなか覚えている方はいないかもしれませんが、覚えておくことは重要です。今までの事例で恐ろしい事例を紹介しますと、その方の給料は40万円だったのですが、40万円で計算した場合の社会保険料が引かれず、25万円の給料で計算した社会保険料が引かれていることがありました。そうすると、将来年金をもらう時に、少ない金額になってしまいます。給与明細書は間違っていることもありますので、どのような計算で社会保険料が計算されているのか理解しておくと良いです」
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「健康保険料は都道府県ごとに違いますが、厚生年金保険料はどこも同じです。見ていただきたいのでは『報酬月額』という部分です。ここの数値は毎月変わるのではなく、4月、5月、6月の給与の平均が該当します。引かれている保険料によって、皆さんが貰える保障が変わってきます」
「では給与明細書を見ていきましょう。まずは、勤怠項目。労働日数、労働時間、有給休暇を取った日数、遅刻・早退・欠勤の回数や時間などが記載されています。特に気をつけて見て欲しいのが、時間外労働の時間です。よく時間が書かれていないことが多いですが、時間外労働時間が記載されていないと残業代が支払われていないケースが多いので注意しましょう」
自分の「労働時間単価」を知っていますか?
佐佐木「次に支給項目です。チェックすべきポイントは、残業がある場合。皆さん月給制だと思いますが、時間単価がいくらか知っていますか? 時間単価の計算方法は、各社、賃金規程で定められていると思いますが、一般的には、『(基本給 + 諸手当(通勤手当や固定残業手当を除く。)÷月平均の所定労働時間』です。例えば1日8時間の会社の場合は1か月 160時間、1日7時間の場合は140時間を月平均所定労働時間として時間単価を計算している企業が多いです。よって、同じ基本給でも時間単価が異なることがあるということです」
「次に残業の計算方法ですが、9時から17時までが所定労働時間だとしても、法定労働時間は1日8時間なので、17時から18時の1時間残業しても、残業割り増し(25%)はつきません。8時間を超えた時間から割り増しがつきます。割り増しがきちんと計算されていない給与明細書もありましたので、ご自身で確認できるようにしておくと良いです」
「気を付けたいのは固定残業手当(みなし残業手当)が支給されている場合。仮に、30時間分の固定残業手当が支給されている会社の場合、実際の残業が35時間だった場合は、別途5時間分の時間外手当が支払われていなければなりませんよね。給与明細書は間違っている場合があるので、正確な時間外手当が支払われているか確認しましょう」
「傷病手当金」と「出産手当金」を活用しましょう
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佐佐木「最後は控除項目です。保険料については40歳未満の方と40歳以上の方で控除される項目が変わりますが、原則として40歳未満の方は健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料の3つです。40歳以上の方は、これに介護保険料を加えてひかれています。社会保険の中で、健康保険料の割合が大きいので、どんな時に健康保険が使えるのかは把握しておきましょう」
「まず健康保険は、業務外に病気やケガをしたときに利用できるサービスで、治療を受けるときや処方箋を購入する際に保険証を提出すれば、3割の自己負担で済ませることができます。このほかで最もよく使われるのが『傷病手当金』であり、病気やケガで連続3日以上働けないときは、4日目から支給されます。
意外と知られていない、お得な受け取り方は、傷病手当金を受け取れない最初の3日間は年次有給休暇を使い、4日目から無給休暇を使って傷病手当金をもらう方法です。
傷病手当金で受け取れる金額は、給与が月30万円であれば、約20万円がもらえます。仮に1年間傷病手当金を受け取ると、年間で240万円ですが、傷病手当金は非課税なので、翌年の住民税の支払いもしなくてよくなります。病気やけがをした際は傷病手当金が使えないかなと確認してみてください。」
「もう一つ利用したいのが『出産手当金』です。産前産後休業中に働けないときにもらえる給付金ですが、そもそも産前産後って何日あるか知っていますか? 産前は42日、産後は56日間です。出産手当金も傷病手当金と同じく非課税で受け取れます」
雇用保険で受けられる給付金を活用しよう!
佐佐木「続いて雇用保険料についてです。退職・転職活動をするときにもらえる「失業手当」は有名ですね。正式な名称は『基本手当』と言います。育児休業を取るときは「育児休業給付金」、介護休業を取るときは「介護休業給付金」がもらえます。実際、介護休業を取っている方は少ないですが、今後は増えると予想されます。わずかな保険料でこれだけの保障がありますので、有難い制度です」
「最後に『教育訓練給付金』があります。現在、2種類の教育訓練給付制度がありますが、専門的なスキルや資格を取って、キャリアに生かすなら是非とも使いたい制度です。専門実践教育訓練がおすすめで、雇用保険の被保険者期間が2年間ある人ならば受けられます」
これからの時代はマネープランと攻めのお金が必要
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高山「昔の常識は今の非常識といわれるくらい、昔と今を比べると、経済・社会状況は大きく違います。少子高齢化が進み、2015年では、2.3人に1人が高齢者を支えていますが、2050年には1.3人に1人になります。国も会社も余力があった高度経済成長時代とは違い、今は国にも会社にも余力がなく低成長時代なので、昔と同じようにやっていても、今の時代では、破綻するだけです。まずは、そこを認識することから始めましょう」
「みなさん『72の法則』を知っていますか? 72を運用利率で割ると、元手を2倍にするためにかかる年数がわかるという法則です。今や普通預金金利は0.001%。これをこの計算式に当てはめると72000年です。72000年前といえば氷河期になってしまいます。お金を預金にただ預けておくだけでは全く増えないのです。これからの時代を生き抜くには今の時代の状況を理解した上で、『オリジナルのマネープラン』が必要です。特に女性は結婚、出産、夫の転勤、親の介護などでライフステージが変化しやすいので、変化が訪れても行き止まりにならずに前に進めるようなプランを作っておくことが大切です」
「ライフプランを立てる際、ライフプラン表に『いつ』『どんなライフイベントがあって』『いくらかかるのか』を書きこんでいきますが、ライフイベントを実現させるために、今からどんな方法でお金を貯めたり、増やしたりするのかを考えるのが『攻めのお金』です」
老後のお金ってどれくらい?
高山「総務省『家計調査(2016年)』によれば、夫婦2人世帯の衣食住の最低限の基本生活費は月平均約26万8000円、平均収入が約21万3000円です。毎月5万5000円の赤字、つまり貯蓄を取り崩すことになります。一方、シングル世帯はというと、衣食住の最低限の基本生活費は月平均約15万6000円、平均収入が約12万円で、こちらも約3万6000円の赤字です」
「では、老後までにいくら貯めれば良いでしょうか。65歳から90歳まで生きるとして計算してみましょう。
①無年金期間(60~64歳)の生活費:毎月の生活費×12ヶ月×5年間
②65〜90歳の生活費:年金だけでは足りない金額×12ヶ月×26年間
③もしもの病気や介護に備えるお金:200~300万円
①+②+③-退職金です」
「退職金がもらえない前提で、夫婦2人の生活で前述の毎月5万5000円の赤字が出るとしたら、いったいいくらの貯蓄を用意しておけばいいのでしょうか?
①26万8000円×12か月5年=1608万円
②5万5000円×12か月×26年=1716万円
③300万円×2人分=600万円
合計3924万円です。最低限の衣食住の基本生活費で、これだけの金額が不足するということです。ちなみに、この平均データに含まれる毎月の住居費は約1万5000円。持ち家で住居費がかからないケースです。住宅ローンが残っている人や賃貸住宅に暮らしている人はさらにその分も上乗せして貯蓄しておかなければなりません」
老後に備えてどうする?
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高山「老後に備える方法はいろいろあります。私自身、FPとして皆様にお伝えるためにも、株、投資信託、FX、保険、不動産投資とほぼ全てやっているのですが、少なくとも言えることは、万能な商品はないということです。なので、バランスよく組み合わせるのが良いでしょう。ここで紹介しているのは『個人年金保険』『iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)』『不動産投資』です」
「個人年金保険は金融商品としては貯蓄と似たような性質があり、毎月一定額の掛け金を払い、保険会社はそれに一定の利息をつけて積み立てます。設定した年齢になれば、その積立金を受け取ることができます。保険料払込期間中に死亡した場合は、死亡給付金を受け取ることができます。昔は個人年金保険の利率が良かったのですが、今はマイナス金利の影響で利率は正直よくありません。でも、個人年金保険に加入することにより、「個人年金保険料控除」という所得控除を受けられるようになるため、節税のメリットを踏まえると有効な金融商品です。
年間8万円以上の保険料を払い込んでいれば、4万円の「個人年金保険料控除」が受けられます。また、住民税は、年間5万6001円以上の保険料を払い込んでいれば、2万8000円の「個人年金保険料控除」が受けられます。所得税、住民税合わせて6万8000円の所得控除が受けられます。」
「次にiDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)についてですが、老後の自分年金作りの有力な方法として、とても注目されています。iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)の最大のメリットは節税効果ですが、3つの節税ポイントがあります。1つめは、毎月の掛け金が全額所得控除になります。例えば、毎月2万円、年間24万円拠出すると、所得税率10%なら、所得税2万4000円、住民税2万4000円、合計4万8000円税金が減ります。年利20%の利回りで運用できたのと同じ効果が得られます。
2つめは、運用中の利益が非課税である点です。通常株や投資信託など、利益が出た場合、利益に対して20.315%の税金かかるのですが、確定拠出年金は、積み立て中は非課税となります。
3つめは、年金を受取るときに「退職所得控除」または「公的年金等控除」が適用される点です」
「不動産投資はライフプランの中に上手に取り入れることで、活用度は大きくアップします。例えば、現役のうちに投資用マンションを買い、家賃収入が得られると、収入減少などの際に生活費の足しにできたり、旅行や豪華レストランでの食事など、生活を楽しむ費用の足しにできたりします。家賃収入に手を付けずに積み立てに回し、定年を迎えるまでに完済できれば、家賃収入がそのまま収入になるので老後の公的年金不足も補えます。
もし、入居者がみつからない、リストラなどで完全に収入が途絶えた、離婚して再び一人暮らしなどの非常時には自分で住むという手もあります。そして、人生の終盤には、物件を売却してまとまったお金を得ることで、老人ホームの入居一時金に充てるというような活用もできます 。このように不動産は長期的な視点で応用が利きます」
「金融商品は中身を把握するのが大変ですが、大切なことなので、諦めずに勉強していきましょう。この後の交流会でもご質問お受けしますのでお気軽に聞いてくださいね」
以上、第1部と第2部のセミナーレポートをお届けしました。給与明細から社会保障や税金のしくみを勉強し、第3部の交流会では、止め処なく質問や意見の交換があり大盛況に終わりました。
会社から、普段何気なくもらっている給与明細書。きちんとその内容を理解している人は、意外と少ないのです。
サロン・ド・グレースでは、学校や会社では教えてくれない、生きた情報を共有できる「働く女性のための情報共有サロン」です。
楽しく情報共有をしつつ、社外の女子ネットワークを広げてみては如何でしょうか?
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