24/04/27
年金をもらいながら働くと年金額が減る落とし穴
少子高齢化に伴い、年金の制度が改正され続けています。少し前までは、年金をもらいながら働くと年金額が減るから損だという考えが主流でしたが、果たして今はどうでしょうか。変わった内容を知らないままだと残念な結果になることもあります。
今回は、内閣府の調査結果を確認しつつ、年金をもらいながら働く在職老齢年金の制度を紹介します。ご自身の生活設計をどうするのか考える機会にしていただければ幸いです。
厚生年金を受け取る年齢になったとき、どのように働くのか
2024年は公的年金の財政を5年に1回点検する「財政検証」が行われます。それに先駆けて、2023年11月に18歳以上の5000人に対して内閣府が「生活設計と年金に関する世論調査」を実施しました。同調査では、今回はじめて「在職老齢年金制度」の影響をたずねています。
在職老齢年金とは、厚生年金を受け取りながら会社などで働き、厚生年金保険に加入している人の年金が減額になったり、全額の支給が停止になったりするしくみのことをいいます。年金と賃金(総報酬月額総総額)の2つを基準とし、年金と賃金の額によっていくら年金が減るかが決まります。この調査では、「厚生年金を受け取る年齢になったとき、どのように働きたいと思うか」をたずねています。
<厚生年金を受け取る年齢になったときの働き方>
内閣府「生活設計と年金に関する世論調査(2023年)」より
全体の回答では、
・年金額が減らないように、就業時間を調整しながら会社などで働く 44.4%
・働かない 23.6%
・年金額が減るかどうかにかかわらず、会社などで働く 14%
の順になっています。
年齢別に見ると、若い世代では多くが「年金額が減らないように調整しながら会社などで働く」と回答していますが、60~69歳では25.9%、70歳以降では約4割が「働かない」を答えています。男女別に見ると、女性のほうが男性より60歳以降は働かないを選ぶ人が多くなっています。すでに厚生年金を受け取っている人は、現在の就労状態に近いものを選ぶことになっているので、中には働きたかったけれど働かないことを選んだ人もいるかもしれません。
別の質問で「何歳まで仕事をしたいか」については、「66歳以上」と回答する人が42.6%と前回調査(2018年)より5.5ポイント上昇しています。
また、仕事をする理由については、「生活の糧を得るため」が75.2%で、老後の生活資金の不足分を働くことでまかなっていく計画を描いています。
今回の調査結果からは、老後の暮らしは公的年金だけでは生活が厳しいので、公的年金+個人年金+貯蓄に就労を組み合わせて生活設計をする人が多いことがわかります。
年金をもらいながら働くと年金額が減るのはどんな場合?
2022年(令和4年)3月以前は、60~64歳の在職老齢年金は年金と賃金を足して28万円を超えたら、年金が減額されるしくみになっていました(65歳以上は47万円)。そのため、働ける環境にある人でも年金が減るなら働くのは損だと感じる人が多くいました。しかし、2024年4月以降は、60〜64歳でも65歳でも同様で、年金と給与の合計が月50万円を超える場合に年金が減るしくみになっています。
たとえば、老齢基礎年金を満額6万8000円(月額)、老齢厚生年金を月額10万円もらえる人が働くことで得られる収入を合計した場合の総収入(税金・社会保険料は考慮しない)は次のようになります。
●働かない場合
働かない場合には、老齢基礎年金と老齢厚生年金もらうことになるので、月額16万8000円の収入になります。働かないので在職老齢年金とは関係ありませんが、給与等の収入がないので、限られた年金の中でやりくりしなくてはなりません。
【総収入】
6万8000円(基礎年金)+10万円(厚生年金)=16万8000円
●60歳以降も会社などで働く場合(賃金月30万円)
上でも紹介したとおり、2022年3月まで、60~64歳の在職老齢年金は年金と賃金を足して28万円を超えた場合に減額されていました。以前であれば、60歳以降も賃金月30万円で働くと6万円が支給停止になる計算(40万円−28万円×1/2=6万円)でした。
しかし、2024年度は厚生年金と賃金が合わせて月50万円を超えなければ在職老齢年金の対象にならないので、年金は減額されません。ですから、賃金月30万円で働いても年金は支給停止になりません。また、60歳以降も厚生年金に加入して働くと在職中でも毎年年金額が少しずつ増えていきます。ただし、厚生年金や年金が増額し合計50万円を超えた場合は在職老齢年金の対象になります。
【総収入】
6万8000円(基礎年金)+10万円(厚生年金)+30万円(賃金)=46万8000円
この方の賃金がもし40万円以上で、厚生年金との合計額が50万円を超えた場合には在職老齢年金による年金減額(または支給停止)となります。
なお、在職老齢年金の対象となる年金は厚生年金です。基礎年金は支給停止の対象にはなりません。
●自営業やフリーランスで働く場合(収入月50万円)
厚生年金保険に加入しない自営業やフリーランスで働く場合には、年金が減額されることはありません。在職老齢年金のしくみが適用となるのは、60歳を過ぎても保険料を納め、会社等で働く厚生年金の加入者です。
自営業などの人は国民年金の強制加入は60歳までなので、保険料を納める必要はありません。厚生年金と自営業の収入を合わせて50万円を超えても、年金の減額や停止は関係ありません。働くといっても、厚生年金に加入しない働き方もあるのです。
【総収入】
6万8000円(基礎年金)+10万円(厚生年金)+50万円(自営業収入)=66万8000円
このように見てみると、在職老齢年金による減額の仕組みはあるとはいえ、対象になる方は意外と少ないことがわかります。
60歳以降も働くことを考えよう
2024年の財政検証では、国民年金保険料の納付期間を「65歳になるまでの45年間」に延長した場合の効果を試算する方針が発表されています。そして、在職老齢年金制度の見直しも検討されます。とはいえ、今回紹介したとおり、それなりに働いて収入や年金額が多くならないと、在職老齢年金の対象にはなりません。老後に備えるならば、まずは60歳以降も働くことを考えましょう。
老後「働く」「働かない」の決断は、個人の意思に任されているとはいえ、体力や精神力が落ちてくると、働くことがむずかしくなります。「老後なんてまだ先のこと」のことと思わず、どんな生活を送りたいかイメージしながら、健康や体力を維持する取り組みが求められる時代になりそうです。
【関連記事もチェック】
・定年後「年金以外」にもらえるお金15選
・「64歳11カ月退職」を選ぶ人がハマる5つの落とし穴
・国民年金「絶対やってはいけない」9つのこと
・年金が78万円上乗せになる「長期加入者の特例」受けられる条件
・定年後に払い続けると貧乏を招く5つの支出
池田 幸代 株式会社ブリエ 代表取締役 本気の家計プロ®
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
この記事が気に入ったら
いいね!しよう