24/01/16
厚生年金保険に加入して働くパート主婦の年金は1年間でいくら増える?
2024年1月時点で、パートやアルバイトで働いている人が厚生年金保険に加入するためには、勤め先に厚生年金保険の被保険者が「101人以上」いる必要があります。2024年10月からはこの要件が「51人以上」に緩和され、新たに約20万人が加入の対象になると推計されています。
一方で、会社員や公務員等の配偶者(いわゆる国民年金の第3号被保険者)の中には、配偶者の扶養から外れないよう就業調整を考えている人もいるかもしれません。そこで今回は、目安となる保険料や年金額も確認しながら、厚生年金保険に加入して年収を気にせず働くメリットを一緒に考えていきましょう。
年金額への影響を知らずに就業調整を行っている人は案外多い
連合総合生活開発研究所が2023年4月に行ったアンケート調査(第45回「勤労者短観」調査)では、就業調整を行っている52.3%の国民年金の第3号被保険者(以下、第3号被保険者)のうち、65.7%の人が「社会保険料負担が生じないようにするため」に就業調整を行っていることが明らかになりました。
さらに注目すべきは、就業調整をしている第3号被保険者の半数以上(50.7%)が、将来もらえる年金額に与える影響を知らないまま就業調整を行っている事実です。本来は厚生年金保険に加入できる要件を満たしているのにも関わらず、詳細をよく理解せずに就業調整を行っているなら、将来の安心に対する大切な機会を見落としている可能性があります。
パートやアルバイトで働いている人が厚生年金保険に加入するには、以下のすべての条件を満たす必要があります。
●厚生年金保険の加入要件
①週の所定労働時間が20時間以上
②所定内賃金が月額8.8万円以上(残業代や賞与等は含まない)
③2ヶ月を超える雇用の見込みがある
④学生ではない(休学中や夜間学生は加入対象)
⑤厚生年金保険の被保険者数が101人以上(2024年10月からは51人以上)いる勤め先
厚生年金保険に加入するメリットは?
厚生年金保険に加入するメリットには、次のものがあります。
●厚生年金保険に加入するメリット①:年金給付が2階建てになる
日本の公的年金は、20歳以上60歳未満のすべての人が加入する国民年金(基礎年金)と、会社員や公務員等が加入する厚生年金保険の2階建ての構造です。
<公的年金の体系と平均年金額>
厚生労働省年金局「令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」より筆者作成
将来の不確実性に備えた総合保険である公的年金からの給付(老齢年金、障害年金、遺族年金)は、2階部分の厚生年金が上乗せされることでより手厚くなるため、ご自身や家族が万が一の事態に直面したときにも安心して生活を続けることができます。
●公的年金の給付の種類
厚生労働省「年金制度のポイント(2023年度版)」より筆者作成
かつては、正社員の4分の3以上勤務していないパートやアルバイトの人たち(短時間労働者)は厚生年金保険に加入できませんでしたが、2016年10月から、厚生年金保険の被保険者数が501人以上の企業等で週20時間以上働く短時間労働者も加入できるようになりました。そして、その後の適用拡大(2022年10月から101人以上、2024年10月から51人以上)は、雇用形態に関係なく年金額を充実させることができる公平な機会をさらに後押ししています。
●厚生年金保険に加入するメリット②:給付水準の低下に対する備えになる
老齢年金の額は、「平均的な賃金で40年間就業した夫」と「40年間専業主婦で基礎年金のみの妻」の世帯を、標準に毎年改定されています(モデル年金)。そして、モデル年金が現役男子の手取り収入に対してどのくらいの比率かを示す「所得代替率」は、公的年金の給付水準を示す重要な指標です。
国による所得代替率の試算では、経済成長と労働参加が進むシナリオでも、2019年度の61.7%から2047年度以降は50.8%まで低下することが示されています。とりわけ、この給付水準の調整の影響をより強く受けるのが基礎年金であることは、基礎年金部分の所得代替率が36.4%から26.2%に低下していることからも明らかです。
所得代替率はたしかに重要な指標ではあるものの、あくまで国が年金の給付水準を決める際の物差しに過ぎません。夫婦ともに厚生年金保険に加入し、モデル年金を上回る働き方は、所得代替率の低下を目の前にした私たちが今できる老後への備えなのです。
厚生年金保険に加入した場合のシミュレーションをしてみよう
厚生年金保険に加入するメリットを理解したところで、加入によって生じる保険料の負担と、将来の年金額の変化を、具体的に見ていきましょう。
●年間給与150万円の人が負担する保険料は月11,600円
厚生年金保険料は、毎月の給与(標準報酬月額)や賞与(標準賞与額)に18.3%の保険料率をかけて計算され、被保険者(加入者)と勤め先が2分の1ずつ負担することになっています。給与明細の控除欄にある「厚生年金」は、自ら負担する9.15%分が天引きされていることを表しており、勤め先がもう半分の9.15%を負担して、あわせて納付しているのです。
<保険料と年金給付の関係>
筆者作成
下の表でも示すとおり、パートやアルバイトで働くみなさんが自ら負担する厚生年金保険料(月額)は、年間給与が120万円で9,000円、150万円で11,600円、200万円で15,600円、250万円で18,300円、300万円で23,800円を目安にしておくとよいでしょう。
<年間給与別の厚生年金保険料(月額)の目安>
厚生労働省「社会保険適用拡大ガイドブック」より
●年収150万円の人が20年間加入で、基礎年金に月12,800円が終身上乗せ
厚生年金保険に加入していた期間が1ヶ月でもある人は、老齢基礎年金に上乗せてして、収入や加入期間に応じて決まる老齢厚生年金(報酬比例部分)が支給されます。
例えば、年間給与150万円のパート勤めの人なら、1年間の加入で600円、5年で3,200円、10年で6,400円、15年で9,600円、20年で12,800円、25年で16,000円、30年で19,200円が基礎年金に「終身」上乗せされることになるのです。
下の表は、厚生年金保険への加入によって増える年金額(目安)を、年間給与および加入期間別に示しています。「公的年金シミュレーター」や「ねんきんネット」を使えば、パソコンやスマートフォンから、さまざまなシナリオで将来の年金額をシミュレーションすることができるので、ぜひ一度お試しください。
<年間給与別の厚生年金額(月額)の目安>
厚生労働省「社会保険適用拡大ガイドブック」より
厚生年金保険に加入できる人は年収を気にせず働こう
今回は、2024年10月の厚生年金保険の適用拡大が、パートやアルバイトで働く短時間労働者にもたらされるメリットについて、目安となる金額も示しながら解説をしました。厚生年金保険に加入する一番の価値は、収入が増えるほど、また長期間働くほど、将来の年金額が増える点にあります。
それにも関わらず、第3号被保険者を中心に、社会保険料の負担を回避するための就業調整を行う人が依然として多いのも事実です。自分名義では基礎年金しか受け取ることができない短時間労働者や第3号被保険者にとって、厚生年金保険への加入は、みなさんが想像している以上に、老後のくらしや万が一のリスクに対する賢明な備えとなります。
保険料の負担による現在の手取り収入の減少ばかりに目を向けるのではなく、一連の適用拡大がもたらす、短時間労働者でも就労の意欲次第で年金額を増やせるチャンスを活かしていきましょう。
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神中 智博 ファイナンシャルプランナー(CFP®)
1992年宮崎県生まれ。関西学院大学会計大学院を修了後、NTTビジネスアソシエ西日本で、NTT西日本グループの財務や内部統制等の業務に従事。2022年10月に兵庫県神戸市で独立系FP事務所ライフホーカーを開業し、現在に至る。家計相談に加えて、公的年金や確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)を活用した資産形成に関するテーマを中心に、執筆・講演活動も展開。「老後不安バスター」として、だれもが老後に向けて自信を持てる社会を目指して奮闘している。CFP®(日本FP協会認定)の他、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー、企業年金管理士(確定拠出年金)、一種外務員資格等を保有。
X(旧Twitter)→https://twitter.com/lifehawker
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