23/07/27
年金の繰り下げを選びたいけど不安…選ぶなら知るべき3つの安心ポイント
年金の受給額を増やすテクニックとして、公的年金のもらい始めを遅らせて受取額を増やす「繰り下げ受給」が注目されています。「人生100年時代」の長い老後に備えて、生活資金の手当てに有効との考えが広がってきているためです。しかしながら、現実には約1.2%の人しか支給の繰り下げをしていないそうです。なぜでしょうか。
それは、繰り下げ受給の制度そのものがこれまで世の中に普及していなかったためではないでしょうか。制度をよく知らなかったり勘違いしたりして、繰り下げ受給することに躊躇している方もいると思います。そこで今回は、年金の繰り下げを選びたいけど不安と感じている方に向けて、選ぶなら知っておくべき3つのポイントを紹介します。
年金の繰り下げ受給でどのくらい増える?
基本的に、年金の支給は65歳から開始されます。しかし、希望すれば60~75歳の範囲で支給年齢を選択することができます。このうち66歳以降に支給を遅らせることを「繰り下げ受給」と呼んでいます。
繰り下げ受給の期間は、月単位で選ぶことができます。1カ月繰り下げるごとに年金額は0.7%増加していき、上限の75歳まで延ばすと84%増える仕組みとなっています。たとえば、老齢基礎年金の受給額が79万5000円の人が年金の繰り下げを10年間行った場合、75歳から受け取れる老齢基礎年金は146万2,800円になるイメージです。
また、繰り下げ可能な年齢は早くて66歳である点も確認しておきましょう。1年待ち、66歳0カ月になって12カ月分、8.4%の増額分から繰り下げが可能となり、最大75歳0カ月まで1カ月単位で増額が可能というわけです。
●繰り下げ受給による増額率
日本年金機構HPより筆者作成
請求した時点の増額率は、一生変わりません。つまり、75歳まで繰り下げると、84%増額した年金を死ぬまで毎月受け取れるというわけです。
さきほどの年間79万5000円の受給額の例であれば、75歳から亡くなるときまで、ずっと146万2,800円を受け取ることができるということです。これは、かなりありがたいですよね。このように受給を先延ばしすることで確実に年金額を増やすことができますので、生活に余裕のある間は繰り下げ受給を積極的に検討したいものです。
そうはいっても、「長生きできる保障はないから、もらえるうちに確実にもらっておこう」と考えている人も多いようです。その気持もわかります。先の見えない時代、年金受給を自ら遅らせる選択をすることに漠然とした不安を抱かない人はまずいないでしょう。実際、それが「繰り下げ受給1.2%」につながっている面もあるはずです。
そこで、年金の繰り下げ受給を選ぶなら知っておくべき3つの安心ポイントを紹介します。これを知っておけば、より安心して繰り下げ受給を選ぶことができるでしょう。
安心ポイント①:60歳以降も働いていると繰り下げしやすく、将来の厚生年金も増える
年金の受給を繰り下げている間は、年金はもらえません。その間の生活費は「貯蓄を取り崩す」、「働き続ける」などの方法で用意する必要があります。しかし、それによって将来年金額が増えれば、長生きして生活費が膨らんだときのリスクに備えやすいというメリットがあります。
例えば、65歳時点で年金受給を考える際、まだ元気で働いており、一定の収入がある場合には、繰り下げ受給でさらに年金を増やすことを検討してみましょう。判断を迷った時、働いて収入があれば、とりあえず繰り下げできる状態にしておくのがよいでしょう。
あまり知られていないのですが、65歳時点で決めるのは、65歳から年金をもらうのか、遅らせるのかという点だけで、何歳からもらうかまでは決める必要はないのです。「そろそろもらいたい」と思った時に年金事務所で繰り下げ受給開始の手続きをすれば、そこから増額された年金が受け取れるという流れになりますので、65歳以降も働いて一定の収入があれば、繰り下げ受給の選択がしやすいでしょう。
安心ポイント②:繰り下げは国民年金・厚生年金別々にできる
とはいえ、65歳以降も働いたり貯蓄を取り崩したりしながら年金を受け取り始めるまで対応できる人がいる一方、仕事のめどがたたない、貯蓄が足りなくて生活費が心もとないという人もいるでしょう。そのような方は、繰り下げをあきらめるしかないのでしょうか。
実は、年金の繰り下げ受給は、老齢基礎年金(国民年金)と老齢厚生年金(厚生年金)別々に行えます。そのため、「老齢厚生年金は65歳から受け取って老後の生活に使い、老後基礎年金は繰り下げ受給で増額をする」「十分な蓄えがあるので、老齢基礎年金は70歳まで、老齢厚生年金は73歳まで繰り下げをして、それぞれ年金額を増やす」などの使い分けをすることができます。
また、夫婦の場合は年金を家計の状況に合わせて、どのように受給するか総合的に考えて検討するのが良いでしょう。
具体的には、夫の老齢基礎年金と老齢厚生年金、妻の老齢基礎年金と老齢厚生年金の4つを別々に考え、それぞれの受給金額を計算しながら、繰り下げした場合の受給開始年齢を細かく検討することが大切です。
安心ポイント③:70歳以降も安心して繰り下げ待機できる「5年前みなし繰り下げ制度」
さらに、2023年4月から「5年前みなし繰り下げ制度」がスタートしました。
そもそも法律では、年金を受ける権利が発生してから5年を経過したとき、時効によって権利は消滅すると定められています。例えば、繰り下げ受給をするつもりだったけれど、何らかの事情で繰り下げるのはやめて、過去の年金を一括で受け取りたいと考えたとしましょう。それが70歳を迎えた後の請求であれば、待機期間が5年を超えますから、5年以上前の年金は時効により消滅してしまうというのが原則的な考えです。
その原則ルールに乗っ取り、以前は例えば「73歳時点で年金を一括で受け取る」という場合、もらえるお金は68~73歳の5年分のみで、その後は「65歳時点の年金額」が支給される仕組みでした。
しかしながら、高齢になると急な病気やケガ、介護施設の入居一時金が必要になったり、自宅をバリアフリーにするためのリフォーム代がかかったりするなど、想定外でまとまったお金が必要になるケースはいくつも考えられます。せっかく年金受給を我慢して将来もらえる金額を増やしても、いざというときに使えないお金になってしまっては、安心して繰り下げ待機をすることができませんよね。
このような不安を解消するため、70歳到達後に一括で本来の年金を受け取ることを選択した場合でも、請求の5年前に繰り下げの申し出をしたものとみなし、増額された年金5年分を一括して受け取れるようになったのが「5年前みなし繰り下げ制度」です。
5年前みなし繰り下げ制度では、例えば、73歳時に繰り下げはせずに本来の年金を受け取る場合でも、5年前の68歳時に繰り下げの申し出があったものとして年金額を計算してもらえます。そうなると65歳から3年間の待機期間があったものとみなして、「0.7%×12カ月×3年=25.2%」で25.2%年金受給額が増えます。つまり、73歳の請求時点では、本来の年金に25.2%増額された年金が5年分まとめて受け取れ、その後は「68歳時点の増額された年金」を受け取り続けることができるのです。
このように、途中で事情が変わっても臨機応変に対応できるこということを理解するだけでも、繰り下げ受給のハードルが一段下がりますよね。
まとめ
繰り下げ受給はもちろん良いことばかりではありません。増額率が上がるとはいえ、受給できる期間は短くなるので、早めに亡くなってしまった場合に損になる可能性はあります。それでも、筆者が繰り下げ受給をおすすめするのは、年金は損得で判断すべきではないと考えているためです。
老齢年金は「長生きリスクに備える」ための保険です。働くことも動くことも満足にできない状態になって、現金収入を得る手段が年金だけになったときのことを想像するととても心細い気持ちになりませんか。何歳まで生きられるかは誰にもわかりませんが、65歳から75歳にかけて経済的にも健康的にも問題がなければ、やはりメリットは大きいと考えています。
“人生100年時代”といわれている今、これからは65歳を過ぎても働ける間は頑張って働き、年金を繰り下げて少しでも受給額を増やすことが、現実的な年金受給の選択肢の1つとなっていくと思います。中でも、女性は男性よりも平均寿命が長いため、老後に備えて、前向きに繰り下げ受給を活用してみてはいかがでしょうか。
【関連記事もチェック】
・年収500万円、600万円、700万円の人がiDeCoを満額やると、ふるさと納税の限度額はいくら減るのか
・【年金早見表】年収200万、300万、400万、500万、600万円の人がもらえる年金額はいくら?
・「年収300万円世帯」が国からもらえるお金はけっこう多い
・退職後にやってくる「3つの支払い」、放置で起こり得る緊急事態
・年金受給者でも確定申告で還付金がもらえる事例5選
KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
この記事が気に入ったら
いいね!しよう